第3話 あと980万ガルド。

忙しい日々が過ぎ、ガーデンパーティーの当日になった。晴天。よかった。バラ園のバラも咲き始めて、良い感じだ。


5月の末の落ち着いた気候の中、中庭にはぼちぼち生徒が集まり始めている。

私は制服のまま生徒会の腕章をして、受付に立つ。

新入生の招待状の確認と、2.3年生の名簿のチェック。置かれた丸いテーブルに番号を張って、最初の席順はくじ引きにした。まんべんなく各学年が交流できるように。と、一定の人に人が集まり過ぎないように。まあ、みんな挨拶が終わったら動いてしまうだろうから、最初のうちだけだけどね。

人気者の生徒会役員の皆様に近づきたい方々は多い。この学院は基本、家名は明かされないことになっているが、2年生になって皆さん社交デビューすると、隠しても仕方なくなるし、その前に調べつくしている方のほうが多い。生徒会の皆様は気さくだが、それなりのご身分だと、、まあ、見てれば私でもわかる。家同士の関係で婚約されている方は多いが、それ以上の身分の方をゲット出来ればラッキーだし。

新入生歓迎会、といっても、集団お見合いみたいな?

3年生は卒業パーティーと同時に、婚約発表するのが流行だと聞いたから、まだお相手が決まっていない方や、野望をお持ちの方は頑張ってほしい。

「何を他人事みたいなことを言ってるんだ?声に出てるぞ!」

「あ、生徒会長!全員揃ったようですよ。始めてください。」

「・・・・・」


学園長のちょっと長めの挨拶や、国王からのメッセージが読まれ、生徒会長が音頭を取って乾杯。まあ、昼間だから、ジュースだけどね。後はご歓談の時間だ。

予想通り、ハル様やウィル様の周りは花盛り!色とりどり、選びたい放題だね!二人共、決まった方はいらっしゃらないみたいだから。アン様の周りにはこれまた我こそは!という感じの男子が群がっている。アン様は公爵家の跡取り娘なので、お相手は決まれば高位爵位と美人で聡明な妻を手に入れることが出来る。ふむふむ。

受付に椅子を持ち込んで、市場調査である。御令嬢のデイドレスの流行や靴。髪飾りやイヤリング、スカーフや帽子の合わせ方、、ご令息の着こなしとラペルピンやカフスボタン、、、持ち込んだノートに書きこんでいく。いいね!


黙々とデッサンしていた私の前に、山盛りの料理を届けてくれたのはアン様。

「やっと切り抜けたわ。ナタリーさん、椅子を貸していただける?」

「はい。お疲れですね、アン様」

「つ、、、疲れたわ、、、」

どさりと椅子に座るアン様。お疲れ様です。水色のデイドレスと上品なレース、結い上げた金髪がさわやかで素敵ですよ!パールに小さいアメジストがあしらわれたネックレスが重くなりすぎず、絶妙ですね。

「ありがとう。」

「あ、声に出てましたか?」

私は差し入れの料理を黙々と食べる。さすが!王宮の料理人のデリバリーサービス!美味しい!海の物、山の物、変わったフルーツ、、、

「あなたは、、地方出身のわりに、変わった食材とかにはあんまり驚かないのね?」

「・・・そうですねえ、父親の商談にくっいて、あちこち行きましたから。変わり種の料理にはあんまり動じません。ゲテモノも食べましたよ。さすがにここの料理は美味しいですよ!アン様は召しあがったんですか?」

「少し頂いたわ、、」

「あの背の高い茶髪の3年生にグイグイ来られてましたね?」

「あーーー見てた?侯爵家の次男坊よ。毎回よ、毎回。社交界でも会うしね。」

「侯爵家の次男坊では、ちょうどいいのでは?身長も高いし。性格まではわかりませんが。」

もぎゅもぎゅしながら私は答える。

「他人事だと思ってますでしょ?」

アン様は両手で私の頬をひっぱる。出ちゃうから、咀嚼したお肉が。

はああ、、とため息をついて、アン様は席に戻っていった。

身分のある方は大変だな。


山盛りの料理を食べ終わった頃、ちょうどいいタイミングでウィル様が冷たい紅茶と山盛りにしたデザートを持ってきてくれた。

「ごめんね、ナタリー、ちょっとだけ座らせてくれる?」

「あ、お疲れ様です。モテモテでしたね!」

「・・・・・ほんと、疲れた、、、」

ウィル様は夏用の紺のベストに白のブラウス。タイは上品な水色。上着は脱いで、椅子に掛けた。小さい水色のピアス。恋人の瞳は水色?なのか?

「いないよ。」

「あ、、、すみません、、、のどが渇いていたのでお茶嬉しいです!ありがとうございます。」

「・・・うん、、、アンが来てたの?」

「はい。ご飯を持ってきてくれました。いい人ですよねえ。モテモテだし。」

「・・・・・そうだね。」

「あ、ウィル様もモテモテでしたね!年上から年下まで!さすがです。」

そう、伯爵家の三男坊。見目麗しく、成績優秀。宰相ぐらいにはなりそうな実力。将来が楽しみな人材である。婿に欲しい家は沢山あるだろうな。

「・・・ありがとう。」

あ、すみません。


テーブルに肘をついて、ぼーーーっと会場を眺めている。んんん?気になる人でもいるのかな?ま、とりあえず、デザートの盛り合わせを食べよう。プチケーキの詰め合わせ、フルーツ入りのジェル、イチゴの入ったシュークリーム、、、美味しい。

ウィル様も一休みすると、ため息をつきながら会場に戻った。人気者は大変だね。


さて、お腹も膨らんだので、新入生への記念品を用意し、閉会式に備える。

私の兄が、新入生30人分のレターセットを無償で、提供。見え見えである。損して得取れ、みたいな?

直接学園長に話を通したらしく、ギフト用にきれいに梱包されたレターセットが届いたときは、発注ミスかとルーと確認した。先に私たちにも説明必要!

一人一人に配って、解散。最後に残った一つは、なんと私の分だと後で気が付いた。


皆様、実り多いパーティーでしたでしょうか?


*****

新入生歓迎会の会計報告書を上げたあたり。親睦を深めた人たちも多いらしく、学園全体がふわふわと、なんというか、、薄桃色?


「ナタリーに見ていただきたいものがあるの。」

アン様がとても困惑した顔で、かわいい小箱を生徒会室に持ち込んだのは、そんなある晴れた日の放課後。

おお、早速のプレゼント攻撃ですか?

「・・・・・そうね。」

あ、声に出てましたか。失礼しました。

「私、もうすぐお誕生日なのよ。どこかで聞いたらしくて、、、ブース様からプレゼントが届いたのですけれど、、、」

ああ、あの、前のめりの茶髪野郎ね。

「こほん。」

アン様がそっと箱を開けると、そこには大層豪奢なネックレスが入っていた。しかも、センターの石の大きいこと!!何カラット?まさかのダイヤモンド???

「・・・お誕生日に頂くには、少し高価すぎるかと思うのだけれど、、どう思います?あなたなら小物も扱っているから、感想をききたいの。」

「うーーーん」

ハル様もウィル様も執務席から立ってきて覗き込む。

「うーーーーん」

「これは、、、【王手】ですね。間違いありません。」

「なんだ?その、おうて、ってのは?」

ハル様が訝しそうな眼を向ける。

「そうですね、、、チェスでいう、『チェック』に近いものですかね?」

「・・・・・??その心は?」

「あと一手くらいで落としますよ~って感じですかね。

あと、2,3日後にはあの茶髪の御子息の親御さんから正式に婚約の申込書がアン様のお父様のもとに届きますね。そこで詰み、ですよ~みたいな。」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「あ、、、すみません、石、本来のことですかね?」

日差しが差し込むうららかな午後が、急にお通夜みたいになってしまい、少し反省。でも、まあ、見立てたとおりだと思う。ただ、まだ詰んではいないので手はあるはずですよ!アン様のお家のほうが高位なので、断れるし。ただ、断るにも、合理的な理由が必要だとは思う。先方さんに明らかな問題があるとか、、家が釣り合わないとか、、政略的に不都合があるとか、、茶髪野郎がしつこそうな性格だから、ってのは、合理的な理由としては、、、、、

「・・・おい!独り言はその辺にして、石を見るんだ。」

ハル様がちょっといらだってしまった。

「あ、、はい、ちょっと失礼して、見せていただいても?」



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