#10
ディーリーがそう言っても、団員たちは誰もその場から離れなかった。
それは彼女のことを
事情があって故郷にいられなくなった元貴族や、奴隷として買われて主人を殺して逃げた者、さらには異教徒出身の人間もいる。
そんな
道端で飢えて死ぬだけだった彼ら彼女らに手を差し伸べ、死にたくないのならついて来るように声をかけたのだ。
中には盗賊団だった者たちがディーリーに挑んで敗れ、その流れで
町でラシュがジェフを助けたときにしてみせた男との戦い後の行動は、彼女がディーリーのしていたことを
慕っている母のしていること――。
敵であっても気に入った部分があれば、仲間に引き入れる度量の広さに憧れ、ラシュも常々そうするように心がけている。
ディーリーはけっして差別や偏見を持たない人間だった。
たとえその者が過去に何をしていたのかなど気にせず、人が
嫌な顔などせずに、その者に心からの敬意と愛を持って接する。
それは、ディーリー本人が異形だからなのか(彼女の焼け
彼女がどこの出身で
ディーリーの言葉で静まり返った屋敷内。
しばらくすると、団員たちが声を出し始める。
自分たちは何があっても
我らが団長ディーリーから離れない。
たとえそれが死ぬことになるとしても、いや、死ぬよりも苦しい目に
植物に太陽が必要なように、人間にも照らしてくれる光がないと生きてはいけない。
ここに居る誰もが、これまでの人生で
自分自身が人の上に立つ人間ではないと自覚しているのもあって、自らを従える救世主を求めている。
そして、彼ら彼女らはその人物にディーリーを選んだ。
金さえもらえば味方をも裏切ることが多い傭兵団の中で、
「今さらなにをいってんだ。アタシらが姉さんから離れるはずないだろ? ついてくるなっていわれたって一生ついてくよ」
「そうですよ。ワタシたちはたとえこの身を焼かれようとも、
皆が声をあげる中、クスラとルーニーが、まるで団員を代表するかのように前へ出てそう言った。
ディーリーはそんな二人と団員たちを見ると、先ほど床に突き刺した剣を持ち上げてクスリと微笑む。
ラシュはそんな母とクスラ、ルーニー、そして団員たちを見て胸が熱くなっていくのを感じていた。
時代はまさに戦乱の世。
人々の神への信仰は薄れ、誰もが自分さえ良ければいいという雰囲気の中で、ここには確かな絆がある。
自分はディーリーの――母の子でよかったと心の底から思える。
ラシュはうまく言葉にはできなかったが、
「では、作戦会議と行こう。クスラとルーニーは私の部屋に来い。それからラシュ、お前もだ。他の者らは
「えぇッ!? わたしも!?」
ラシュは顔を拭って声を張り上げた。
今まで作戦会議に出ていたのはクスラとルーニーだけだったというのに、自分まで呼び出されたからだ。
一体母は何を考えているのだろうと思いながら、クスラとルーニーに続いて、彼女も階段を上がっていく。
先を歩くディーリーの背中を追いながら、ラシュはクスラとルーニーに訊ねる。
「ねえ、母さんはどうしてわたしなんかも呼んだんだろう?」
訊ねられたクスラは
「さあ、また一騎討ちしろとかじゃねぇの?」
「いえ、きっとあれですよクスラ。ほらさっきの人たちの」
「あぁ、あいつらのことでか。こりゃ面白いことになりそうだなぁ」
クスラとルーニーはディーリーの意図を理解しているようだったが、ラシュにはそれが何なのかわからなかった。
それから屋敷の廊下を進んでディーリーの部屋へと入る。
中は特に他の団員らの部屋と変わらない客室だった。
こういうところでもディーリーは他の者らとの差を作らない。
今回は寝床が広い屋敷というのもあり、部屋は分けられているが、戦地によっては団員たちと
「じゃあ、早速話すとするか。とはいっても、いつも通り難しいことなど何もないのだがな」
「バラけて囲って殺す。そういうことだろ、姉さん」
「奇襲に奇策はうちの専売特許ですからね」
部屋にあった椅子に座ったディーリーに続き、クスラがテーブル、ルーニーはベットへと腰を下ろす。
ラシュが自分も三人と同じように座ったほうがいいのか悩んでいるとき、彼女たちは話を続ける。
「でもよぉ、姉さん。今回は平原での戦とはワケがちがうぜ」
「そうなんですよね。こちらの5倍の兵力を相手にしなきゃいけない中での城攻めですから」
城塞攻略戦の問題点について話したクスラとルーニーに、ディーリーは余裕の笑みを浮かべて言う。
「それくらいわかっているさ。だが、それでも今回も私たちの勝利は揺るがんよ」
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