#21
――ディーリーが敵の総大将であるレッドを仕留める少し前。
城塞に乗り込んだラシュは城に残っていたラトジーら見張りの兵と戦っていた。
だがラトジーの実力は凄まじく、ラシュは追い詰められていた。
彼女と共に城塞に乗り込んだ仲間たちからも、不安の声が
それも当然だ。
ザザが連れてきた荒くれ者たちは、皆ラシュと戦って負けて彼女のことを認めたのだ。
そんな自分よりも強いラシュを圧倒している相手の実力は、彼らには想像もできないだろう。
「みんな! わたしは大丈夫だから! 気にせずにやっちゃって!」
すでにラトジーに敵わないとわかりつつも、ラシュは心配ないと声を張り上げた。
ここで自分の心が折れたら、味方の士気に影響が出る。
たとえ勝てない相手と戦わなければいけないとしても、けっして弱音など吐いてはいけない。
自分は今指揮する立場なのだ。
以前に母であるディーリーやクスラ、ルーニーがそうだったように、負け
「ここから気迫を増すか。いい覚悟だ。だがッ!」
それでも当然実力差は埋まることはない。
振られた一撃で折れた剣を落としてしまったラシュ。
ラトジーは
すると、彼は表情を歪めて激しく動揺し始めた。
「その顔の傷は……。おい娘! お前の名は!?」
ラトジーは剣を収め、ラシュに訊ねた。
生まれはどこだ。
父や母の名はなんというと、戦っていた彼女の素性を詳しく訊こうとした。
「故郷なんて、そんなもの知らないよ。父さんは生まれたときからいなかったし……。別れたって聞いてる……」
「そうか……。お前の父はさぞ心配しているだろうな……」
弱々しくそう言いながら
その顔は反省や後悔など、罪の意識にまみれていた。
俯きながらもラトジーは言葉を続ける。
「して、母の名は?」
「母さんの名前は……」
ラトジーが答えを聞こうと顔を上げた瞬間、彼の胸に折れた刃が突き刺さった。
彼の
苦しそうに
「お、お前の父親は……」
そして、何かを彼女に伝えようとしたが、その前に
ラシュには敵が何を自分に言おうとしていたのかはわからなかったが、彼女にとってはどうでもいいことだった。
自分に父親はいない。
いるのは
口を開いたまま息を引き取ったラトジーの死体を見つめている。
「強い人だった……。だけど、これで……。よしみんな! 大将は倒したよ! 残りの兵たちも早く倒しちゃおう!」
城塞を守っていた将――ラトジーを討ち取ったラシュの言葉を聞き、彼女と共に城に侵入した仲間たちから
――場所は城塞前へと戻り、時間はディーリーがレッドを斬り殺した場面になる。
総大将が討たれたことで、リトリー軍の間で動揺が走っていた。
だが、兵の誰もが思う。
数ではこちらがまだまだ上だ。
ここで噂に名高い
「ちぃッ!? まだやる気かよこいつら!?」
「どうやらあの将に、そこまでの影響力はなかったみたいですね」
クスラが舌打ちをしながら兵を後退させると、ルーニーもまた自分の率いる兵を戻した。
そんな二人にディーリーも続き、陣形を整え直し、向かって来るリトリー軍を迎撃する。
その戦いは面白いほど
所詮は指揮官を失った軍。
バラバラに動き、
次第に殺されていく味方を見て、ようやくリトリー軍の士気も落ち始めていた。
だが、今頃になって軍がまとまっていないことが不利だと知っても後の祭り。
戦うにも連携など取れず、リトリー軍の兵士たちが浮足立っていると、城塞のほうから旗が上がって凄まじく大きな歓声が聞こえて来た。
「あれは敵の旗……?」
「オレたちの城が!?」
リトリー軍の兵士たちが足を止め、あり得ないとばかりに城塞のほうを見ていると、馬を走らせたクスラとルーニーが彼らの前に飛び出して来る。
「テメェら、まだわかんねぇのかよ」
「あなたたちは総大将を討たれ、帰る城を失ったんです」
「負けたんだよ。アタシら
声を張り上げたクスラ。
その横ではルーニーが
そんな二人の背中を見たディーリーは、剣を掲げて叫ぶ。
「勝ち
団長の叫び声に呼応し、
誰もが剣を掲げて、この圧倒的に不利だった
自分たちは生き残った。
そして勝ったのだと。
ディーリーは勝利を確信した団員たちへ言う。
「これより敵残党狩りを開始する。この場から立ち去るならよし、刃向かう者は一人残らず
団長の声を聞いた
すでに戦意が薄れていたリトリー軍の兵士たちは、勢いに乗った敵を見て一斉に逃げ始めていた。
しかし退却を指揮する者がいないのもあってか、味方同士でぶつかり合ってしまい、混乱が増してうまく逃げることができずにいる。
馬に乗っている者はなんとか下がれたものの、歩兵や弓兵はただ斬り殺されていくだけだった。
こうして
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