第16話 やっぱり自力返済かしら。
「・・・大体のことはわかった。で、、、」
「で?」
「お前は一体何者なんだ?」
「は?ブラウ家のナタリーですけど?あ、ナタリア、ってのはイリア語読みです。」
おばあさまに頂いたクッキーがあったかな?食べちゃったかあ、、、
「腹が減ったのか?」
「そうですねえ、、、レディの家に来るのに、花とかお菓子とか持ってくるのが定番なのでは?」
「レディの、、、」
「大体において、新入生の名簿は確認したでしょ?身元も。ね、生徒会長さん。」
「母は、平民。平民?なぜ、国王がお前の母を知ってるんだ?」
「今は、平民なんです。まあ、男爵家に嫁いだので、男爵夫人?」
「は?」
「前は、、、フェイロンのお父様の同腹妹です。仲がいいんです。あの兄妹。身分を捨てて、うちの父のところに押しかけ女房に来たんです。大騒ぎだったらしいですよ。」
「・・・・だろうな、、、」
「ですから、フェイロンは私の従兄弟に当たります。今回も無茶振りされました。びっくりですよ。まあ、特定の女性を連れてくるわけにもいかなかったので。
彼は、一年後に皇帝位を継ぐのを決められたので、後は、正妃を決めなくちゃならないんです。やけになってますね。もう20人ぐらい後宮に綺麗どころが送り込まれているので、その中から選ぶことになりますね。」
「・・・・・でも、納得していないのだろう?」
「立ち位置を考えろ、これは私の家庭教師が、、、ルーが、常々言っている言葉です。」
「・・・・・」
私だってどうにかしてあげたい。
「しかし、、、お前の領にいたら見つけやすいんじゃないのか?」
「木を隠すには森の中、って感じですかね?王命でしたよ。」
「・・・・・」
話すべきことは話した。貴方だって、王太子の身分を隠してたじゃない。
「いや、、、学院はそんなもんだ。」
カップをソーサーに戻す。仕草はいつ見てもきれいだ。
「で?」
「は?」
「・・・お前は、あいつと一緒に栄国に帰ったりしないんだな?」
「行きませんよ。ハル様への借金返済もまだまだですし。」
「・・・そう、か、、、ふふっ、、そうだな。」
ハルはゴロンと横になった。顔は見えないが、耳が少し赤い。あったまったのかな。
膝に乗せられた頭を撫でてみる。大きな猫みたいだ。金色の。
ひじ掛けに置いたブランケットをふわっとかけた時には、もう寝息が聞こえている。
忙しかったんだなあ、昼寝できないほど。
しばらく猫の毛並みを撫でる。
くもった窓ガラスの外は雪になったみたいだ。
*****
「それで?話とはなんだ?」
父の執務室の人払いをお願いした。
「イリア国に行こうかと思います。」
「お前がか?何しに行くんだ?」
「・・・・・」
「・・・あの娘に、、、何とかしてやってくれとでも頼まれたのか?」
父は書類の束から顔を上げて、ニヤリと笑うが、眼は笑っていない。
「いえ、私が即位するまでに、憂いを無くしておこうと思いまして。」
「ほお、、、やれるのか?メリットはあるのか?勝算は?」
「まだ、解りません。つきましては、貴方のお持ちの調査資料と、イリア語が堪能な、腕利きの潜入捜査官と護衛を何名か、貸してください。」
「それだけでいいのか。」
「あとは、、、書簡をしたためていただきますが、それはまた後日。整い次第、お願いにあがります。」
「ふん。後でお前の執務室に揃えさせる。長引かせるな。」
「はい。ありがとうございます。」
書類に戻った父に深々と頭を下げて、退席しようとした背中に声がかかる。
「そういえば、お前、あのウィルに成績で負けたらしいな。」
「はい、、彼は優秀ですので。ゆくゆくは私の右腕となる人材です。」
「ふむ・・・」
顔を上げて、まじまじと息子の顔を見る。
「それからな、、、お前、レディを訪問するときは花か菓子を持っていくもんだぞ?まあ、、あの娘なら、菓子だな。」
「・・・・・」
あいつは変わったな。いい目をするようになった。
さて、、、どうするかな?
*****
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