第二章・謎の潜水艦
◆窮屈な施設生活
あの巨大海底地震から、八年。
崩壊した建物は元通りになり、人々は元の生活を取り戻すなど、街では順調に復興が進んでいた。
ただ、震動で割れて機能しなくなったドームと、そのドームに守られていた街は、今も壊滅したままだった。
十四歳になったシンは、学校に行っては施設に帰る、という規則的だが刺激のない日々を送っていた。
ただ、そんな今でも、自然科学に対する興味は変わらなかった。図書室に寄っては気になる本や図鑑を読んだり借りたりするのが、放課後の日課となる程だった。
今度は、人間のルーツにまつわる本を、手に取る。
__知能を発達させたとある深海魚は、巨大な泡のドームに隠れて外敵から身を守ることにした。
空気で満たされたドーム内に適応するため、鰓呼吸から肺呼吸へ、そして、ヒレで泳ぐのではなく足で歩くように進化。進化の結果、偶然にも人間という奇妙な種が生まれたといわれている__
「それは……何か、違う気がするんだよな」
人間は、深海魚から進化した。
人間の手足は、魚のヒレだった。
現在の科学ではそれが通説のようだが、シンは疑問と違和感を抱かずにはいられなかった。
「だって、深海魚から進化したはずの人間が、暗いより明るい環境の方で活発になるのって、おかしくない? それに……」
深海魚と人間の絵をシンは交互に見たが、何回見ても深海魚と人間が似ているとは思えない。
「……深海魚が進化したとして、いきなりスリムな体型になって頭だけ大きくなることがあるかな?
いくら長い時間がかかったとはいえ、ヒラヒラな魚のヒレが、こんなに長い腕と器用な手と速い足になるのは、やっぱり不自然な気が……」
シンにとって自然科学の本は、つまらない施設生活の中における数少ない楽しみでもあった。
ただ、ここ最近、シンには一つだけ悩み事があった。
シンは大体勉強ができる方ではあるものの、苦手教科の国語だけはずば抜けて点数が下の下だ。
そこで少しでも点を高くしようと、できることから取り組んだこともあった。
しかし、いずれにしろ点は思うように上がらず、国語の勉強は行き詰まる一方。
机についてもうまく頭が回らず、シンの中で焦りが募るばかり。
そんな時は一旦深呼吸をして心を落ち着かせる。
そうすることで、思わぬ名案をひらめくものだ。
「良いことひらめいた!」
シンはペンを置くと、気密服と懐中電灯を手に取り、早速外へ出た。
何かに行き詰まった時、気分転換をすれば、心がリラックスして物事がうまく進むようになる。シンは最高のひらめきを得たのだった。
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