第9話 あと800万ガルド

王都に帰ってからは、ゆっくりする間もなく、事情聴取が続いた。まあ、知りえたことを包み隠さず話した。

「こんなんで、夏休み終わりかあああ」

「・・・まあ、報酬に見合う働きだったと、父が誉めていたぞ。」

ああ、そうか!うっかり忘れていたが100万ガルド分の仕事プラスお洋服プラスお土産代。まあまあかな。

「・・・・国税官の制服もプレゼントすると言ってたぞ。」

「お、ありがとうございます。国税官を目指すのもいいかもですねえ。」

「・・・お前は商人になるのではないのか?」

「いえ、まだ何も決めていません。何にでもなれそうなので。」

「・・・・・」

「ああ、ハル様たち高位貴族の方は、そういった選択はありませんものね。そういったものを捨てて恋に走った人をひとり知っていますが、まあ、イレギュラーですよね。」

「せっかくの夏休みだったんだ。うちの別荘にでも来るか?」

「いえ!遠慮します。家でゴロゴロします。課題もやらなくちゃなので。」

「そうか」

「じゃあ、スコップ貰って帰ります!まさか、こんなものまで押収されるとは思いませんでしたねえ。」

「一つだけ聞いていいか?」

「?なんでしょう?」

「あの、男爵家の奥方は、なんでお前に余計なことを言ったんだろうな?」

「ああ、、町場で王都から来た二人連れがあちこち見て回ってる、って噂が耳に入ったんでしょうね。何か調べられているのでは、、、と、不安になったんでしょう。」

「・・・・・なるほどね、、、あ、あとひとつ」

「なんですか?」

「お前が、あの女に目を付けたのはなんでだ?」

「ああ、マチルダさん?いい匂いがしたので。」

「・・・・・?」

「では!また九月にお目にかかりましょう!良い夏休みを!」


*****

「なぜ、、こうなる?」


私は迎えに来たハル様の馬車に、仕上がってきたタイル100枚と一緒に積み込まれている。

月末に、ルーが領地からの定期便に乗って帰ってきた。出来上がったタイルと一緒に。早速、ハル様に連絡すると、取りに来てくれるというので待っていただけなのに。暇なの?なぜ、私までハル様のおばあさまとお茶を??

「おばあさまも暇なんだろう。この前作ったデイドレスがあって良かったな。お前も、一度お詫びを、って言ってなかったか?」

いや、、お前も相当暇だろう。

「いや、俺は留守が長かったから、執務が山のように残されていた。ひどい話だ。」

ホントだ。ツヤツヤお肌が、ちょっとくすんでいる。寝不足?くすっ。美人台無し。

「・・・おばあさまが、おまえに興味津々でな。どーーーしても連れて来いって言うから、やむを得ず。どうせ商品代も集金するんだろ?」

「はあ、、、まあ、、、」


しばらく走ると、大きな門。入ってから入口の馬車寄せまで、うちのタウンハウスが10軒位建ちそう。伯爵家、って言ってたよね????見上げるほどの御屋敷だ。おばあさまが隠居してお住まいな離宮??でかくない?趣味はいいなあ。落ち着いた雰囲気だ。

「そう?」

「・・・・・」

「荷物は運ばせるから、こっちに来い。」

なあなあ、エスコートとかって言葉知ってるか?自分だけすたすた先に行くな。こんな場所なら、令嬢扱いしたらどうだ。

「・・・・・これは失礼した。お嬢様、お手をどうぞ。」

ニマニマした顔がちょっとイラッとする。まあ、いいか。

出された手に、手を添える。履きなれない靴を急に履くことになったので、急げないのだ。ゆっくり歩いてくれ。

「最初から、そういえばよかろう。」

「・・・・・」


客間らしい重そうなドアを執事が開く。廊下のうす暗さと対照的に、中庭の明るい風景がまるで絵画のようにそこにある。


「おばあさま、お連れしました。」

「初めまして、ブラウ家のナタリーと申します。」

最も深い礼をする。作法は間違いないはず。

「あら、あら、、、そんなにかしこまらないで頂戴。ハルがいつもお世話になっているわね。それに、はじめましてでもないわ。うふふっ」

ん??顔を上げると、、、、なんと!教会のバザー用に下町の店のアクセサリーを爆買いしてくださったご婦人ではないか!!なんか、、、

「・・・・・」

「さあさ、こちらにいらして。お茶にしましょう。ハルも座るの?レディの椅子を引きなさい。ごめんなさいねえ、至らない孫で。」

「・・・・・」

「デイドレスもぴったりだったわね。よかったわ。誰かのためにドレスを選ぶのも楽しかったわよ。」

「ありがとうございます。サイズもぴったりでした。」

「そう!親子そろってあなたにご迷惑かけたのでしょう?ごめんなさいねえ。」

「いえ、、、、私は、、あの、、大事な壺を割ってしまいましたので、、、本当に申し訳ございませんでした。」

「ああ、形あるものはいつか壊れます。お気になさらず。素敵なタイルに生まれ変わったわね。王都で流行するかもよお。そうそう、バザーに出したあなたの店のアクセサリーも子供が買える値段で、評判良かったわ。あなた、私が焼いたクッキーを沢山買ってくれたのでしょ?」

「ああ、はい。美味しかったです。」

「あらあ、嬉しいわ!」

「あ、、、あのクッキーか。どうりでなつかしい味だと思った。」

私も知らなかった。


夏の終わりのそよ風がカーテンを揺らす。

夏も終わりだなあ、、、

集金もした。タイル一枚、1万ガルドで請求が上がっていたので、100万ガルドになる。

おばあさまはこともなげに、言った。

「大金なので、お家に送金しておきますね。ちょうど他の支払いもあるし。」

なんか、、、なんか、、おばあさまの掌の中?まあ、いいか。お茶もお菓子も美味しかったし。

お暇するときに思い出した。

「大したものでもないのですが、、、先日の旅行のお土産がございまして。」

「あらあら、何かしら?」

なんてことはない、あれだ。ガーデニング用のスコップ。時間があったので持ち手にお花の模様を描いてみた。もちろん、落ちない絵具。我ながらよくできた。

急にハル様に連れてこられたので、手ぶらも何かと、とりあえず持ってきたのだが、、、

「あら、、かわいい!ガーデニング用のスコップね!!あなたがお花を描いたの?いいわねえ、、、これは、、、王都で流行するかもよ?」

おばあさまのきれいな青い瞳がきらきらと輝いている。面白がってもらえてよかった。















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