第10話 あと790万ガルド
「ええええ!同じ部屋だったの?三週間も?」
新学期が始まって、放課後に生徒会室でお土産交換会を開催していた。
「え??で??」
「で、って、何にもありませんよ。」
「ええええ!男と女が一つの部屋で、三週間も一緒にいて??」
アン様の性格が若干変わったような?食いつきが良い。まさか、これが真実のアン様?
ウィル様は隣に並んでニコニコしている。これは通常営業。
「わ、、私たち婚約しているのに、、違う部屋でしたわ。」
いや、、、普通そうです。
「だって、侍女ですし。」
「いや、ほら、侍女でも、女の子でしょ?」
「ああ、ハル様が侍女だったんですよ。」
「は???」
だろうなあ。意味わかんないよな。
「ああ、潜入調査みたいなみたいな感じだったから、変装したんだ。」
ハル様が助け舟を出してくれた。どこまで話していいかわからなかったから助かった。
「ああ、、そういう事。つまんないわね。」
何がですか?アン様。
「なんか、、とても美人だった気がして、ちょっとイラッとするわね。」
「美人でしたよ!モテモテでした!」
「・・・・・」
「それはそうと、、、お土産です。」
「あらあら、ガーデニング用のスコップ?かわいいわね。」
「でしょう?私とルーで持ち手に絵を描いたんです!かわいいですよね?」
「嬉しいわ!ウィルとお揃いなのね!裏庭に記念樹でも植えようか、って話してたのよ!うふふっ、ね、ウィル?」
なんか、アン様とウィル様の距離が、、、まあ、いいか。幸せなら。
「私たちからは、ハーブティーなの。優しい気持ちになるらしいわよ。」
かわいいラッピングのお土産を頂く。楽しかったんだろうなあ、夏休み。
「悪かったな。俺と過ごす夏休みで。」
「・・・・・」
*****
ぼちぼちと日常が戻ってくる。
放課後は相変わらず、生徒会長にこき使われる日々。
前期の会計報告、事業報告、、、、これは、各生徒主体のサロンや勉強会の会計も確認。クラブ活動の運営の確認、、、
後期は10月の生徒会主催の舞踏会がメインイベントになるようだ。
会場の手配、要人への招待状、名簿の確認、警備の手配、、、やること満載。
例によって、アン様とウィル様は適度な時刻に帰ってしまうので、また夜食を食べながら生徒会長ともくもくと仕事することになるな。
「悪かったな、俺と過ごす放課後で。」
「いえいえ、請け負ったお仕事ですから。夜食は割り勘ですよ!」
「・・・・・」
「今日は、新しくそば粉のガレット屋さんが出来たみたいで、、お好みで巻けるように、皮と具材を分けてもらいました!食べましょ!お茶いれますね」
「・・・・・」
「皿とかフォークとか使わないで、クレープみたいに食べましょう。具材は全て私が味見しました!美味しいですよ!」
席に着いたハル様に、クレープを巻いて見せる。皮をひいて、、お好みの具材を入れて、、くるくるっと、、、はい出来上がり。いいね。
「できそうですか?ハル様」
うまく丸められないようで、苦戦している。ぷぷっ。不器用?
「具材を、こう、くるっと抱え込むように、そうそう、優しく巻いてください。優しくしないと破れちゃいますから、、、、ハル様??」
何?顔が真っ赤だよ?そんなに力入れたら、、、、どうした?
「・・・・変な言い回しをするな。」
「???」
よくわからないけど、美味しかった。二個目は甘くして、デザート仕様にした。うん。満足。ハル様は顔を赤らめたまま、豪快に食べた。お腹がすいてたんだね。
優しい気持ちになるハーブティーでも入れてあげよう。
「そういえば、図書室に新しい本が揃ったぞ。農学・工学その他、結構な冊数が入ったようだ。」
「お!ありがとうございます!さすがです!」
明日からまた昼休みは図書室通いかなあ。楽しみが増えたなあ。ルーにも教えてあげよう。
「・・・そういえば、お前、お昼はどこで食べてるんだ?カフェテリアでも見かけないな。」
「ああ、サンドイッチ持ってきて教室で食べるか、ルーが早めに来ていたら学生協の店で一緒に食べたりしますよ。昼休みは、図書室に行くので。」
「侍女は、、何やってるんだ?」
「あれ?言ってませんでしたか?ルーはアカデミアに通っているんです。」
「・・・・・?」
「比較国際教育学、ってのを学んでいるらしく、楽しいらしいですよ。」
「へ?」
「7か国語くらいいけるので。彼女はなかなか厳しい家庭教師なんですよ。」
「お前の?」
「そうですよ?言ってませんでした?」
「・・・平民だよね?」
「そうですが、、、、アカデミアには論文を提出したらしいです。ハル様、偏見が過ぎますよ!ちなみに、私の母も平民です。」
「・・・・・」
*****
その事件は急に起こった。
いつものメンバーで、10月の舞踏会の予定を確認して、さあ一息つこうか、という絶妙なタイミング。ノックとほぼ同時に開け放たれたドア。
「ハル様ああああーーーん」
突撃してきたのは、栗毛の巻き毛くるくるの女の子。
「・・・・・」
私たちの戸惑いなど気にせずに、ハル様にしだれかかる。やるね。
「は?」
「ハル様ああ、お誘いいただきありがとうございます。キャサリンはぁ、とっても嬉しいです!ハル様にお手紙頂けるなんて思っていなかったからあ、、、」
「・・・え?」
グイグイ行くなあ。若いって素晴らしい。
「なになになに?ハルの恋人?ってこと?」
「あーさすがです!ハル様の理想の女の子ですね。」
「なになに?」
「胸は大きすぎず、小さすぎず。背は高すぎず、低すぎず。キュルンとしたかわいい系の女の子をご所望だったので。」
「ハル、、、かわいい系が好きだったんだ?へええええ」
「そう、守ってあげたいタイプが好きみたいですよ。リスみたいな。」
「10月の舞踏会にお誘いいただけるなんて、夢のようです!ガーデンパーティーの時に思い切って話しかけてよかったです。ちゃんと覚えていてくださったんですね!キャサリンはうれしくて、、、」
「・・・・・???」
おい、キャサリンさんはうれし泣きしてるぞ。ほら、なんか気の利いた事いってやれ!涙を指で拭って、その手を頬にだな、、、
「お前たち、、、面白がってるだろう?」
「・・・いいえ、とんでもない!お邪魔なようなので退室しようかと思っております。」
「待て!待て‼待て!!!」
キャサリン嬢を説得して、とりあえずお帰り頂く。レディに恥をかかせないように、うまくあしらうあたり、場慣れしてる。さすがだ。
「何に感心してるんだ?」
「・・・・・」
「どれどれ、ハルが彼女に書いた手紙、私たちが読んでもいいわけ?」
と、言いながらもアン様が、彼女が握りしめてきたハル様からの手紙を開いて読みだす。
【愛しのキャサリン様
突然、このような手紙をお送りすること、お許しください。
ガーデンパーティーでのあなたの可愛らしいお花のような姿が忘れられません。
10月の舞踏会にもしお相手が決まっていなかったら、私にエスコートさせて頂けませんか?
お返事をお待ちしております。
貴方の[ ha] 】
「あら、割とシンプルね?お花のような、ですって。ぷぷっつ」
「アン様、笑っちゃダメですヨ。気持ちを整理しながら、一生懸命書いた、って感じがしますね。」
「二人共、、、ハルをからかうのは良くないよ。ようやくハルもエスコートしたい女性が現れたことを喜んであげよう。ね?」
「・・・ウィル、、なんというか、、、君の発言が一番傷つく。」
「・・・・・」
「さて、これで生徒会長もお相手が決まったことだし、ナタリーはどうするの?お相手?」
「え?また受け付けやりますよ。制服で。」
「ええええ!誰か気になる人いないの?」
「いませんね。」
「僕の知り合いでも紹介しようか?」
「ええ!ウィル様の?いいです。後々面倒なので。」
「お前たち、、、、俺の相手が決まったような言い方やめて。よくないよ。だって、俺、、、心当たり無いんだけど?」
「そうですね。字体も違いますし。サインも違いますし。」
「東洋に、棚から牡丹餅、って言葉があるんですが、、」
「棚から、、?」
「たまたまラッキー、みたいな。ハル様の理想の女性が現れたんです。ラッキー!って頂いちゃう!ね!」
「ね、、、じゃないんだよ!!」
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