#4
皆が杯を手にし、肉にかじりつきながら酒を豪快に飲んでいる。
その中心にはもちろん団長であるディーリーがおり、傍には団の立ち上げ時からいるクスラとルーニーの姿があった。
「みんな! 今日もアタシらの勝ちだ! 今夜は思う存分飲み明かそう!」
クスラが団員たちに
そして、この宴の主役は団長であるディーリーの娘――今回の
「皆さん、今回の主役の登場ですよ! さあラシュ」
「え、やっぱいいよぉルーニー。わたし、こういうの苦手……」
「いいからいいから」
ルーニーは恥ずかしそうにしているラシュの背中を押して、宴の中心へと連れてきた。
その幼い顔には傷が残っているが、戦場でついたものではなく、生まれついてのものらしい。
焼け
他の団員らも彼女二人と変わらず――いや、それ以上に容姿が
病気により顔の原形を失った者や、奴隷として
さらには
ディーリーはそんな者たちを集め、この常勝不敗の傭兵団を結成した。
最初こそ盗賊と変わらぬ
そうはいっても、この団には本来弱者しかいない。
だがそれでも団長であるディーリーが各自の個性を見極め、そしてそこを伸ばした結果――その名声はプログ王国だけでなく周辺諸国でも名の通った傭兵団となったのだった。
その影響か。
散々世界から痛めつけられた彼ら彼女らからすれば、家族ともいえる仲間や居場所、そして生きる意味を与えてくれたディーリーは、まさに信仰の対象――神ともいえる存在だろう。
ラシュはそんな母のことを誇りに思っており、たとえ人が
「主役がなにシケた面してんだよ。ほらみんなに応えてやれよ」
縮こまっているラシュにクスラが声をかけた。
その顔は真っ赤になっており、すでに酔っ払っていることがわかる。
「で、でも……結局、クスラとルーニーがいなかったらやられてかもだし……」
「なにいってんだ? 剣で敵将を圧倒したのはお前だろ」
「そうですよラシュ。ワタシたちはあなたをちょっと手伝っただけです」
クスラが自信なさげに返事をしたラシュの肩に手を回し、ルーニーがニッコリと微笑んで彼女の後に言葉を続けた。
団員たちもその通りだと言わんばかりに、皆がラシュの功績を
そしてディーリーが彼女の前へと立ち、その口を開く。
「二人がお前も助けたように、お前も皆を助けたんだ。もっと胸を張れ」
「母さん……。うん!」
ラシュは母の言葉に答えると、持っていた杯を一気に飲み干した。
それから目の前に並べられた肉の
彼女の大好きな子牛肉とチーズの料理だ。
ラシュはあっという間にそれら料理を平らげて、次々と手づかみで肉を口へと運んでいく。
その様子を見て、ディーリーもクスラもルーニーも、そして団員たちも皆大笑いしていた。
一体その小さな体のどこにそれだけの料理が入るのだと、顔をソースまみれにして食べ続ける彼女を見て喜ぶ。
「よし、皆もラシュに負けずに食え。今夜は朝まで飲むぞ」
ディーリーが団員たち向かってそう声をかけると、皆が杯を掲げて応えた。
その盛り上がりは、離れていたプログ王国本陣にも届くほどで、
表情を見ればわかるが、誰もが
たかが今回の遠征の初戦を勝利したくらいで、どうしてこうも浮かれていられるのだと言わんばかりだ。
「聞きましたか、あのディーリーとかいう団長のこと」
諸侯らの一人が口を開くと、他の者も話を始める。
「ああ、誠に由々しき事態だ」
「たしかに
「所詮は素性もよくわからん傭兵ども。金次第でいつ敵になるかもしれん連中だ」
「それに奴らは元々は盗賊だったというではないか。
「あの女の連れている者らを見ればわかるよな。団員らも
「何よりもあの女の焼け爛れた顔。酷い面相で見てられぬ。あれは何かの呪いだろう」
これ以上
しかしディーリーたちがいなけれなば、彼らは敵国であるリトリー国によって攻め滅ぼされる。
一体どうしたのものかと、彼らが頭を悩ませていると――。
「では、こういうのはどうでしょうか」
諸侯らの一人がそう言うと、皆に耳打ちを始めた。
その話を聞いた彼らは、実に素晴らしいと口にして互いに笑みを交わし合う。
「では、明日城に戻ったら早速プログ王に進言するとしよう」
そして話を終えた諸侯らは、今宵は久しぶりに安心して眠れそうだと言いながら、天幕を出て行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます