第6話 あと810万ガルド。

6月末の怒涛の期末試験を無事に乗り越え、いよいよ夏休みである。ちょっと憂鬱ではあるが、、、侍女で旅行に行って100万ガルドならまあいいかな。と。

しかも!宿代、食事代、お洋服代はハル様が負担してくださるらしいので、丸儲けだ。必要なものは購入して領収証をよこせ、というので、早速、寝間着を2着くらい買った。侍女服は用意するらしい。ふむふむ、、、後何がいるかなあ、できれば出先で色々見ながら買い足したい。

「あら、旅行なの?いいわねえ」

と、アン様。

「余裕だね。ナタリーは。さっき教務室の前に張り出されてたけど、学年一位だったよ」

「ウィル様、ありがとうございます。特待生は成績落とすわけにいかないので。皆様は?無事で?」

「そうね。ウィルは今回は頑張って、学年トップよ!ハルには悪いことしちゃったわねえ、、うふふっ、、、」

自分のことのように喜ぶアン様の笑顔が眩しい。落ち着くところに落ち着いたので、ふんわりと優しい雰囲気になった。うん。いいなあ。

「私たちは家の仕事を覚えなくちゃならないから、避暑は2週間くらいかなあ、ね?ウィル。長い旅なら気を付けて行ってきてね。お土産待ってるわ。」

「はい!わたしもはじめていく土地なので楽しみです。」

「・・・楽しいといいな。」

学年2位だったハル様が、書類から顔を上げる。


*****

「うーーーん、領地の経営状態が変わったようには思えませんが、領民の税金がここ2.3年確かに上がっていますね。国に納める税金は、、あんまり変動がない、、ですね。ここは製鉄中心でしたよね?その昔、うちのじーさんが国に供給する武器の生産の依頼をしたとこです。代替わりしてからは、平和になったので、農機具とかが中心ですが、地道な経営だったと思いますが、、、」

「そうなんだ。武器を作っていたので、昔から国税庁の副長官が直々に監査に行っているのだが、、、なんの不備も見つからないらしい。」

「で、今回はその国税官に同行する、ってことですか?」

「そういうこと。」

「ハル様は?そのまま?」

「そのままとは??」

「・・・・・」

いや、金髪碧眼、高貴さがにじみ出ているあなたが同行したら、先方さんは隠すものかくして、藪もつつけないと思うけど。観光で終わるよ、この旅行。まあ、私的にはいいけど。

「じゃあ、何かいい案があんのか?ああ?」

「・・・・・」

ハル様を目立たないように??侍女連れで?100万ガルドかかっているってことは、何らかの成果をあげなくちゃだよね、、、て、いうか、なにか胡散臭いことがある、ってことよね?

「では、、私が同行します。ハル様は私の侍女ってことで。どうでしょう?」

「は?」

ちょっと背が高すぎるか?まあ、いいか。髪はギリギリみつあみできるか。顔はきれいすぎるから、前髪を下ろして、、、侍女服を着せる。うん。まあ、そのままよりはいいか。

「へ?」

設定としては、来年、国税庁にコネで入所する予定の地方貴族の世間知らずな令嬢と、その侍女。こんなところかな。

「お前、、、何言って、、、」

「視察の大事なところは、油断、です。あなたがバーンと出て行っても、どこにも油断は生まれませんから。わかりますか?」

「うむ、、、、」

「そうと決まったら、国税官の制服一式とハル様サイズの侍女服を用意してください。あ、もちろん夏服にしてくださいね。根回しもよろしく。」

「そうと、、、決まったのか?まあ、父に相談するから待て。」



そんな会話から一週間後。

女性にしてはやたら背の高い金髪のきれいな侍女が、両手にカバンをもって、黒髪を一本縛りした小柄な女性国税官に付き従って馬車を待っている光景があった。風が乾いて砂埃が立つ。

「待たせたかな?」

専用の馬車で副長官が到着したので、乗り込む。

「よろしくお願いします。この度、見習いとなりましたナタリーです。」

襟に飾った赤のラペルピンは見習の証。副長官は銀色。

「たまに君のように優秀な女性が早々に入所するね。頑張ってくれたまえ。」

「はい!ありがとうございます。」

侍女は俯いて小さくなって乗っている。まあ、でかいけど。

「今回監査に入るラーシ男爵家の資料は目を通してきたかな?」

「はい。事前に頂いた資料は目を通しました。特に問題は無いように思いましたが?」

「・・・そうだね。まあ、視察は慣習みたいなものだから。以前、武器製造をしていたこともあって、監査が厳しいんだよ。今日は途中の宿場で一泊して、明日の夜には領地のはずれに着くのでそこでもう一泊、それから領主の屋敷までいく予定だが、、、体力的には大丈夫かね?お嬢さん?」

「はい。ご心配には及びません。到着後に帳簿の確認、そののちに製鉄所の視察と領地の現状確認ですね。3週間ほどの行程だと伺いましたが?」

「その予定だ。意外と視察が長いのは、また武器を作って横流しなどしていないかを確認するため、だね。細かい部品を作って、違う場所で組み立てる、などということも想定できるからね。私が見てきた限りでは、大丈夫なようだよ。」

「なるほど、、、、念には念!ですね!」


副長官は40代半ば、ってところか。シブ叔父、って感じ。制服はきちんとアイロンがかかっており、靴も磨いてある。真面目一筋に来ました、って感じ。独身らしい。

出来る男、みたいで、3週間の滞在予定でも持ち物は多くないようだ。

うちの領地に来る国税官は女性なのだが、これまた真面目一筋の人で、屋敷ではせいぜいお茶を飲むくらいで、食事は絶対にとらない。御馳走もできなければ、お土産も辞退される。変になれ合いにならないようにらしい。宿も質素だ。


だから、ある程度は予想できた。国税官の選ぶ宿は、、質素だ。

初日に、着いたと案内された宿は、もちろん庶民向けの宿で、宿場町のはずれにあった。通された部屋はベット2つ並んだだけの小さい窓が付いた部屋。トイレ、風呂、共同。バカンス!?・・・・まあいいかな。おしりも痛いし。

侍女のハルと同室で取ってくれたらしい。まあいいかな。女の子同士だし、、、

副長官は差額を自腹で払って、もう少しいい部屋にするらしい。

「腰が痛くなるのでね。」

と、言っていた。まあ、マットも確かに薄そうだ。私は構わないが、、ハルは薄い布団になんか寝たことあるかな?と、、、、

「ああ、私も差額払いますので、風呂付の部屋に変更してくださいな!」

と、宿屋のオヤジに交渉した。出費は痛いがしかたない。


「俺は前の部屋でもよかったんだぜ。」

荷物を運び入れながら、ハルが不平を言う。

「・・・・・だって、風呂が共同だし。」

いいか?よく考えろ?お前、女風呂には入れないだろ?男風呂に入ったら、こんなきれいな男、絶対狙われる。しかも、洗うパンツが多分絹だ。そうすると、また違った意味で狙われる。パンツは綿にしろと言っとけばよかった、、、

「なぜパンツ??」

「・・・いいですか?こんな宿場町にあなたのようなきれいな男の子が一人で共同風呂に入ったら、、、なんというか、、尻を狙われるんですよ!!危ない人がたくさんいるので。それで、絹のパンツなんか洗ってたら、、、今度は尻だけではなく、身柄が危なくなるんです!!!わかりますか?」

「・・・ん?」

首をかしげるしぐさがほんとかわいい。まんま、美人な侍女だね。

「ああ、、、やるだけやって男娼として売り飛ばされるか、身代金誘拐か、って言ってるんです!!!」

「・・・・や????、、、そんなに?」

「そうです。庶民を侮ってはいけません。ですから、この差額の支払いはハルがしといてね。」

「・・・・・」

かくんとうなずいて、ちょっと愕然としている。知らなかったか?まあ、知識として知っていても、自分の身に降りかかることまでは考えないよな。

「じゃあ、着替えする前に晩御飯を食べちゃいましょう。食堂は8時で終わるらしいから。」


食堂でいろんなメニューを一つずつ頼んで、片っ端から味見をする。パンも半分ずつにしていろんな種類を食べた。ちょっと行儀が悪いけど、いろんな料理が食べれて満足。ハルは私が味見した後の料理を渋々食べていた。うんうん。わがままなお嬢様の侍女は大変だね。


制服をハンガーにかけて、部屋着に着替えて、ハルが風呂から出るのを待っている間、並んだベットの真ん中にシーツでカーテンを作る。完璧だ。

開け放された窓から、夜の風が入るが、繁華街のいろんな料理や酒の匂いがちょっとする。笑い声や客をひく女の声、、、まだまだ夜は賑わうんだろう。


ハル様は一人で上手に風呂に入れたんだろうか?パンツは上手に洗えたかな?

「・・・入れる。風呂ぐらい。パンツも洗ったぞ。お前も入れ。」

「あら、そこは、お嬢様お風呂どうぞ、でしょ?」

髪がびちゃびちゃだ。

「お嬢様、お風呂どうぞ。お背中お流ししましょうか?」

「あはははは!いいよ。じゃあ、入ってくるね。風邪をひくと大変だから、ちゃんと髪を乾かすんだよ。」

「俺は、、子供か???」













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