第21話 出世払いになるようです。その4
屋敷に帰ると、風呂に入って着替えた。
当主も、そのまま夕食までいるらしい。
席に着くと、、、一人分用意が多い。
「今日は、奥様もご同席されるそうで、、、」
と、執事さんが困り顔で言う。あら、、きちんと着換えてよかったわ。
少し遅れて、奥様がいらした。
透き通るほどの白い肌。28歳の息子がいるようには見えない、、、金髪に薄いブルーの瞳。当主と並ぶと、姉弟ですか?と、思うほどの若々しさだ。しかも美人。
「・・・母上、私の婚約者のデイジー嬢です。」
「ご挨拶が遅れ、大変申し訳ございません。デイジーと申します。」
席を立って、挨拶する。奥様は、、、あんまり興味がないみたいだ。
うっすらと微笑みながら、当主を見つめている。
静かな会食だった。
*****
騒ぎは、その夜に起こった。
何時ものように、問題集を読みながら早めに床に就く。やることもないので。
うとうとしたころ、、、物音と、叫び声に飛び起きる。アリスはもう着換えてベットのわきに控えていた。
「何?」
「・・・わかりません、、、当主様の部屋あたりかと。」
私たちは同じフロアーの奥の当主用の部屋まで急ぐ。と、そこでもみ合う、執事さんと、、奥様の姿、、、
「旦那様!開けてください!旦那様!!」
「奥様、、旦那様は、お帰りになりました。」
「嘘よ!今日は朝からいらしたわ!開けてくださいませ!旦那様!!!」
「奥様、、、」
「どうして開けてくださらないの?私、、もう、大人になったのよ?ねえ、開けて、、ねえ、、」
奥様は、、薄い寝間着にガウンを羽織っただけの、、、なんとも無防備な姿で、当主の部屋のドアをたたき続けている。泣きながら、、、
「・・・・」
「どうされましたか?奥様。またさみしくおなりですか?」
馬番の子と現れたのは、あの司祭。慣れた手つきで、奥様の肩を抱き、ささやきながら、連れて行った。離れに帰るのだろう。
「それで、、、ご説明頂いても?」
アリスがお茶を入れてくれたので、執事さんと3人でテーブルに着く。
「・・・お嬢様には、、、その、、年齢的にどうかと。」
「いえ、私には聞く権利がありますわよね?」
「はい、、、」
執事さんの話は、まあ、長かった。
13歳で23歳の侯爵に嫁いできた奥様。貴族社会では10歳くらいの年齢差はよくあることだ。当時から美しかった奥様に、つい、酔った勢いで、、、まあ、やってしまったらしい。そこはそれ、きちんとした夫婦なので、責めれたものではない。
そして、13歳の花嫁は懐妊した。難産だったらしく、出産後はほぼ、寝たり起きたりだったらしい。社交界は噂話に花が咲き、、、そんな小さい子に出産させるのはどうなのか、と、陰口が絶えなかったらしい。国も問題視し、女性の婚約・婚姻年齢は16歳からと、法も整備された。
前侯爵は、、、屋敷に寄り付かなくなり、事務棟で酒におぼれていたらしい。
まあ、、、なんだな。
奥様は、侯爵が自分を相手にしなくなったのは、自分がまだ子供だったからだと思い込み、、、妙齢の女中は全て首にし、、、ひたすら侯爵の帰りを待っていたらしい。
その頃、西部に赴任してきた今の司祭が、たびたび奥様のもとを訪れては、慰めていたのだと。
酒に酔った伯爵はある日、貯水池で死んでいるのを発見される。
奥様は現実が見れないようになり、、、領地管理は国の預かりとなり、役人が派遣されてきた。現当主は当時まだ8歳。国王が心配して、全寮の学院にいれた。アカデミアまで進んだ当主が帰ってきたとき、、、当時22歳、、、前侯爵にそっくりだったらしい。
「銀髪に、緑の瞳、、本当にそっくりでした。奥様は、、、その、、、夜な夜な若旦那様の部屋の前に立つようになり、、、」
「ああ、、それで、、事務棟で寝起きするようになったのね?」
「さようでございます。」
「それで?どうして、13歳の婚約者が必要だったのかしら?」
「奥様が、、、希望されまして、、、13歳なら抱くのかと、、その、、試されているのかと、、、申し訳ございません。」
「・・・・・それで」
「はい?」
「なんであの司祭は、あんなに我が物顔なのかしら?」
「ああ、、、奥様は、司祭様に長いことお世話になっておりまして、、、あの方しか、ああなってしまった時の奥様を鎮められないのでございます。先ほども、急いで呼びに行きました。本当に良い方です。」
「・・・・・」
ふむふむ。
こっちも酒でも飲みたい気分だが、なにせ、まだ13歳なので飲むわけにもいかない。長話で冷たくなってしまった紅茶を飲んで、、、寝よう。
*****
教会は管轄外だろう。
国王もやすやすとは干渉できない。
もちろん、帳簿見せてください、なんて無理だし。
あと1か月無難に過ごして、、、帰ろう。
何時ものように、普段着にエプロンで掃除や洗濯をする。
厨房係のおばあちゃん女中さんが、買い忘れたものがあるというので、市場に向かう。買い物かごをぶら下げて、小銭を渡されて出掛ける。
何度か来ているので、顔見知りもできた。頼まれていたものを買って、もらってきたお小遣いで、飴を買ってなめながら、市場を見て回る。
たまに買い物で会うエマちゃん、と会ったので、飴を一つあげて、二人で少し外れてベンチに座る。
「またお使いだよお、、いやになっちゃう。」
「そお?私は楽しいけど?」
「デイーちゃんはお屋敷でかわいがってもらってるんでしょ?孤児院はあれよ、」
「あれ?でも、きれいでいいよね。」
「うーん、頭がよかったり、かわいい子なら、制服着せてもらってお勉強してればいいんだけど、私みたいにいまいちだと、下働きと、労働奉仕があるのよ。」
「労働?奉仕?」
「そう、孤児院のわきに作業棟があって、一日5時間くらい働くのよ。いまいちな男の子は畑仕事。薬草を作ってるの。それから、掃除したり、洗濯したり、、こうやって買い物したりね。」
「ふううん、、、パンでも焼いてるの?」
「パン焼きもあるんだけどね、、、司祭様に言われて、お薬?作ってるの。それがね、変な匂いで、慣れるまでは気持ち悪いのよ。」
エマちゃんはそういうと、うげっと吐くふりをした。茶色の髪をおさげにして、そばかすがいっぱいだけどかわいいと思うけど?
「私ももっと可愛かったらなあ、、、勉強は嫌だけど。その子たちは12.3になったら、王都の学校に行くのよ!王都!行ってみたいわあ。」
「へえ、すごいね。」
「そう、良いわよね、、、春になったらまた6人ぐらい出発するの。」
そうか、新学期が始まるんだな。
「麦の刈り取り時期になると、ほら、季節労働者?刈り取りの仕事の人がたくさんよそから来るから、孤児も増えるのよ。」
「??置いて行ってしまうってこと?子供を?」
「置いていく、、、ていうか、、、連れてくる?」
「???」
「何だか知らないけど、来るのよね、新しい子。」
「ふうううん」
「そうすると、、、また仕事が増えるでしょ?その子たちが慣れるまで。」
「ふうううん、、なんか、大変だね。」
「でしょう?デイーの屋敷で私も雇ってもらえないかな??」
「聞いておくよ。」
私たちは足をぶらぶらさせながら、野菜の値段について話したり、おやつの話をしたりして別れた。
「あ、そうそう、デイーにこれあげるよ。飴のお礼。」
「?」
エマちゃんが何気にエプロンのポケットから、小さな三角の赤い塊を取り出して、渡してきた。
「とてもよく効くお薬なんだって。たまたまエプロンのポケットに入ってて、、、持ち出したことがばれると鞭でぶたれるから、その辺に捨てようかと思ってたんだけど、、、秘密ね!」
そういうと、人ごみの中にかけて行ってしまった。
これ?
変な匂い、、、
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