第25話 完済しました。その1

議会中に、大至急の文書が来た。差出人は祖母。何?


【今日、屋敷にユーハン侯爵が来て、ナタリーがとても喜んでいた。

何か、、愛している、とかスゴクうれしい、とか、聞こえたので、本格的にプロポーズされたかもね。彼女のあんなに明るい顔は久しぶりに見たよ。ユーハン侯もなかなか見目いい男だったわ。

ナタリーは明日、領に帰るらしいわよ。荷造りしてる。

渋っていた国王からの褒美は、壺代でいいと言ってきたから、、、あなたにもよろしくって。

取り急ぎ、お知らせまで。】


ん?


内容がよく呑み込めずに、、、もう一度読む。


ん?



*****

お天気が良かったので、部屋の窓を開けて荷造りをする。風が、ずいぶんと温かくなった。夜はまだ寒いけどね。

ユーハン領に持って行ったドレスは、どれも少し子供っぽいものだったが、みんなあげると言われたので、持って帰って、リメイクしてもらって着ようかと思う。もったいないから。素材良いし。

国税官入試問題集も忘れずにカバンに詰め込む。

ピアスは、ハンナがクリーニングしてくれて、もう私の耳に帰ってきた。

素直に、嬉しい。

ささいなことでも、気持ちの持ち方って変わるんだなあ。

壺代も完済したので、、、国税官に急いでなることもないかなあ、、、

領に帰って、仕切りなおそうと思う。


明日、領に帰ると告げたので、ハンナはタウンハウスに荷物をまとめに行った。

王都にまた帰ってくるかどうかはわからないしね。


最後に、、ハルに謝りたかったなあ、、約束守れなかったから。

凄く忙しいと聞いたから、無理かな。


晩御飯を頂いて、早めに床に就く。

急に、色々やったから、、、今日は疲れたな。




*****

「・・・・・寝てるのか??」


議会をウィルに全振りして、抜け出してきた。

ベットに座って、そっと頬を撫でてみる。

ベットわきのランプに映し出された彼女は、すっかり元の面影に戻っていた。

帰ってきたときは、、、驚くくらい憔悴していたから、、、毎日、夜中に少しの時間会いに来ていたが、、、、泣きそうだった。


何時ものように、俺の手を取って、頬ずりする。また寝ぼけているんだろう。


「・・・ハル?」

「・・・ん?」

「ああ、ハルだ。最後に会えてよかったなあ。夢でもうれしいよ。謝りたかったんだ、、、約束守れなくて、、、ごめんね。」

「ん。」

「明日帰るんだ。」

「・・・・ユーハン領に行くのか?」

「?なんで?自領だよ。仕切り直しするんだ。ほら、、、どっかに後妻で出されたり、好きでもない20も30も上の人と結婚させられるなら、一人で生きていくかなあ、って。」

「?どういうことだ?」


「だって、、、私、もう、傷物なんだもの。」


「は?ちょっと待て。誰とだ?その、、、相手はユーハン侯か?何をされた?

その、、、なんだ、、、身をささげてしまったってことか?そいつに?そんなに好きだったのか?」

「な、、、何を言ってるのハル!身、、、なんて、、そんなわけないじゃない!」

「じゃあなんなんだ??」

「だって、、、、婚約破棄したら、、、もう傷物なんだって、、、アン様が言ってたから、、、」

「・・・・は?」

「ハルといると居心地がよかったから、、罰が当たったんだね。」

「・・・じゃあ、何もされていないのか?何を貰ったんだ?」

「ああ、、、ハルにもらったピアス。火事場で片方失くしてしまって、、、今日届けてくれたのよ。そんなことってあるんだなあ、、、って。嬉しかったよ。壺代も返しちゃったし、もう、心残りはないよ。」

「愛している、、、って言ったのは?なんなんだ?」

「・・・ああ、ユーハン侯の母君が、、もういくばくもないらしくて、、なんて言ったらいいか聞かれたから。」


はあああああああ


おばあさまにからかわれたのか?俺?


「前に、フェイロンに、ひどいこと言ったなあ、、側妃にするつもりか、なんてね。

それでも、一緒にいたいなんて、、、解んなかったよ、私。修業が足りなかったな。」

なんの修業をするつもりなんだ?


眠そうに、とろんとするナタリーを見つめる。


「・・・・フェイロンの瞳は真っ黒だけど、、、お前は、、琥珀みたいな色だな。」


そっと鼻先に、それから唇に、、、何度も口づける。繰り返し、、、


「帰るな。ずっと俺の側にいろ。」


聞こえたか?もう寝息を立てている。


寝ぼけたナタリーに頭を抱え込まれていたので、そのまま、本当に少しだけ、横になった。




*****

目が覚めたのは、日が随分と高くなってから。カーテンの隙間から、日差しが差し込んでいる。今日もいいお天気みたい。


いい夢を見たなあ、、、


昨日は、夢に、猫じゃなくてハルが来てくれた。謝れてよかった。夢の中だけど。

ぽかぽかして、スゴクよく眠れた。



「・・・え?」



自分が抱えて寝ていた温かい生き物は、、、金色の毛並みだった。

すうすうと、気持ちよさそうに寝息を立てている。

腰を抱え込まれているので、動けない。


仕方ないので、、、二度寝してみた。



穏やかな春の日。





*****













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