第15話 もう、自力返済かしら?

庭園はよく手入れされている。けど、寒くない?

かがり火があちこちにともされて、幻影的な風景ではあるけれど。


フェイロンは私をベンチに座らせると、かがんでハンカチで足を拭いてくれて、靴を履かせてくれる。紳士だね。っていうか、、、やりなれてるね。さすがだ。

自分の上着をふわっとかけてくれた。

その辺を歩いている警備の騎士に、シャンパンを2つ持ってきてくれるように頼んで、並んで座る。


『・・・あそこで終わるなんて、、ケンカ売ってるようなもんじゃないの?』

『ふふん。わかった?』

『もういいんじゃないの?属州からきれいな女の人が次々にあなたの後宮に送られてるって聞いたわよ?』

『・・・・・』

『その中から、政治的に正妃を選ぶのが、貴方の仕事なんじゃないの?』

『・・・わかっている。わかっているんだ。そんなこと。』

『今さら、、、連れ戻して、後宮に入れて、、、側妃にでもするつもり?』

『・・・・・』

『・・・そのほうが、、、、ひどいよ。』

『・・・・・』

泣くなよ、フェイロン。貴方の権力をもってしても、仕方がないことはあるよ。

権力を持っているから、、、できないことも。

握った手が震えている。私は、、彼の背中をさすってあげることぐらいしかできない。


カチッとグラスが触れ合う音がする。顔を上げると、、、、シャンパングラスを2つ持って立ち竦む、、、、ハル?、、、なんでハル??

思わず見詰めてしまったが、気を取り直す。

『ありがとうございます。王太子自ら、、たいへん、、光栄でございます。』

「・・・どういうことだ?」

『公用語はよくわかりません、、』


「お前、、、こいつの側妃になるのか?国税官になるんじゃないのか?」

こいつとか言うな。

もう、いろいろとほっておいてほしい。

話をややこしくするなよな。て、いうか、、、ばれてる?

『・・・・・』

そっとしておいてやれよ。国王にケンカ売っても、何とかしようとしたこの男を。

グラスを一つ奪い取るようにとると、グイっとシャンパンを飲む。


「あたしのことじゃないわよ!!!

この人の番になるはずだった鶴は、、もうどこにもいないのよ!!!」







*****

「それで?」

「何がでございますか?王太子殿下?」

「・・・・・」


タウンハウスの応接室にお通ししようとしたら、いつもの店で良いと言われた。

ストーブを付けて、ポットをかける。クローズ看板のまま。

寒いので、ワンピースの上に、カーディガンを羽織る。

王太子殿下は、、、、仁王立ちだ。何なんだ。


「詳しいことは、ご自分のお父様にお聞きになられたらよろしいのでは?」

「・・・お前に聞けと言われた。」

「・・・・・」


ストーブがようやく温まってきた。

静かだなあ、、、


「まずは、、お座りください。粗末なソファーですが。」

「・・・知ってる。」

ストーブの近くのソファーに一人分開けて私も座る。

「・・・・・で?何から話せば?と、いうか、、どこまでご存じで。」

「普通に話せ。」

「不敬では?」

「・・・今さら、、、」

「では、通常営業で。で、何から?初めから?」

「5年前の南の国、、イリア国の内乱及び末の王女の行方不明事件の顛末は、当時、報告書を読んだので知っている。あの男の婚約者だったのだろう?その王女が。」

「そうです。サーラ姫。腰まで伸びた、燃えるような紅い髪の、、きれいな方でした。フェイロンの幼い頃からの婚約者でしたので、当時は行儀見習いで栄国に入っていました。」


姫が栄国に滞在中に、イリアの王と王太子が乗った馬車が崖から落ちて二人共亡くなった。事故なのか、故意なのかは、調べたが分からなかったらしい。

急遽、栄国から、姫が呼び戻されることになった。呼び戻した姫を王位につけ、傀儡として、権力を我が物にしようとする勢力があったので。

ところが、王女がまだ到着しないうちに、王弟が王位の名乗りをあげた。継承権は2位。順当な請求だった。王女は当時14歳。継承権はまだなかったから。

今まで、縁の下の力持ちに徹していた王弟をノーマークだったのは失敗だったね。詰めが甘い。実際、相当な実力者だった。

反勢力側は、馬車の事故を、王弟の策略だと吹いて回った。あとは、王女が戻りさえすれば、彼女を盾に王弟側を叩く予定だった。が、、、王女は現れなかった。

双方とも、王女を血眼になって探した。もちろん、フェイロンも。

そんな時、この国の国境沿いで、、、、あの大河から馬車の残骸が上がった。

あの河は、真ん中が急流になっており、まあ、流されたらまず助からない。

その何日か後にこの国の国王から、、、真っ赤な長い髪が、、イリア国と栄国に届けられた。事件はこれで終わり。


「それで?」


しゅんしゅんと音を立ててお湯が沸いた。お茶にしよう。

部屋も少しづつ温かくなった。


「はあああああ、、、、言うんですね?

サーラの髪を切って届けさせたのは、貴方のお父様ですね。サーラはこの国に、亡命したんです。表向きは、死亡したことになっていますが。公式文書でも死んでます。

反体制派につかまれば、利用されるか、断れば、、、殺されるでしょう。

国王は国元が落ち着くまでの間、身柄を預かることにしたんですが、、、ご存じの通り、5年たってもくすぶっています。王女を殺したのは王弟だと、、懲りないですね。国内が落ち着かないので、亡命者も多いですよ。ほら、あの、モーガン商会にとられた職人さんたちもそうでしょ。」

「・・・・・」

「フェイロンも、、あきらめきれなかったんです。探し出して、、、貴方のお父様に取り上げられたんです。火種にするなと。

ここのところ、近隣諸国は落ち着いていますからね。イリア国もなんだかんだと内乱の域ですし。」

「・・・・・」

「フェイロンが我を通して、サーラ姫を娶った場合、、、」

「本人と子供が狙われるな。」

「そう。そうして、姫と子供が狙われた場合、、、」

「栄国がイリア国に軍を送る、か?」

「あの人のことだから、、、ブチ切れますね。」

「・・・・・」

「それ以外でも、、、もう王女としての地位がない女性を正妃になんかしたら、、」

「属州が、、黙っていない、か。あそこは後宮があるからな。」

「そうなんです。どう転んでも、、」

「・・・・・」

「まあ、お茶どうぞ。粗茶ですが。」

「・・・知ってる。」

「・・・・・」

「あいつの番の鶴は、、、どこにいるんだ?」

「え?」

「お前はサーラ姫を知ってるんだろ?」

「ああ、ハル様もご存じですよ」

「・・・?」


「ルーです。」























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