第7話 まだ810万ガルド。

次の日の夕方には、目的のラーシ男爵領まで入った。

男爵家の屋敷まではここから1時間というところらしい。ただ、宿らしい宿がここしかないらしく、調査対象の屋敷には基本的には宿泊しない国税官は、ここから通うことになるらしい。


商用でしか使わなそうな宿は、これまたシンプルだったので、差額自己負担でまた風呂付の部屋に移動した。ツインの部屋には今回はテーブルが付いている。ここに3週間かあ、、、バカンス、、、まあ、いいか。

周りは農村地帯、山が迫っている。製鉄にかなりの薪を使うので、豊かな森は大事にされているらしい。窓を開けると、さわやかな風が入った。標高が上がったのだろう。馬車でうとうとしていたので気が付かなかったが。


「ハル、散歩でも行く?」

伸びをしながら聞いてみる。座りっぱなしだったので、足の筋肉が落ちた気がする。

おしりも痛い。

「よろしいですよ、お嬢様。参りましょうか。」

やけっぱちな返事をして、ハルが立ち上がったので、二人で晩御飯まで散歩することにする。周りにはお店らしいお店もないので、街道を外れて畑道を歩いてみる。

麦が芽を出して青々と風にそよいでいる。

「今頃まくのか?麦?」

「ああ、二期作か二毛作でしょうね。6月くらいに一度収穫していると思いますよ。

始めの分を領主に税として納め、二回目を自分たちの食糧分にするんです。」

「なるほど。中々合理的だな。」

「不作でなければ、、ですがね。今年はいい感じのようですね。」

「お前の領地でもやっているのか?」

「・・・うちの領地は、、ホントに不毛の地でして、先王に頂いたんですがね。

男爵位とその領地として。じーさんが貿易で稼いでいたので、先の戦争にも貢献させていただきましたが、多すぎる財はいろいろと不都合があるらしく、不毛の領地でほんとにほとんど使い果たしたらしいですよ。先王の思惑通りでしたね。」

「・・・・・」

「よくあることですが、最初は農業改革に力を入れましたが、土地がやせすぎていて穀物は駄目だったんで。ジャガイモは出来ました。あ、家畜はいますよ。じーさんはそうそうに農業でなんとかするのを諦めて、綿花や麻や、絹などにシフトさせたんです。東の国に友人がいたらしく、技術指導者も来てもらったらしいです。コネクションは大事ですよね。」

「ふーーーん」


山にゆっくり日が落ちていく。山岳地帯だけあって、夕方はワンピースだけだと少し涼しい。帰って、晩御飯にしよう!明日から仕事だから早めに寝るかあ、、

「そうだな」

あ、聞こえた?


視察初日は領主への挨拶と、帳簿の確認。検算を入れていく。領主のラーシ男爵はおどおどした小心者タイプ。あんまり大胆なことをしそうには見えない。副長官と私で帳簿を爆速で検算していくのをおろおろして見ている。裏付けの書類も揃っている。

早めに帰って、また散歩に出る。今日はカーディガンをもっていこう。


「何かわかったか?」

「うーーーん、いまのところは特にないかな。財務の人がきちんとしてるんだろうね。領主もおとなしそうだし。で、何を見つけたいのかな?」

「領民からの税収が増えたけど、国への税収はそのまま、あたりかな。」

「物価が上がったりすると、そうなるよ。私腹を肥やす野望を持ったような領主には見えないけどなあ、、、」

ぶらぶらと畑道を並んで歩いていると、地元の女性らしい人とすれ違った。スカーフで顔が見えないが速足で宿のほうに歩いていく。質素な身なりだが、すれ違いざまに、なんとなく違和感を覚える。いい匂いだ。石鹸。


「あの、お急ぎのところ、申し訳ございませんが、、」

「・・・はい?」

声を掛けた女性は驚いて振り向く。

「私たち、王都から来ましたの。お友達にお土産を買いたいのですが、、、どこかにお土産屋さんはございませんか?」

「お土産?ああ。街道を先に1時間ぐらい進むと、このあたりで一番大きい繁華街があるよ。そこにいろんな店が出ている。ただ、、、」

女性は上から下まで私たちを見ると、

「ただ、、鉱山夫や製鉄の男たちが集まるところだから、、もしお嬢さんたちが行くなら、昼間のうちに行ったほうがいいね。」

「ああ、、なるほど。ありがとうございました。」


じゃあね、と、女性は行ってしまった。うむ。ムチムチの、おっぱいボンのきれいな女の人だった。年は35位か?完熟、って感じ。

「どう?」

「どうっ、て?お土産屋が見つかって良かったな。」

「いい女、って感じだったね。いい匂いだったし。」

「ああ、そっち?」


*****

休みの日に早速出かけることにする。宿屋の主人は渋い顔をしたが、馬車を呼んでくれた。歩いて1時間は御令嬢には無理だろうと。

私はハルの家が用意してくれた夏用のデイドレス。ハルはいつもの侍女服で馬車に乗り込む。

「晩御飯は食べてきますので、用意はいりません。」

と言うと、なるべく早く帰ってくるように念押しされる。そんなにか。

繁華街は賑やかだった。マッチョな男たちがうろうろして店を冷かしたりしている。

食堂や雑貨屋、古着屋、、、一番多いのが金物屋だろうか。

馬車を降りると私たち二人は注目の的だった。場違い感ハンパない。

日傘をさして、あちこち店を見て回り、金物屋でガーデニングに使えそうな小さいスコップを20個買った。移植ゴテ、って言うらしい。フライパンも買おうとして、ハルに止められた。すれ違う人たちが、チラチラとハルを見ている。

屋台でお昼ご飯を見繕って買って、休憩させてくれる宿を見つけて、部屋を借りる。

「どうするんだ?スコップ20個も買って??」

「え?アン様たちへのお土産にしようかと。お二人でガーデニングとか、、、よくないですか?」

「公爵家の庭で、、、ガーデニングとかしないと思うぞ?」

「じゃ、やっぱりフライパンのほうがよかったかな?」

「いや、、、、、、、、、、、」

まあ、いい。とりあえず着換えて、ご飯食べて、またウロウロしよう。

「着替える?」

「はい。ハルの分も用意してありますよ。」

よれよれのシャツに、スラックス。サスペンダー。ぼろ靴。あせた色の茶色のかつら。はいはい。でもなあ、顔の色つやがよすぎるんだよね。

「ここのところ、よく寝てるから。」

「ああ、、」

私用には、着古し感のあるワンピース。フラットの古びた靴。こげ茶のかつら。

「ハルは今から、そうねえ、トーマス。私は、、デイジーでいいかな。覚えた?」

「は?デイジー?」

「なあに?トーマス。」

おお、いいね。庶民ポイかな。しかし。休憩室があるって書いてあったけど、ご休憩用か。大きめのベットが一つドンとあるだけの部屋。カーテンを閉めて、さっさと着替える。かつらをかぶると、、アーラ不思議、どこにでもいる女の子が出来上がり。

ハルは、、、、、、駄目だな。

「なにがだ!」

何が、って、、どうして何を着せてもこうなるのかな。かつらまでかぶっているのに、これじゃまるで、偉い人が女中さんに手を付けて、市井で育った隠し子、みたいな?しょうがないから、濃い目のファンデーションを塗ろう。まあまあかな。

座るところがないから、二人でベットに並んで座って買ってきたご飯を食べる。

もちろん、ハルの買ってきたのは味見させてもらう。

固めのパンに野菜と肉が挟んであるもの。私のは揚げた川魚?が挟んである。

シンプルだが、意外とうまい。

小銭を布の横掛けバックに入れ、裏口から出る。誰も注目しないぞ。まあ、成功!

「ねえ、トーマス兄さん」

「あ、、、兄設定だったのか、、、」

「とりあえずお茶にしない?」

お茶を飲んで、うらうらと雑貨屋や金物屋をみる。古着屋も寄ってみたけど、鉱山夫用の作業着が多い。流れ者が住み着いたりする、って宿の主人が言ってたから、需要は多いんだろう。


夕方、まだ明るいうちに居酒屋に入る。もう出来上がってる人がたくさんたむろしている。酒と汗と、男くさいみたいな匂いが充満している。空席を見つけて座り、メニュー表を眺める。酒のつまみにもなりそうな料理が多いな。

「決まったかい?うちのは量が多いからな。頼みすぎるなよ。新婚旅行かい?」

「いや、いっ、、」

トーマスを黙らして、返事を返す。

「そうなの。叔父さんが農場をやってるから、仕事に来ないか、って誘ってくれて、二人で働きに行くの。この町は賑やかね。」

「ああ、夜は物騒だから出歩くなよ。仕事帰りの荒くれ者がたまるからな。」

「ありがとう。じゃあ、これと、これと、、パンを二人分。あとは水下さい。」

「はいよー」

「あら、トーマスどうしたの?」

「・・・・思い切り足を踏むのやめて、、、」

「・・・・・」


『新婚旅行だってよお、いいなあ、、小柄な娘だけどやることはやるのかなあ』

『へへっ、お楽しみだなあ』

『そういえば、見たか?日傘さした金持ちそうなちんまい娘が、買い物してたな』

『ああ、見た見た!あのお付きの女、きれいな女だったな!お願いしてえ!』

中二階席の酔っ払いの会話が丸聞こえだ。

『美人で、ほっそくてさあ、折れそうなのに、おっぱいでかいんだぜ。いいな。』

『おまえらまだまだだなあ、、あのくそ生意気そうなちんまい娘、ああいうのを組み敷いて鳴かせると、これまたよく鳴くんだよ、、、うーーーん、いいぞ。こう、くるっと抱え込むようにして、、いやだいやだ言われながら、、、ぐふっ、、、』


「あら、トーマス、これ美味しいわよ。どうしたの?」

「・・・・・」

「ほらほら、、あーーーん」

「・・・・・」


『おれは、、やっぱり、マチルダみたいなむっちりした女が良いな。こう、、埋まるみたいな柔らかいのがいいんだよ。あーー今日、マチルダにお願いに行こうかな。』

『あいつは、今、ほら、王都から愛人が来てんだろう?しばらく客取らねえぞ』

『ああ、アランの宿に泊まってる役人だろ?いい金ずるなんだってな。いいなあ。都から時々来る禿のデブ男も愛人なんだろ?うまくやるよな。』

『おれもやるだけで、金くれる愛人が欲しいぞ。』

『ガハハハッ、無理無理!ついてたよなあいつ。もう3年くらいになるか?今日は朝から出かけたから、一日中しっぽりやってるぞ』


















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