第8話 まだまだ810万ガルド
いやあ、思ったよりいい話が聞けたな。
「くそ生意気そうなちんまい娘、、、」
いや、そこじゃない。
着換えて、待たせた馬車に乗って宿まで帰る道すがら、美人認定されたハルがおとなしい。自分が荒くれ男に組み敷かれる妄想とか?きゃ、怖い。
「・・・違うわ!」
宿に着いた頃には日は傾いてしまった。
宿の主人に無事を喜ばれ、部屋に戻る途中、あの女性と廊下ですれ違った。
「あ、マチルダさん、ハンカチ落としましたよ。」
「え?」
「これ、違いますか?ああ、そういえば、教えていただいた繁華街まで行ってきたんです。お土産も買えました。ありがとうございます。」
深々とお辞儀をすると、彼女は目をそらしながら、ハンカチは自分の物ではない。買い物出来てよかったね、と、簡単に告げると、そそくさと帰って行った。
「うむうむ。」
「・・・・・?」
「あとは、、、、証明だけですね。」
「何がでございますか、お嬢様?」
翌週からは現場の監査。
鉱山に行ったり、製鉄所を見に行ったり、加工所では完成品の数と帳簿があっているか、不良品の発生率と数があっているか、、、、うーーーん、思ったより細かく調べている。武器に転用している様子はない。まあ、鎌とか包丁とか、、武器になり得るものはもちろんあるが、出荷先や数量に問題は見つからない。ちなみに、うちの領地でも農業用品はここから買っている。
現場の見学に行くたびに、マッチョな男たちにハルが特別なまなざしで見つめられているが、まあ、想定内。お給料もきちんと支払われており、休日も週に1日は取れている。なかなか模範的な職場事情である。
「想定内、なんだ、、、」
「だって、こんな男まみれの職場にこんな美人さんが放り込まれたら、、、ああ、怖いね~」
「面白がってるだろう。」
「うん。」
副長官は領主と話し込んでいる。相変わらず、びくびくしている。国税官はそんなに怖いかね。こんなにきっちり管理できているんなら、そんなにびくつかなくてもいいようなものなのに、、、何にびくついている?
先に屋敷まで帰っているように言われ、ハルと帰る。領主の奥様が直々にお茶を出してくれた。
「奥様が、、、わざわざすみません。」
「いいえ、、、お恥ずかしいんですが、使用人が少ないもので。」
現場も繁華街も結構活気があったけどな?お茶を出す奥様の手が震えている。
「あの、、貴方もですか?」
「?」
「貴方も、、国税官なのでしょう?」
「ああ、、見習いですが。」
「もう、、、用意できるものはありません、、、」
「はい?」
「・・・二人分もは、、無理です。」
お茶の話かと思ったが、違うようだ。
「詳しくお話お伺いしても?ちなみに、、、、私はブラウ男爵家の娘です。その節は祖父が大変お世話になったようで。家名は伏せてありますので、ご内密に。」
「ああ、そうでございましたか!今も取引させていただいております。そういえば、お母様にそっくりでございますね。」
ぱあっと奥様の顔が明るくなる。
「実は、、、」
聞かされた話は、まあ、よくある話だ。
3年前に帳簿に不備があった。副長官に指摘され、税金は修正申告して払い込んだ。これで問題はないはずだった。
ところが後日、副長官の秘書だという男が現れ、まあ、早い話、ゆすられたらしい。
年間500万ガルド。最初は貯えや貴金属を売って払った。次の年も500万ガルド。使用人を泣く泣く解雇し、売れるモノを売ったが、足りず、領民の税金を少し上げた。今回は1000万ガルド。もう一人国税官が同行するので、二人分。青ざめてしまったらしい。
「いつもお帰りの時に、お菓子の箱にいれて渡しています。」
「お手数ですが、、いつも通りでお願いします。きっと戻します。くれぐれも、私と話したことは、旦那様にも黙っていてください。いいですね。私の分の用意はいりません。」
*****
「真面目一本の人かと思ってたんだけどな。わからないもんだな。」
「・・・・・副長官自身も、ゆすられていると思いますね。」
「?だれに?」
「奥様が言っていた、副長官の秘書、身なりがよくて、デブで片眼鏡で目が細くて、鼻がでかくて唇が薄くて、、禿げあがった額を隠すような変な髪形、、、」
「変装か?」
「いや、、、そんな感じの人を一人知っています。貴族相手の高利貸しのジェイムズ商会。笑い方が、ちょっと気持ち悪いんですよ。」
「なんで高利貸しなんか知り合いなんだ?」
「うちの家とつながりが欲しかったようで、縁談が来たんですよ。」
「だれに?」
「・・・私に・・・もちろん断りましたが。」
「・・・・・」
「あとは、、、副長官の財産は破綻しているでしょうね。あそこから金を借りたら、もう、おしまいです。こんな風に、関係のある金の匂いがするところから金をむしりとっていくんですよ。本人が、望まなくても。もう、逃げ出せない。
ハル様、手紙を書いていただいても?最終日に、現行犯での逮捕でお願いしたい。詳しい事情は分かりませんが、お金を貰って屋敷から一歩出たら、それが事実です。」
「わかった。」
*****
帰りの馬車は静かだった。
副長官は護送されて行った。格子付きの馬車に自分が乗ることなど想像しただろうか?していたかもね。
「なぜだ?」
「・・・もういい加減、疲れる頃でしょう。真面目な人なんでしょうから。」
「あの、マチルダ、っていう女はどうなる?」
「うーーーん、どうでしょう?お金に困っていると相談しただけで、あとは善意かと思ったと、、、まあ、言うでしょうね。」
「金貸しと共謀していてもか?」
「そうゆうご職業の女性だったので、お客様だった、、、って感じですかね?」
「・・・・・」
「恋、、、ってめんどくさいですねえ」
「こい?」
「副長官はただ、恋をしちゃっただけだと思いますよ。老いらくの恋は拗らせやすい、って聞いたことがありますから。」
「恋ねえ、、、」
「ハル様は?むっちりタイプとスレンダー美人と、、、どんなタイプがお好みで?」
「へ?」
「あ、やっぱり、バンッキュッボン、みたいな、肉感的な?」
「・・・いや、おれは、あんまりグイグイ来るのは苦手。」
「へえーーかわいいタイプ??守ってあげたいな、みたいな?ふふっ」
「な、、、」
そうか、そうか。学院にもいるな。こう、守ってあげたくなるかわいいタイプの、巻き毛くりくりみたいな御令嬢が、、、、リスみたいな。まあ、ハル様自身が美人だから、かわいい!ってのがいいんだろうなあ。ふむふむ。
「なんか変な想像してるだろう、、、」
「・・・・・」
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