◆謎の潜水艦

 潜水艦の中には誰もおらず、人がいた痕跡も残っていなかった。

操縦桿の方を見ると、ボタンやレバーが数え切れないくらいの数ついていた。


 潜水艦はもちろんのこと、この空洞自体人気がほぼなかった。仮に誰かいたとしても、せいぜい恐れ知らずなシンぐらいしかいない。

自分一人しかいないということは、誰からも邪魔も干渉もされずに好きなようにやれる、ということ。


「ここを、僕だけの秘密基地としよう。誰も見てないし、誰も来ないから安心で自由だね!」


 学校や施設とは違い、うっとうしい大人たちの監視や周囲の目線も一切ない。

シンにとって、まさにここは最高の秘密基地にふさわしい場所だといえた。


 操縦席に座ったシンは潜水艦を秘密基地とし、窮屈な日常からの開放的な気分にしばらく浸った。

だが急に、シンは席から立ち上がり、後ろを振り返った。

楽しい非日常の気分から、ふと我に返ったのだ。


「もうそろそろ門限じゃない?」


 時計がないので詳しい時刻はわからないのだが、時間の経過的にもうすぐ門限の時間が来るような気がした。

シンの施設では門限をはじめとするルールがきつく、内容も窮屈なものが多い。

特に時間には厳しく、遅刻をした場合はお仕置きとしておやつ抜きにされるほどだ。


「このままじゃ怒られちゃうし、おやつが食べられなくなっちゃう!」


 かといって今更歩いて帰ろうにも、調子に乗って最奥まで来てしまい帰り道がわからない。

そうして焦っている中、懐中電灯の電池が切れて光らなくなった。


「光らない!? これじゃ何も見えない……!」

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