#18
突然撤退を始めた
「レッド将軍! 敵は撤退を始めました! 追撃を!」
兵の一人が叫んだが、レッドはルーニーの相手をしながら考える。
このような攻め方では結果は目に見えていたはず。
これが常勝無敗といわれた傭兵団――
全く何を考えているのかわからないと。
「将軍さん。ワタシの相手をしているときに、よそ見しないでもらえますか!」
「ぐッ!? 舐めるな女がぁぁぁッ!」
ルーニーの挑発に苛立ったレッドではあったが、彼女を仕留めようにも想像以上に手こずらされていた。
男でも扱いの難しい
この女は強い。
しかし、やはり他の敵兵と同じくどこか引き気味だ。
何を考えているのだと頭に疑念が巡り、彼は戦いに集中できずにいた。
「いつまでやってんだよルーニー!」
「新手か!? こいつも女!?」
そこへクスラが現れた。
クスラは馬上から立ち上がると、そのまま宙へと飛んでレッドに向かって剣を振り落とした。
それを防いだレッドだったが、彼女は巧みに馬を操って再び騎乗。
身体に巻いていたナイフを投げ、レッドを牽制してそのままルーニーと共に下がっていく。
「こんなときに一騎討ちなんて、なに考えてんだよアンタは」
「でも、時間は稼げたでしょう。本当は首を取りたかったですけど。あの人、思っていたよりも強かったです」
二人の女の姿は吹き荒れる
レッドは考える。
やはりおかしい。
後から現れたあの小柄な女もまた、長身の女に
騎乗の技術もさることながら、あの獣のような身のこなしのうえにナイフ投げも正確に急所を狙っていた。
たとえ囲まれている状態だとしても、二人掛かりならば自分を打ち取る絶好の機会だったはず。
それが一目散に撤退していった。
レッドが彼女たちを追撃するのを
「レッド将軍、追撃のご命令を。このまま奴らを逃がしたとなったら、手柄を立てる機会を失った兵たちから不満が噴き出します」
その通りだとレッドは思った。
たかが200人そこら兵力を前に腰が引けたとあっては、後で上から何を言われるか。
それに相手は常勝無敗の
誰もが負け知らずの傭兵団を討ち取りたいと思っている。
迷うな。
敵は少数。
たとえどんな策があろうとも我が軍が負けるはずがないと、レッドは追撃の命を出した。
「全軍、これよりも追撃に移る!」
撤退した
二人は馬を走らせながら振り返り、追撃を始めたリトリー軍の動きに目をやる。
「これはさすがに
「殿はいらねぇよ。とっくにみんな本陣に戻ってる。なにもかも姉さんの
「さすがディーリー姉さんですね。でも、ここからが本当の戦いです」
クスラとルーニーが本陣に戻ると、撤退したすべての団員がすでに陣形を取っていた。
前衛にいる者らは馬を乗り捨て、皆が大きな盾を構えている。
この陣形はファランクスと呼ばれる古代において用いられた槍を持つ重装歩兵による密集陣形である。
集団が一丸となって攻撃するファランクスは、会戦において威力を発揮したといわれた。
手持ちの大盾を前に突き出し、最前列の兵士は前面に、後列の兵士は上方に並べ持ち、槍をその隙間から出して戦う。
ディーリーはこの陣形を、あえて防備のために使った。
さらに後方には遊撃隊としての騎馬兵。
そして、その場に並んでいるのは弓兵だ。
「クスラ! ルーニー! よくぞ無事に戻った!」
二人が戻って来たことを確認したディーリーは、叫ぶようにいうと皆に声をかける。
「さあ奴らが来るぞお前たち。ここが正念場……全員絶対に死ぬなよ! 生き残れば私たちの勝ちだぁぁぁッ!」
団長の
――これから
ラシュはザザたちと共に、城塞の前まで来ていた。
戦場を
「それにしてもついてるな」
いくら戦闘中で目の前の相手に気が向いているとはいえ、嵐のような
常勝無敗の傭兵団には幸運の女神でもついているのだなと、軽口を叩きながら城壁を登り始める。
それは他の者らも同じ意見だった。
こんなまるで狙っていたかのように、敵の目を
「うちには女神がいっぱいいるからね」
ザザたちと違い、城壁をよじ登る経験のなかったラシュではあったが、感覚的にやり方を理解して仲間に続いていた。
そして、仲間の誰よりも早く高い壁を登っていく。
「もちろん、わたしもその女神のひとりだよ」
「そりゃまあずいぶんと小さい女神様だな」
ザザが茶化すようにいうと、仲間たちから笑い声が漏れた。
これから城に侵入するというのに彼らにはかなり余裕があるように見えるが、それほどこういう侵入方法に慣れているのだろう。
幸いなことに、ラシュたちの会話は激しい砂嵐の音で、上にいる見張りの兵には届いていないようだ。
そして、ついに城壁を登りきる直前まで来たザザたちは、指揮を
「よし。じゃあ見張りを倒したら一気にけりをつけよう」
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