#13

団員たちがいきどっている中、彼ら彼女らを代表してクスラがディーリーの言う。


「おかしいと思ったんだよ。これまでずっと落とすことのできなかった城にアタシらに向かわせるなんてさ。姉さん、うちらはハメられたんだよ」


クスラの話では、鋼の抱擁カレス オブ スティールのことをよく思わない臣下らが、今回の無茶な作戦を思いつき、プログ王の進言したのだろうということだった。


確かに考えてみればそうだった。


先代、先々代の王からの悲願だった城塞攻略――。


その重要な役目を、昨日の今日でいくさに参加した傭兵団に任すのはおかしい。


これは鋼の抱擁カレス オブ スティールを、プログ王国から排除しようと考えているとしか思えない。


「さっさと逃げちまおうぜ。こんな不義理な連中がいる国に長いするこたぁねぇよ」


「ワタシもクスラと同意見です。それともプログ軍の本隊が出てから城を奪って、リトリー国にほうに寝返りますか? きっとかなり報酬ほうしゅうが期待できると思いますけど」


「そいつはいい考えだな。うちに間者かんじゃを送るような連中を痛い目にわせてやりてぇし」


「えぇ、たっぷりとお礼をしてあげなくてはね。死にたいって自分から言い出すくらいに」


クスラの返事に続いて、ルーニーが嗜虐心しぎゃくしんき出しにした笑みを深めた。


普段は温和に見えるルーニーだが、彼女は身内以外の人間には団の中で誰よりも苛烈かれつな人物なのだ。


クスラとルーニーの発言に、団員たちも賛成のようだった。


いくら傭兵とはいえ、仮にも味方だ。


それをうとましく思い、あまつさえ殺そうする国など滅ぼしてしまえと、皆口々に声を荒げている。


そんな雰囲気の中、ラシュだけは反対だった。


彼女はこの国――プログ王国が好きなのだ。


まだこの国に来て日こそ浅いものの、ジェフとの出会いや故郷のために民たちまで奮闘している姿に、ラシュは胸を打たれていた。


それを、自分の家族ともいうべき団員たちが滅ぼそうとしている。


ラシュはなんとかこの場を収めようと考えたが、事実として鋼の抱擁カレス オブ スティールをよく思っていない臣下らがおり、団を壊滅させようとしていたので、何も言うことができなかった。


(で、でも……この国の人たちはいい人だよぉ……)


口に出せないラシュの気持ちなど置き去りにし、次第に熱気が高まっていく団員たち。


そんな彼ら彼女らに向かって、ディーリーが静かに言う。


「お前ら、何を言い出している?」


彼女の一言で今にも暴れ出しそうだった団員たちは静まり返った。


皆、息まで止めてしまったかのように黙り、口を開いた団長に注目している。


そして誰もが理解する。


ディーリーは作戦通りに、城塞を攻めるつもりなのだと。


「でも姉さん! この国の連中はアタシらを殺そうとしてんだぞ!?」


しかし、クスラは食い下がった。


連中のいいように戦わされていいのかと、必死の形相ぎょうそううったえた。


彼女もそして団員が声を荒げるのも無理はない。


だが、それでもディーリーは皆の提案を受け入れなかった。


「少なくともプログ王は私たちのことを買っている。それは事実だ。実際に会議の場では、最初は私たちのみで万の敵と戦わすつもりだったようだが、王がみずから敵の主力を引きつけると言ったのだ」


「はッ、目論みが外れたってとこかよ。それでもアタシらがムチャをやらされるには変わりねぇ」


「忘れたのか、クスラ。私たちは傭兵だ。報酬をもらって戦う。それだけだ。それに今回のことで手柄を立てれば、私たちを疎ましく思っている臣下どもを黙らすこともできるだろう」


傭兵という言葉のせいか。


それとも慕っているディーリーに言われたからなのか。


クスラは顔をしかめつつも、それ以上何を言わなかった。


それは他の団員たちも同じで、誰もがうつむきながらもにぎっていた拳を開いていた。


「わかったよ……。アタシらは姉さんについていくだけだ」


「ワタシたちは傭兵ですものね……。さあ、みんなはもう部屋に戻って、この男の始末はワタシがしておきますから」


クスラがそういうと、ルーニーも言葉を続けて団員たちを下げさせた。


去って行くと団員たちの背中を見て、ディーリーが言う。


「礼を言うぞ、お前たち。リトリー国にもプログ王国にも私たちの力を見せてやろう。鋼の抱擁カレス オブ スティールを舐めるなとな」


彼女の言葉を聞き、消沈していた団員たちの誰もが笑みを浮かべていた。


そして、互いに声を出し合い、活気を取り戻してその場を去って行った。


「よかった……。ホントによかったよぉ……」


その光景を見ていたラシュはホッと胸を撫で下ろすと、へなへなとその場に両膝をついていた。


クスラとルーニーはそんな姿を見てプッと噴き出し、ディーリーが彼女に手を貸して立たせる。


「お前という奴は、剣を振るっていないときはまるで生娘だな」


娘を強引に立たせたディーリー。


ラシュはそんな母にムッとしかめ面を向け、すぐに笑顔になるのだった。

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