◆被災

 今日は、苦手な国語がある日。

それでもシンは、先生の話をなんとか聞き逃すまいと、重くなるまぶたを必死に見開く。

しかし眠気に抗うことは敵わず、気が遠くなるくらい長く感じるあまり、うつむきながら寝てしまった。


「こら、シン! 授業中に寝るな!」


 いつも通り先生に見つかって、こっぴどく叱られた。シンは素直に謝った。


「ごめんなさい」

「これでもう四回目だぞ、次からは気をつけなさい」


 居眠りして怒られる。特に変わっているわけでもなく、当たり前の光景だった。


 突然、ぐらぐらと揺れるような、違和感がした。

さっきまでシンを襲っていた眠気すら完全に消えた。その代わり、シンの心に恐怖と不安が生まれた。


「まさか、地震……?」


 不安は的中し、その異常のような違和感はあっという間に、学校を……いや街もろとも壊す勢いの強い揺れへと変貌した。

シンや他の子供たちは怯え、慌てふためいた。


 海底全部が崩壊してもおかしくないような、凄まじい震動と轟音が辺りに鳴り響く。

窓ガラスは粉々に砕け、その破片が教室や廊下に無数に散らばる。

やがて壁にも大きな亀裂が走る。


 このままでは大変危険であると判断し、先生は子供たち全員を、校庭へ急いで避難させた。



「パパとママ、いつまで経っても来ない……」


 他の子供たちが家族のお迎えで次々と帰る中、シンだけはずっと、パパとママが迎えに来るのを待っていた。

生徒ほぼ全員がいなくなった後も、一人で何時間も待ち続けるシンを見かねて、先生は一声かけてあげた。


「お迎えが来なくて、ずっと待っているんだね。」


 シンは首を縦に振る。


「今日は学校に寝泊まりしていきな。学校は避難所になっているから、毛布や食べ物があるよ。

明日になれば、何か連絡が来るはずだよ」


 先生の声かけで、今日は学校で夜を過ごすことにした。

明日になったら、パパとママが来てくれるというが……とても不安だ。本当に迎えに来るのだろうか? それ以前に、本当に無事でいるのか?


「パパ、ママ、大丈夫かな……」


 終電を三時間過ぎた後も、まったく寝つけなかった。

翌日、ついに先生から連絡が届いた。


「君のパパとママは、亡くなった。おうちも、その場所のドームが壊れたから帰れなくなったよ」


 幸いにも、学校のあるドームは何とか無事だったが、他のドームのほとんどには大きなヒビが入り、中には全壊して住めなくなった場所もあったようだ。

シンの家があるドームも同様に、ほぼ完全に壊れたことで内部に海水が流れ込み、多くの犠牲や損害が出たという。


 家も家族もなくなったため、シンは児童養護施設へ移って、他の子供たちと一緒に生活することになった。

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