第18話 出世払いになるかもしれません。その1

「ペットロスかあ、、、」


少し気持ちが晴れたような気がする。もやもやした気持ちに、名前が付いたような。

ふふっ

「もう少しなついてくると、鼻とか口とか、ペロペロしてくれますよ!小さい頃飼っていた猫がそうでしたから!」

そうか、そうか。ハンナが居てくれてよかったなあ。



ハンナがピアス用の穴をあけてくれた。少し痛い。冷やすといいようだ。


「・・・このピアスを、、、猫にもらったんですか???」

細い金細工で花が造られて、そこに小さい濃いサファイヤが載っている。

「そうよ。」

「・・・??・・・はあ、、、」

「お守り、なんだって。ふふっ」



*****

「あら、、あらあら、、ピアス開けたのね?」

さすが目ざといですね、アン様。こんなに小さいのによく見つけましたね。

「・・・ふーーーーん。」

ふーーーん、って?何ですか?変ですかね?

「いえ、とても似合っているわ。なくさないように。大事にするのよ。」

そうですね、こんなに小さかったら失くしそうですよね。

からかわれるのかと思ったら、すごく真面目な顔だ。

「からかったり、、しないわよ。本当に、、、なくさないでほしいわ。」

「?・・・・はい。気を付けます。」



生徒会は人が増えた分、雑用も減った。ハルが何からかにまで一人でやっていた仕事を5人でこなしていくので、帰宅時間も少し早くなった。1年生は、大公家の嫡男と、辺境伯の長女、例のハワード君。そうそうたるメンバーである。キャサリン嬢は、生徒会室に突っ込んでくることはなくなったので、、、教室で自習しながら、ハワード君を待っているらしい。うんうん。よく躾けたね。私はお茶を入れたり、帳簿の検算をしたりして過ごす。


そんな日常に慣れ始めた頃、学院長室に呼ばれた。


「失礼します。」

珍しく、ドアの前に護衛がいる。

ドアをノックすると、許可が出たので入室する。

「・・・・・?」

ソファーに深々と座っていたのは、、、国王陛下?

「久し振りだな、ナタリア嬢。」

一番深い礼をする。なんだ?

「私が呼んだ。まあ、座りなさい。」

え?座れないでしょ?普通。立ったままの私を見て、ふっと笑う。

「ラーシ男爵領での仕事はご苦労様だったな。それで、、、君に頼みたいことがある。」

え?嫌です。

「西部の、ユーハン領を知っているか?」

「はい、、ユーハン侯爵領でございますね。古くからの、、歴史ある家名でございます。大変な穀倉地帯だと聞き及んでおります。」

「ふむ。そこに、お前に嫁に行ってもらいたい。」


「・・・・・」


へ?とか口にしたら不敬だよね。

「とりあえず、婚約の文書は発行した。明日の早朝、馬車を向けるので出発するように。」

「し、、しかし、、、、」

「しかし?は、ないな。行儀見習いで出すと伝えてある。ちなみに、年齢は13歳。伯爵家の養女。名前は、、、デイジーだ。女性の護衛騎士を一名付ける。当面必要なものはこちらで用意した。」

は?何言ってるのかわかりませんが??

「春休みになるので、2か月間、行儀見習いにはいることになっている。13歳と言うと、、、中等部の2年生くらいか。お前は、休学して隣国に留学することになっている。よろしく頼む。」

え?なにを?

「お相手は28歳。もちろん独身。エリック・ユーハン侯爵。いい男だぞ。気に入ったら本当に嫁に行ってもいい。ふふっ」

楽しいですか?

「話は以上だ。わかっていると思うが、、、他言無用だ。」

誰に言えって?そんな無茶苦茶な話。私は16歳になったんだけど??



生徒会室に報告に、もちろん、留学に行くと。学院長が先回りして知らせてあったらしく、感心されたり、応援されたりした。しばらく会えませんね。

学生協に行って、ハンナに事情を話し、2月いっぱい営業したら、一度国元に帰るよう伝える。下町の店はしばらくお休みだな。


「・・・猫が来たらどうしますか?」

「・・・・・もし、ハンナがまだいるうちに猫が来たら、、、鍵を開けていれてあげて。お昼寝したら帰るから、、、、お願いね。よろしく言っておいて。」

「猫に?ですね?」

「・・・うん。すぐ、、帰るから、って伝えておいて。」



教室に戻って、教科書をカバンに詰め込み、家に帰ろうとして、、、アン様に空いた教室に連れ込まれる。

「ナタリー、あなた、ホントはどこに行くの?」

「・・・短期留学ですよお。国費で行けるなんてラッキーですよね!」

「・・・・・」

「お土産買ってきますね!楽しみにしていてください。生徒会のお手伝い休んですみません!」

「あなた、、、嫁に出されるのではなくて?」

「え?・・・・いえいえ、、、、」

「さっき、王室の馬車を見かけたわ。あなた、、、どうゆう事か、ホントにわかってるの???どうせ、嫌なら婚約破棄すればいいとか言われたんでしょ?

婚約破棄なんかしたら、、、、領に帰るか、どこかに後妻に入るか、20も30も離れた男に嫁に行くことになるのよ!もう!傷物扱いよ!ほんと!あの、狸おやじ!!」

「・・・・・不敬ですよ、、アン様、、、」

「・・・・・」


アン様が怒ってくれている分、だんだんと頭が冷静になってくる。


そうか。狸おやじ、、、先手を打ったのか、、、そんなこと、ないのにな。

つい、自分の店で寝ているハルを見ていると、忘れてしまう。

あの人、、王太子だったんだな、、そりゃあ、、手を打つわな。何でもなくても。

フェイロンに説教している場合じゃなかったな。

自分の、立ち位置を、、、見失うところだった。


「・・・・・」

「ナタリー?」


うん。行こう。

婚約破棄したら、、、国税官になって、独身を貫こう!


「・・・いえ、アン様、、本当に留学なんです!急だったので、ちょっと心細くて。すみません。」

「・・・・・」

にっこり笑ってみた。上手に笑えたかな。






















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