#9
「知ってるかラシュ。ミモザは春の象徴。その季節の訪れを知らせる花なんだぞ」
「それと、黄色のミモザの花言葉は“秘密の恋”なんですよ」
屋敷にある自分の部屋にジェフからもらった花束を花瓶に移したラシュに、クスラとルーニーが笑いながらそう言った。
柄の悪い男の集団の一人からジェフという少年を助けたことや、その後に揉めた男を
ラシュがもう勘弁してくれと思っていても、二人はけして花のことやジェフの話を止めない。
「今度会わせてくれよ。アタシがそのジェフってヤツがイイ男か見極めてやる」
「助けてくれたお礼に花を贈れる子なんだから、きっと良い子ですよ、クスラ。ワタシも是非とも会いたいですね」
「二人とも母さんと同じこと言って……。もういい加減にやめて、からかうの……」
クスラとルーニーに
初めてきた国で、見知らぬ同性代の男の子から贈り物をもらったのだ。
このところ名を上げてきた
団の中心人物であり、立ち上げ当時からのメンバーであり、さらにはラシュの姉のような二人なのだからそう思うのもしょうがないと思っていた。
これまでそういう浮いた話がなかった妹が、男から花を贈られたと聞けば、誰でも興味を持つだろう。
しかしラシュからすると、正直いえば
ラシュがそう思っていると、部屋の扉がノックされた。
扉の外にいる団員からは、これからディーリーから全団員に話があるということだった。
ラシュはこれは救いの手だといわんばかりに、クスラとルーニーに声をかける。
「ほら母さんが呼んでるんだから、二人ともいつまでもふざけてる場合じゃないよ」
「あぁ、きっと王宮でなんかあったんだろうな」
「これからの
クスラとルーニーの表情は変わっていた。
それまでの
ラシュはそんな二人の顔を見て、なんだかんだいっても頼りになると微笑み、彼女たちと部屋を出た。
一階から天井まで突きつけている屋敷の玄関には、すでに団員たちが集まっており、そこにある長い階段を上がった先にはディーリーの姿が見える。
先ほどまで町でラシュに冗談をいっていた人物とは思えない凛々しさで、彼女は団員たちを見下ろしていた。
その整った顔がいつも以上に美しく見える反面、焼け
「全員聞け。先ほど王宮の会議にて、プログ王はある決断をした」
大声を出しているわけではないが、ディーリーの声はその場にいる全員の耳へと入っていた。
それはまるで、静かに吹いた風が全身を
「王は次の戦でリトリー国と決着をつけるつもりだ。そこでプログ王国が何年もかけて落とせなかった城塞攻略を、私たち
ディーリーの言葉を聞いた団員たちは、誰もが冷や汗を
そんな彼ら彼女らを見て、ディーリーは話を続けた。
王宮で
こちらの数は約100人
ディーリーたちの活躍を聞いて団に志願する平民や盗賊まがいの者たちや、町でラシュが誘った男たちを加えても、それでようやく200人――5倍の兵力差だ
その事実に、これまでディーリーの意見に文句をいうことなく付き従っていた、クスラやルーニーですら言葉を失っている。
だが、ラシュだけは違った。
彼女は皆のいくらなんでも無謀だなどとは思わずに、母に何かその兵力差をひっくり返せる策があるのだと思っていた。
顔が青ざめた団員たちを見たクスラとルーニーは、互いに顔を見合わせると、ディーリーに向かって言う。
「ちょっといいか。姉さんがやるっていうんならアタシらはついて行くけどさ」
「プログ王国軍からはどのくらい兵を回してもらえるのでしょうか?」
二人の訊きたいことは、プログ王国から出してもらえる兵の数だった。
難攻不落といわれた城塞を任せたのだから、最低でも400人、いや300人の兵はほしいところだ。
少なくとも500人の兵がいれば戦い方はある。
その話を聞いた団員たちの顔にも、安堵の表情が浮かんでいた。
だが、ディーリーは静かに言う。
「援軍はない」
「なんだってッ!?」
「そんなッ!?」
クスラとルーニーの悲鳴のような返事を聞き、団員たちが騒めき出した。
こんなのは捨て
これにはさすがにラシュも
団員たちは次々に口を開く。
金を払えばなんでもすると思ってやがる。
初戦は誰のおかげで勝てたと思っているんだ。
こうなったらリトリー国へ寝返ってやろうかなど、プログ王国を裏切ってやるとまで言い出していた。
そんな暴動でも起こりそうな空気の中、ディーリーが腰に下げていた剣を抜き、床へと突き刺す。
「静かにしろ。文句があるなら、今すぐ私のもとから去ってどこへでも行け」
その一言で、
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