#11

そう言ったディーリーに、クスラとルーニーは問いかけた。


初戦での勝利は敵国であるリトリー軍がこちらを名も無き傭兵団だと思い、さらに兵力の少なさに油断したところを突けた。


すでに向こうも、次に戦う相手が常勝無敗の鋼の抱擁カレス オブ スティールであることを知った状態ならば、奇襲や奇策が通用しないのではないかと。


「別に姉さんを疑うワケじゃねぇけどさぁ。そう簡単にいくかねぇ」


「クスラの言う通りですよ。先の戦いのように正面から向かってきたところを後ろから突く作戦は、敵軍に知られているでしょう。他にもやりようはありますけど、圧倒的な物量で迫られたひとたまりもないです」


二人の心配はもっともだった。


先の戦いで敵軍は、こちらの兵の数ばかりに気を取られていたのだ。


戦った傭兵団の正体が戦上手いくさじょうず鋼の抱擁カレス オブ スティールだとわかったのなら、もう油断はしないだろう。


だが、それでもディーリーの笑みは崩れない。


その顔を見て、やはり彼女には何か策があるのだと、クスラとルーニーは理解する。


「じゃあ、敵の立場になって考えてみろ。自軍の半分以下の軍と戦うなら、さっきルーニーがいったように数の暴力で押し切ると思わないか」


「だから、わかってますけど……そうか!」


「あぁ、アタシにもわかったぜ。姉さんの策が」


ディーリーが問いかけ返すと、ルーニーがハッと何かに気が付き、クスラもニヤリと口角を上げた。


ラシュには今の話からどうしてディーリーの策がわかったのだと、ひとり小首をかしげている。


彼女も母の戦いのやり方は知っているが、二人とは違ってどうもさっすることができない。


そんな頭を悩ましている娘に、ディーリーが声をかける。


「わからないか、ラシュ」


「自分が相手の立場だったらだよね? う〜ん……。はぁ……ダメ、ぜんぜんわからない……」


「もっとわかりやすく言うか。つまりは――」


ディーリーがいうに、こちらが相手よりも圧倒的に兵力でまさっているとき、多少の被害など気にせずに一気に包囲して殲滅せんめつするのが定石じょうせき


それは、いくら相手が名の知れた将軍や軍が相手だとしてもだと。


ラシュはその話は理解できたが、それがどうこちらの勝利に繋がるのかがわからなかった。


相手の数が多く、多少の犠牲も気にせずに向かって来られたら、こちらが奇襲や奇策を仕掛けようにとも動じないはずだ。


母が言っていることは、敵国のほうがこちらよりも優位な立場と口にしているようにしか聞こえない。


「まだわかんねぇのか? ようはだな。敵さんは今度もアタシらに油断してくれるってことだよ」


「でも、油断してくれても相手はうちよりも5倍の兵がいるんでしょ? それじゃ城攻めどころじゃないじゃん」


クスラの言葉にラシュが答えると、ルーニーも話に入ってくる。


「多少の被害など気にせずに全軍でワタシたちを打ち倒そうとするのなら、敵軍の城はどうなるでしょうね」


「そっか! お城がガラ空きになるんだね!」


ラシュが声を張り上げ、笑みを浮かべながら答えた。


そのまるで難しい試験に合格したかのような学生のような顔を見て、ディーリー、クスラ、ルーニーからも笑みがこぼれる。


だが、そのラシュの笑顔はすぐに崩れる。


「でも、お城の守りがなくなったって一体誰が攻めるの? こっちは大群を相手にギリギリもいいところなんだよ。そっか! そこでプログ軍が来てくれるんだね」


「それは話しただろう。援軍は一切ない。プログ軍は今回の城塞攻略のために、大がかりな陽動作戦を考えたと」


ディーリーがラシュにそういうと、クスラが口を開く。


「まあ、そのおかげで数万はいるはずの城塞の兵が減るワケだしな。そりゃ援軍も期待できないかぁ」


納得したといった表情をするクスラ。


ルーニーもディーリーの話を聞いてうんうんとうなづいている。


そこへ、ラシュはまだ話が終わっていないと声を張り上げる。


「じゃあ誰がお城を攻めるの!? いくら陽動作戦で敵の本隊を動かしたって城塞には1000人くらいはいるんでしょ!? こっちはかき集めても200人なのに、そこから兵なんかけないよ!?」


「城さえ落とせればなんとかなるさ。その間だけ持ち堪えればいいんだ」


ディーリーは初めから、少ない兵力をさらに割いて城を落とすつもりだったようだ。


ラシュはまだ不安が消えたわけではなかったが、母がそこまでいうのだから大丈夫だろうと思い、黙ることにした。


ここでいくらわめいても敵の数は減らないのだ。


これまでも団長であるディーリーの考えた作戦に間違いはなかったのだから、今度も問題ないだろうと。


「それで姉さん。誰が城を攻めるんだよ? 防衛戦になるならうちで一番頑丈がんじょうなルーニーの隊は外せないし、アタシの隊の援護も必要だろ?」


「まさか姉さんが自ら行くつもりですか? それだと総大将がいないと知られたら、敵軍に城攻めを気付かれてしまうと思うのですけど」


ディーリーの作戦を理解していたクスラとルーニーだったが、肝心の城攻めを誰に任すのかはわからずに訊ねた。


手薄になったとはいえ敵兵は残っているだろうし、今回の作戦のかなめともいえる重要な役割だ。


正直、鋼の抱擁カレス オブ スティールの中でもできる者は、先に彼女たちがあげた三人しかいないと思われたが――。


「あぁ、その役はもう決めている」


「誰だよ? アタシら以外のヤツだと……」


「ちょっと思いつかないですよね。うちの人たちはみんな優秀ですけど、指揮をできる人材となると、一体誰に任せればいいのか」


クスラとルーニーが両腕を組んで悩み始めると、ラシュも誰かいたかを考え始めた。


鋼の抱擁カレス オブ スティールは100人ほどの小さな傭兵団だ。


これまでそれを分隊させたことはあったが、ディーリー以外ではクスラとルーニーが担当している。


ようするに、3人以外に隊を指揮した経験のある者などいない。


母は一体誰に任せるつもりなのだろうと、ラシュは考えてみてもわからなかった。


ディーリーは、そんな彼女とクスラ、ルーニーが顔をしかめているの見て言う。


「潜入隊の指揮はラシュに任せる」

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