第26話 完済しました。その2

「何を読んでいるんだ?」

「え?ああ、、王城の事務官の問題集。冬に試験があるから。」

「・・・・は?」

「国税官もいいなと思ったんだけどね、、、ほら、ハルが、近くにいろって言ってくれたから。ふふっ」

「・・・・・お前って、、、よく当たるけど、自分のことは占えない占い師的な?」

「何言ってるのか、、、解んないんだけど?」


王太后陛下の離宮の中庭で、一緒にお昼を食べて、ハルのお昼寝に付き合う。

結局、自領には帰らず、警備の問題がある、というので、本格的に離宮に引っ越してきた。警備の問題?私が何かまた、やらかすとでも?




季節はもう、秋。



イリアの王が、国王に従属を申し出た。

イリア国の王冠と、長男を預かることに。

でかいサファイヤの裸石が献上された、、、これまた、忙しい日々だった。


連れて行った軍は、引き続き治安維持にあたらせている。

内乱で荒れ果てたイリア国内に、食糧支援がユーハン領から。農業支援員も出してくれた。鉱山管理がラーシ男爵家から。鉱山技師と労働管理者を派遣。イリア国内の財務管理と徴税管理に国税庁から税務官が。そしてなんと、、港湾の工事にナタリーの父が名乗りを上げて、兄に爵位をさっさと譲り、技師を連れて出かけた。

これにはおまけもついて、、、工学好きなハワードも同行した。


「5年で建て直せ。」


と王命があった、、、その後の出来によって、独立させるつもりだ。

そうそう、モーガン商会は宝石の技術者を育成する専門の学校を現地に設立するつもりらしい。いい石がたくさん採れるので。

教会も動いた。炊き出しや、教会の再開、付属の学校の整備など、、全面的に協力している。

国内から、街道の整備も進んでいる。いい輸出国に育つだろう。

栄国には、今改修工事している軍港を、貿易港として開放する。寄港地としても使える。充分メリットはあるはずだ。


イリアの王太子は王立学院に入った。人質みたいなもんだが、意外と楽しくやっているらしい。



「私も、、、イリア行が良かったなあ、、、」

「ん?」

「ほら、これ、読んだ?【亡国の赤い姫と、漆黒の王子の恋】、、兄がまた新刊を出したみたいで、、、」

「・・・・・ああ、、、」

「亡国の新王の戴冠式で、赤い髪の聖女様が、白いヴェールを取って、言うのよ!!私の顔を忘れたの?大臣?ああ、見たかった!」

「・・・・・」

「それでね、、、新国王に手を引かれて、漆黒の王子の元に、、、、待たせましたね、って笑いかけるのよおお!!でね、大臣の悪行が暴かれ、野望は破れて、国民の歓声の中、二人は、、、」

「・・・・・知ってる。」

「この読み物、、、国内も、イリア語版も出てるのよ。すごく売れてるみたいよ。」

「・・・・・」

「やるわね、、、兄上、、、」


何に感心しているんだ?


「そういえば、ユーハン領にも、国税官が一名出向したらしいぞ。あの、自分に厳しい女性税務官みたいだな。事務官も何名か国から出している。」

「・・・ああ、、、なんか、、兄上が失恋する未来が見えましたね、今。」

「・・・?」

「仕事に厳しい女性が、、、自分に甘々な領主に翻弄される未来が見えますね。本当に、、、農業だけ、やりたい人ですからね、、、」

「・・・・・おまえ、、、」

「?」

「俺と、、、お前の未来とか、、、見えない?」

「え?ハルが王位継承するまで、私も頑張って秘書官まで上がりたいなあ、、、って。」

「・・・・・」




*****


ハルには呆れられるが、、、、


兄が読み物として出した冊子には、、、半年前にハルが、、、調査し、証拠を集め、証人を確保し、新王側も教会にも根回しし、、、内政干渉にならないように、、大臣の罪状を、王女に暴かせる。、、そうすることによって国民の誤解を解き、まとめ上げる、、、、そうして、新王への信頼の回復と、、、戴冠式に招かれていた婚約者に、、ルーを返す、、、と、そこまでは書いてはいないが、まあ、そういう事なんだろう。


私はルーも、フェイロンも大好きだった。

何とかしてあげたかった。

でも、なんにもしてあげられなかった。

こんな手を打てるハルは、、、すごい、と、心から思う。


この話を読み物にして、イリアのすべての教会に寄贈した兄も、、すごいと思う。

子どもたちはこの本を読むだろう。翻弄された自国が再生していく過程を見るだろう。


さて、、では、私は何ができるか?

ハルを、、、次期国王を支えるには、、、

宰相には、、宰相補佐になったウィル様が立派に勤め上げるだろう。

側にいることを許されたのだから、、、国王の秘書官になって、忠誠を誓おう。
























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