第20話 出世払いになるようです。その3

「・・・それで、、、これはどういう状況なのでしょうか?」


吐くだけ吐いた私は、水を飲みながら、少し涙目だ。はあ、、、


予定より少し早めに帰ってきた当主に、本館で質問されている私は、、簡素なワンピースにエプロン姿だ。開き直る。


「ああ、、女中さんが腰を悪くして休んだり、風邪をひいたり、、ご存じでしたか?

私は、、暇だったので、お手伝いしていたんですの。だって皆さま、お年寄りなんですもの。アリスも主に力仕事を手伝っておりましたのよ?」

「・・・伯爵家令嬢に、、、申し訳ないことをしました。

それで、、、なぜあんなところで、、その、、」

「奥様のお部屋に晩御飯をお届けに行ったのですが、ご使用になられているお香の匂いが、、、どうも、私とは合わなかったようで。」

「・・・・・司祭が、、、また来ていたんですか?」

「ああ、、はい。存じ上げず、2階にあがってしまったのはお詫びします。司祭様が来ているときには誰も2階にあがってはいけなかったんですものね。」

「それで、、、君は、、何か見たかい?」

「・・・いいえ、、、お香の匂いが気持ち悪くて、走って外に出ました。きっと、高価なお香なんでしょけど、、、匂いがきついですね。」


思い出しても気持ちが悪い。甘ったるい、、、変な匂い。


「そうですか、、、ゆっくりしてくれていいのに、、、あなたは、なかなか変わったお嬢さんですね?そんなに退屈なら、今度の休みに、領内を案内しますよ。」

にこりと笑う当主。なんだか、、、読み切れない。


*****

約束通り、当主が休みの日に馬車で領内を案内してもらう。いいお天気だ。

馬車、というより、、、荷馬車?にアリスと一緒に乗り込む。椅子が固い。


出発時にちら、と離れの奥様の部屋を見ると、少しカーテンが開いている。朝から玄関先で騒いでいたので、うるさかったかしら?


麦畑を進むと、町場に出る。お店もある。市が開かれているようで、なかなかにぎやかだ。馬車を見つけると、子供たちが集まってきて、

「領主様だ!おはようございます!」

元気だな。子供が元気なのは良いね。当主もニコニコしている。町場のはずれに、立派な教会が建っている。


次に訪れたのは、農業試験場と、その隣に建てられた事務棟。奥には巨大な倉庫が5つほどあるようだ。ここに全部麦が入っているの?

「お嬢様には退屈かもしれませんが、試験場も見ていきますか?」

喜んで!軽くうなずくと、馬車から降ろしてくれた。アリスはひらりと降りる。

試験場では、常時10名くらいの研究員が、種苗や肥料の配合、病害虫の対策などを研究しているらしく、棟のわきに試験用の小さく区切った畑が50ほどある。領内に派遣される農業指導員が15名。本格的だ。専門用語で楽しそうに解説してくれる当主。

「・・・それで、ここの試験場で、干ばつ時にも持ちこたえる新種の麦が、、、」

あ、、、それ、図書室の新刊で読んだな。この人の論文だったんだ、、、


事務棟は、さすがに殺風景だったが、蔵書や資料が山積みだった。領の財務管理もここで行っているらしい。奥に簡易ベットがあるようで、当主はそこで寝起きしているんだな。作業員用の風呂も、試作用の調理室もある。住めるな。


倉庫も見学した。でかい。

高床式に作ってあって、領内で使用する馬車の荷台の高さは、ここに合わせた高さにしているらしい。合理的だね。

「・・・この量がすべて出荷用なのですか?」

「ああ、棟によって、、、出荷用と、備蓄用に分かれています。領地に何かあったとき、例えば、、不作とか、のときに、領民が飢えないほどの備蓄を確保しています。

あとは、国内の災害時やまあ、無いほうが良いですが戦争時とかに供給されます。」

「災害、、、」

「そうですね、著しい凶作や、水害、大規模火災、、、なんかですかね?国からの要請で、国教会が災害地での援助に当たります。私が領に帰って6年ですが、、、3年前には東部のブラウ領で大規模な水害があったようですね。災害の復興にも時間がかかったようで、2年分援助物資が出ました。災害があった領地の皆様も大変ですが、、教会も大変ですよね。」

は?

「実は、、ブラウ領の御子息とはアカデミアで一緒でして、彼はスキップしていたので、私よりうんと年下ですがね、、面白い男でしたよ。何度か手紙も書いてみたんですが、忙しかったのでしょう、、、返事は来ませんでしたが。」

え?


私、、、領にいたけど?


水害なんか、、、あった??

夕食時に何でも話すうちの家族の話題に、西部から手紙が来たなんて、、聞いてないよね??大体、、、手紙が着いていたら、、、何なんだ?って話になるよね?

だって、、、東部で、国から援助を貰うような災害は、、、私が記憶があるうちには、、、、、無い。


???


「・・・昨年は、北部で冷害で凶作だったらしく、倉庫一つ分出ていますね。うちはここのところ安定していますが、、、みなさん、大変ですよね。」

「それって、国からお代が入るんですの?」

「いえ、国のための備蓄なので、その分は免税になっています。」

「・・・・・」

「あ、、、難しいことを言い過ぎましたかね?」

「いえ、興味深いですわ!」

ふふっと、当主が笑う。銀髪に緑色の瞳。笑うと少し子供っぽくなってかわいい。


北部は去年の夏、ハルと行ったなあ、、、冷害???

さて、、、、どうしたもんかな?


試作品のパンをお土産にもらう。かなり嬉しい。屋敷に帰って、みんなで食べよう。

「そういえば、、、お友達にお土産を買いたいので、見ていきたいんですが、、、」

というと、帰り道、さっきの市が立っていた町によってくれるらしい。

荷馬車に乗せてもらう。子供みたいだ。まあ、、子供なんだけどね。


町のカフェでお昼ご飯を食べる。野菜たっぷりなスープ付き。この領は、、本当に豊かなのだと思う。庶民の店で、この時期にこんなに野菜が食べられるなんて。うちの領なら毎日ジャガイモかな。アリスももくもくと食べている。


「お土産らしいお土産が無くてごめんね。そうか、、、お土産かあ、、、あんまり観光の人は来ないし、、、収穫期に外部の人たちが季節労働で来てくれるけど、、、」

「いえいえ、大丈夫ですよ!帰り道でも買えますし!それにまだ1か月以上もあるんですもの。」

「ああ、、そうだね。退屈しない?その、、、今まで来てくれた御令嬢さんたちは、、、退屈して、、、その、、、帰ってしまうんだよ。」


それはそうか!この領地、この領主!狙う人は多いよな?今は社交に出ていなくても、歴史ある家名だし。


「退屈なんてしませんよ。お手伝いもありますし。でも、、、私とアリスが帰ったら、、、その、、、使用人は何人か入れたほうが良いと思いますよ?」

「・・・・そうだね、、、」


食後は市をぶらぶら歩く。必要なものは揃っているなあ、、お屋敷に食料を届けに来るオヤジもいる。使用人を探すのはそんなに難しくなさそう。当主は好かれているようだし、、、奥様が他の人を入れたがらない、と、いっても、、、私とアリスがうろうろしていても、今のところ何も問題ないみたいだし、と、いうか、、まだ、挨拶もしてないし、、、

考え事をしながら歩いていると、先ほど見た、大きな教会に着いた。

街道から見ても大きかったが、近くで見ると、、本当に大きい。しかも新しい?

真っ白い外壁が、郊外の緑の麦畑に生えて、とてもきれいだ。絵画みたい。

ハルのおばあさまが通っていた教会は大きかったが、かなり古かった。丁寧に手入れして、大事に使っていた感じ。

ここは最近、、、立て替えたのかな?


「おやおや、領主様、珍しい。」


声を掛けてきたのは、離れに来る司祭のようだ。

幸いなことに、当主の後ろにいた私とアリスのことは女中だと思っているらしく、まあ、無視。


「ああ、教会を見学させてもいいかい?」

「はい、どうぞ。教会の扉は、いつも開いておりますから。」


教会は中も立派だった。国教会も顔負けの豪華さだ。ステンドグラスもきらめいている。隣には学校と孤児院、診療所があるらしく、制服を着た子供たちが午後の授業をうけているところだった。奥には職業訓練用の作業棟もある。

素晴らしい!!・・・が、、、



















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る