第2話 あと990万ガルド

生徒会長の秘書になって早1か月。

生徒会室の掃除、書類の整理、お客さんにお茶を出したり、暇になると帳簿の再計算したり、、、これで10万ガルドはおいしい仕事だなあ、と、春の新入生歓迎会の打ち合わせ中の面々に紅茶を出す。


生徒会長のハル様、金髪碧眼。副会長のアン様、金髪碧眼巻き毛がキュート。書記官のウィル様、銀髪に菫色の瞳。

ほんとはもっとスタッフを増やしたいのだが、募集したら、ハル様をはじめとして役員の皆様の婚約者狙いの貴族令嬢令息が押し寄せて、、大変だったらしい。

まあ、皆さん高位貴族っぽいから、いろんな意味で狙われやすいのかもねえ、、大変だね。


「高等部の新入生歓迎会だが、例年通りのスケジュールでいいかな?」

「そうですねえ、、無難でしょうね。」

スケジュール案と予算案が手元に配られている。


「これを見て、お前はどう思う?」

突然部外者に振るなよな。

まあ、書類を生徒会長に指示されて作成したのは私だから、内容は十分理解している。

「正直に申し上げますと、、、、まあ、私は下位貴族家なので、春に学院への引っ越しや、お高い制服一式の購入、あ、靴も指定ですねえ。替えも必要ですし。そのほか年間の授業料、あ、私は免除ですが。教科書代、タウンハウスの手入れ、、、寮に入られた皆様は上級生へご挨拶の品を用意すると聞きました。この上、新入生歓迎会で、春用のイブニングドレスを新調??

持ってきたドレスでは、都会の人に笑われるだろうと、急いで仕上げるので通常より高くつくでしょう。

正直に申し上げますと、、、、めんどくさいですね。

しかも見てください、春と秋と冬に三回も舞踏会???会場は王城のセレモニーホール貸し切り。ここにスタッフの賃金、王城料理人の料理一式。別途、警備費用。」


「まあ、予算は国庫から頂いている。社交界デビューの練習という位置づけだからな。」

「そうねえ、新入生は15歳だから、16歳のデビューまでに場の雰囲気は体験したほうが本人のためよ。ナタリー、あなたもね。」

やんわりとアン様が諭すように話しかける。

「そうですね。そういう位置づけだとは理解しています。秋と冬はいいとして、春はあと1か月ちょっとしかありません。そこで、」

「そこで?」

「ガーデンパーティーはいかがかと。」

「ああ?」

「お昼に立食パーティーでいかがでしょう。会場を学院の中庭にすれば、警備は通常通り、会場料無料、しかもデイドレスで済みます!!ざっと試算したところ、従来のパーティーの半額程度で済むかと。残った分は、なぜか予算が付かなかった図書費に回せますよ!!」

「・・・・お前、、、自分の店のデイドレスを売ろうという魂胆じゃないだろうな?」

「い、、、いえいえ、、、まあ、そうなったらそうなったで。皆様はご指定の仕立て屋さんをお持ちでしょう?」

「んーーたまにはいいかもね?ガーデンパーティー。小さい時にはやったなあ。

どう?」

銀髪を煌めかせてウィル様が笑う。

「そうですねえ、、、高学年はもう春用のドレスを早々用意しているでしょうが、無駄になるものでもありませんしねえ、、、緊張している新入生にはちょうどいいかもしれませんねえ。」

「なんだ、何か図書館に入れてほしい本でもあるのか?うちの学院の図書館は充実しているはずだが。」

訝しそうな目でハルが尋ねる。

「え、、と、、、工学系と農学系の書籍が、なんというか、、古いんですよ。日々進化していますからね。しかも、領地に帰ってから一番役に立ちそうだなあ、って。」

「・・・・・」

うふふとウィル様が笑う。

「ハルはどうなの?・・・ていうか、ハルをやり込める令嬢は珍しいね。アンでさえ、ちょっとは遠慮するのに。」

「あー学園長と相談してみるよ。」


*****

学園長は面白がって、ガーデンパーティーに賛成してくれたらしい。

そこから、予算の組みなおし、全校生への告知、デリバリーの手配、会場準備、新入生への招待状、、、余裕かと思ったら、とんだブラックな仕事場だった。

アン様は美容に悪いから、と早々に帰るし、でも実は公爵家の執務が待ってるらしい。ウィル様は危ないからと送っていきがてら、実務面の指導をしているらしい。

あの2人は、、、まじめだな。

そして、話を振った張本人として私はハル様にこき使われることになる。

「・・・ハル様、、、、」

「なんだ。」

ハル様は顔も上げない。

「あのお、大変申し上げにくいんですが、、、お腹がすきました。」

紅茶だけで腹は膨れない。

「ちょっと失礼して、晩御飯食べますねえ。」

「え?俺の分は?」

「はい。二人分買ってきてもらったので、どうぞ。お茶いれますねえ。」

サンドイッチの包みを開いて、おしぼりを用意し、お茶を入れなおす。毎晩のことなので、学生協の店が終わってから、ルーに買い出しを頼んでいる。二人分で500ガルド。


「毒見しますねえ。うん。美味い。」

「あん?もういいだろ?」

「いやいや、高貴な方には毒見係が、、、うん、うまい。」

ハル様はあきれてサンドイッチを取り上げてかぶりつく。お腹すくよねえ。

「あとで250ガルド下さい。割り勘です。」

「お前は、、、、しっかりしてるな。俺に媚びを売る気とか、無い?」

「あら、やだ、ハル様、、サンドイッチおごったら壺代忘れてくれるなら、考えますわよ??ほほほ」

「・・・・・俺、現金もってないから、、学園内の買い物とかは付けで家宛てに請求されるし、、、後でいいか?」

「うーーーーーん。さすがだわね。」

「何に感心してんだ?お前も貴族だろう?

あーーそういえば、周りの子からいじめられてんだろ?」

「?」

「ほら、なんだ、、成金男爵令嬢とか言われてるんだろう?」

「ああ!そのこと!いじめだったんですねえ、、、初めて知りました。」

「へ?」

「【成金】って誉め言葉だってお爺ちゃんが言ってたから。

お爺ちゃんの東洋のお友達に聞いたんだけど、東洋には【しょうぎ】というボードゲームがあるらしくって、どの駒でも努力して一定ラインを超えると、【金】になることが出来て、もうそうなったら、その駒は力をもって自由自在に動けるんだって。

このゲームでは、例えば何の力もない一兵士でも、一定ラインを越せば【金】になれるんですよ!!すごくないですか?

だから、お爺ちゃんと父はもう、【成金】かなあ。兄と私は、いま、一定ラインを目指して走ってるとこ。私はちょっとつまずいて負債抱えたけど、まあ、何事も経験だから。

王都では意味が違うんですね?」

次のサンドイッチにかぶりついていたハル様が、びっくり眼で私を見た。

私もがぶりとサンドイッチにかぶりつく。美味しいなあ。お腹が減ってると、ますますおいしい。明日はマフィンにしよう。帰ったら、兄に手紙を書いて、お手紙セットが好調なので、追加で送ってもらって、、、アクセサリー類と春用のスカーフとデイドレスを見繕って送ってもらおう。前にこちらから送ったやつのサンプル品が出来た頃かな?ルーの接客が上手なので、学生協の店は繁盛しいるし、タウンハウスに出している庶民向けの小物屋さんは、週に2日しか開店できないけど、、、口コミでお客さんが来てくれるようになったしな。うん、、、

「おい、声に出てるぞ。ていうか、お前の屋敷は庶民の町にあるのか?おかしいだろう???」

「あーーお爺ちゃんがまだ平民だった頃の家をちょっと直して使っています。まあ、一応貴族の端くれなので、応接室だけはそれなりに整っていますね。そこの物置小屋だったところに手を入れて、小さな店にしました。」

「ふーーーん、、プレゼントに小物を買おうと思ってたんだが、、」

「うちで買っていただけるので??!だったら学生協の店のほうがいいですね。

町の店には町の人たちに小遣いで買えるくらいの価格設定の品物しか置いていませんから。学生協の店に置いている小物は、小さい石でも本物ですよ。」

「え?じゃあ、町では偽物を売ってるのか?」

「人聞き悪いこと言わないでください!!ガラスとか、透明度の落ちた石とかです。値段は雲泥です。うちの領地の石の加工見習の方が作ったものですね。試作品でも売れると嬉しいようですよ。で?

ハル様の恋人のお誕生日ですか?好きな石をお伺いできれば、別注もできますよ?大きい石ですと鑑定書付きでご用意できます。」

「・・・・母だ、、、、」

マザコン?

「おい、声に出てるぞ!違うわ!折角お前の店の売り上げに貢献してやろうと思ったのに、、、、」

「あ、それはよろしくお願いいたします。」











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