#12
プログ軍本隊の出陣の日が近づき、城下町も物々しく雰囲気になっていた。
それは、王であるプログ自らが民たちに対して演説をしたからだった。
王は今回の
必ずや勝利する。
この地に平和をもたらす。
負ければこの国は滅亡するだろうと。
その覚悟の演説を聞いた民たちは、長かった戦争が今度で最後になると思うのと同時に、絶対に負けられないと、自分の立場でも何かできることはないかと行動をし始めた。
生活に余裕のある者は軍へと寄付をし、力自慢の者は兵士として参加した。
それは女性や子供たちもだ。
国民である誰もが自分の
「この国の人って、本当に自分の住んでいるところが好きなんだね」
そんな状況の中、ラシュは仲良くなった商人の少年――ジェフの店に入り
日課である早朝の訓練後は屋敷には戻らずに、ほとんどを彼の店で過ごしている。
それは、ディーリーから任された城を落とす隊の指揮を任されたからだった。
屋敷にいると、その重圧に押し潰されてしまいそうになるため、ラシュとしてはジェフといるほうが気が
「そりゃそうだよ。自分たちが生まれた国だもの」
「ふーん。そういうのって、わたしにはちょっとわかんないなぁ」
物心ついたときから傭兵団として各地を回っていたラシュからすると、
だが大事なものを守るために、自分にできることを探して行動している民たちに、彼女は好感を持っている。
生まれ育った場所というのはわからずとも、皆が
ジェフたちプログ国の人間が故郷を守りたいように、ラシュも自分の団のためならばできることをする。
そう考えれば理解できると、彼女は口ではよくわからないと言いつつも、その表情に
「そういえば、ラシュたちも
「うん。プログ軍が出た後にだけどね」
「なら、ぜったいに生きて帰ってきてね。約束だよ」
不安そうな顔で言ってきたジェフの顔を見て、ラシュは思わず顔を赤くしてしまっていた。
この言葉にできない感情はなんなのだろう。
ジェフのことを見ているとたまに訪れる胸の
「だ、大丈夫だよ! わたしは常勝無敗の傭兵団――
ラシュは赤くなった顔を隠すために、ジェフに背を向けて答えた。
そして、必ずまた彼の店に遊びに来ると約束すると、その場を早足で去って行った。
それから屋敷に戻ったラシュは、部屋に居ても落ち着かず、剣の
陽は沈んだが、夕食まではまだ時間がある。
庭に出て周囲の
しかし、城攻めの指揮やジェフのことが脳裏に浮かび、いまいち集中ができない。
「どうしたラシュ。剣が鈍っているぞ。いつものキレはどこへいった?」
そこへ母――ディーリーが現れた。
彼女は腰に下げた剣を抜くと、ラシュへとゆっくり近づいて来る。
「母さん……。そ、そんなことは……」
「そうか。私の勘違いならいいが……。どれ、久しぶりに打ち合ってみるか。ほら、早く構えろ」
ディーリーはそういうと、ラシュに向かって剣を振り落とした。
夜の屋敷の庭に、ガキンという金属音が鳴り響く。
「いきなりなにするんだよ!? 危ないでしょ!?」
「稽古だ稽古。いいからお前も打ってこい」
ディーリーは重ねた剣を強引に振り払った。
後退したラシュは母の態度に苛立ったのか、激しく打ち返し始める。
「ケガしても知らないからね」
「言うじゃないか。いいぞ。剣のキレが戻って来ている。もっと打ってこい」
母の挑発を聞き、ラシュはさらに剣を打ち込んだ。
まるで嵐のような斬撃に対し、ディーリーも負けじと打ち返す。
気を抜けば腕の一本でも斬り飛ばされそうな真剣勝負だ。
だが二人の打ち合いは、その場に怒鳴り込んできたクスラによって止められる。
「おい姉さん! ちょっと来てくれよ! 大事な話があるんだ!」
「わかった。おいラシュ。お前も来い」
二人は剣を収め、ディーリーはクスラの後について行った。
ラシュも母に言われた通りに、彼女たちについていく。
屋敷内に入ると、そこには団員たちが集まっていた。
その中心にはルーニーと、床に屈している男の姿が見える。
「これは一体何の騒ぎだ? 誰か説明しろ」
ディーリーがそういうと、ラシュは男のことを見た。
男は両手両足を縛られた状態で血塗れだった。
そのうえ片方の耳は切り落とされており、両手の爪がすべて剥がされて
誰かに拷問を受けたのは明白だ。
「屋敷に潜入していた
「間者? じゃあこいつはリトリー国の者か?」
ルーニーが答えると、ディーリーは続けて訊ねた。
すると、ルーニーは男の頭を踏みつける。
痛がる男の悲鳴を聞いた彼女は、その姿を見下ろしながら笑みを浮かべていた。
「ルーニーが聞いたとこによると、こいつはこの国、プログ国のヤツだ」
「なに? プログ国だと?」
ディーリーが表情を歪めると、クスラが話を始めた。
なんでもクスラが捕まえた後に、ルーニーによる拷問をしたところ。
男はプログ国の臣下の命令で
「な、なんで味方の人がわたしたちのこと……?」
その話を聞いたラシュは動揺を隠せずに、思わず声を漏らしてしまっていた。
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