第5話 おお!あと920万ガルド。
ハル様に持ち込んでいただいた宝飾品の展開は早かった。
モーガン商会は王室御用達の、老舗、しかも堅物な真面目な商会だ。調査は思ったより早く進み、イミテーションを作って売っていた組織が摘発された。その工房で働かされていた職人は、南の国からの内乱時の亡命者で、ほぼ監禁状態だった。
その職人の腕前があまりにも素晴らしかったので、こんなお粗末な詐欺行為を考えたらしいが、、、もったいない。使いどころを間違っている。
「・・・それでな、そのインチキ商会が、モルガン商会、って名乗っていて、モーガン商会の会長が怒ったらしい。ものすごく。」
「ああ、、、ありがちですが、、そりゃあ怒りますね。」
私は下町の店を突然訪れたハル様に、とっておきの緑茶を入れながら、頷く。
「それでな、、非常に不本意ながら、父に褒められた。」
「・・・??」
「下手に突っつく前に大人に相談するとは、お前も物事がわかるようになったな、と。」
「ああ、下手に動くと、水が濁って見えなくなりますからね。」
緑茶が良い色で出た。おいしい。
「それで、その監禁されて働かされていた職人達はどうなりますか?」
「今、取り調べ中だ。扱いはひどいものだったらしい。罪には問われないと思うぞ?」
「ですね、、、取り調べが終わったら、うちで雇いたいんですが、いかがでしょう?」
「・・・ああ、、、それは無理そうだな。モーガン商会の会長が全員好待遇で雇いたいと手を挙げたからな。そうなるだろう。」
「・・・ちっ」
「・・・・・」
せっかくの休日の午後、向かい合わせで生徒会長とお茶を飲むなんて、、平日と変わらないなあ、、
「早く教えようと思ったんだがな。」
「あ、、、すみません。クッキーもありますから、どうぞ。」
クッキーを入れた缶から、お皿にクッキーを盛り付ける。
平民ぽい服装を心掛けたのであろうハル様は、白のシャツにグレーのスラックス。それでも高貴さがにじみ出ちゃうのがさすがだ。だいたい、庶民はそんなお仕立ての良い服を着ていないと思うぞ。気を使って、乗合馬車で来たらしい。まあ、いつもの馬車に乗ってこんな下町に来たら人垣が出来ちゃうから、そこは誉めてあげよう。
「ありがとう。」
「・・・・・」
出したクッキーを一枚つまんで頂く。
「あ、ハル様もどうぞ、召し上がれ。」
「・・・お前は、、」
文句を言いながらも、クッキーをつまんだハル様は、
「なんだか、懐かしい味がするな。これはお前が焼いたのか?」
「いいえ、教会のバザーで買ったんです。教会のバザーに出すから、と、どこぞの高貴そうなご婦人がうちのアクセサリーをまとめ買いしてくださって、、、うちからも、何点か寄付させていただいたんですが、、、そのバザーを見学に行って、クッキーを沢山買ってきたんです。美味しいですよね!」
もしゃもしゃとクッキーを食べる。素朴な、ほっとする味だ。ちょっと濃い目に入れた緑茶にもあうなあ。
「・・・それでな、父が、お前のことを気に入ったらしく、」
「どこから、それで、なんですか??」
「ああ、お前のことは壺を割ったあたりから説明してある。」
「あ、、、そうですよね、、すみません。」
「今回の功績で、壺代を50万ガルドくらい引いてやれ、というので、、」
「ありがとうございます!!!じゃあ、あと920万ガルドですねえ!」
「それから、、、あと100万ガルドひくので」
「え?」
「夏休み中は俺の侍女として地方の視察に同行するように。」
「へ?」
「なんでもする、って言ったよな?」
「あ、、、、はい。」
「詳しく決まったらまた連絡する。」
「あ、、、はい。」
夏休みの予定が急に決まってしまった。ルーは後期の仕入れをしに領地に帰ると言っていたから、私はどうしようかなあ、避暑にいきたいなあ、涼しいところに。とか思ってたんだけどなあ、、避暑と秘書って、、、
「ああ、山岳地帯のほうだから、ここよりは涼しいと思うぞ。」
あ、心の声が、出てましたか、、、
「それから、、、」
「まだ何か?」
「ああ、アンとウィルの婚約の正式書類が上がってきたらしい。」
「あら!それは良かったですね。お二人共あの事件以来お休みされていたので、心配していたのですが、収まるところに収まって、ようございました!」
「・・・あんまり、驚かないんだな。」
「・・・・・?」
「あの二人とは小さい頃からの付き合いがあるが、、、まさか婚約するとは、、俺は正直驚いた。」
「ふむふむ。お祝いは何がいいでしょうねえ、、あ、ルーにも報告して、、、彼女に選んでもらおうかな。うんうん。」
「聞いてるのか?」
「え?はい。なるべくして、なったと思いますが?」
「そうか?仲のいい幼馴染、って感じだったと思っていたんだがな。」
「ガーデンパーティーで、アン様がつけていらしたネックレスは、真珠にアメジスト。ウィル様は水色のサファイヤのピアスをされていました。これで十分でしょう?
ちなみにサファイヤは誠実・慈愛、パールも誠実と困難を乗り越える、なんて意味がありますね。乗り越えたんでしょうねえ、お二人で。はあああ、、、さすがルーが手掛けただけあって、素敵な仕上がりでした。」
「・・・・・」
「あ、ハル様もサファイヤのカフスでしたね。愛されてますねえ、お母様に。」
「・・・・・」
午後になるとちょうどいい具合に木陰が出来る。色が濃くなってきた葉から木漏れ日が落ちる。ルーが喜ぶなあ。早く教えてあげよう。
「それから、」
「え?まだあるんですか?」
「・・・うん、、、」
「なんでしょう?」
「先日、サンプルだから、鍋敷きにでも使ってくれ、と、お前に渡されたタイルだが」
「ああ、はいはい。」
「おばあさまが気に入ってしまってな。あと100枚くらい注文したいらしい。」
「ええええ!」
「中庭の入り口に敷くらしい。」
「あの、その、、、あの使い方でご立腹では?」
「いや、割れた壺のかけらをタイルに施して再利用するなんて、よく考えたなと感心されていた。派手過ぎる模様も、タイルの生地の色を合わせてあるから、嫌みなく上品だし、どれも一点もの、というのが気に入ったらしいぞ。」
「・・・ありがとうございます。」
「足りなかったら、屋敷にもう一つ対の分が残っているから、割って使ってもいいといっていたが、、どうする?」
「ひええええ~勘弁してください!」
「そうか?」
「そうです!」
高貴な方の考えてることはわからない。1000万ガルドだよ?まあ、割っちゃったけど、事故だし。わざわざ割る人はいないよ!!確かに目がちかちかするような派手過ぎる模様ではあるけど、、、とりあえず100枚かあ、、
「できそうか?」
「・・・・・はい。すぐに手配します。仕上がりまでは少し時間を頂くことになります。」
「で、一枚いくらかも確認しておいてくれ。」
「はい、、、ありがとうございます。職人たちも喜びます!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます