幕間 村間めぐみの幼馴染

 幼稚園の頃。

 あたしが公園に行くと、いつも2人はいた。


 わんぱくで頼りがいのあるサキちゃん。頭が良くていろんなことを知っているマーくん。あたしは泣き虫で、幼稚園ではあまり遊べなかったけど、公園で二人と過ごす時間はとっても楽しかった。

 昔のことで、どんな遊びをしたか、詳細なことはあまり思い出せない。だけど、サキちゃんが木登りを教えてくれたこと、そして星に詳しいマーくんとぼんやりと空を眺めたことは、いまでもなんとなく覚えている。

 あたしはそんな2人が大好きで、彼らに会うのを楽しみに、毎日あの公園に通っていた。


 でも、小学校に入るくらいのタイミングで、突然マーくんとは会えなくなった。親の都合で引っ越しをしたらしい、そう母からは聞いた。

 そして小学校ではサキちゃんとも別のクラスになり、次第に彼女とも遊ばなくなった。3年生になってまた同じクラスになったけど、前のように話すことは、もうなかった。


※※※


 小学4年生の時、ちょっとした、だけどあたしにとってはすごく大きな事件が起きた。


 ある掃除当番の日。

 あたしがゴミを捨てて教室に戻ると、同じ当番だった人たちは誰もいなかった。

 いたのは紗希ちゃんと……割れた花瓶だけ。

 そこにちょうど先生が帰ってきた。


「あ、村間! 割っちゃったか」

「え、いや、あたしは――」

「危ないからとりあえず離れて。おーい、誰かちりとり持ってきてくれ」


 先生は廊下にいた子たちを集めて、花瓶の破片を片付けていった。これはあたしが割った物。そんな空気を作りながら。


「まあ、割れてしまったものは仕方ない。次から気を付けるんだぞ、村間」

「えっと……はい」


 気が弱いあたしは、自分は割ってないと主張することができなかった。そのまま、花瓶はあたしの不注意で割れたことになった。本当は掃除当番の男子が割ってそのまま逃げたらしい。後日、あたしはそう知った。

 でも最もショックだったのは、あたしが犯人になってしまったことではない。一部始終を見ていたはずの紗希ちゃんが、あたしに手を差し伸べてくれなかったことだった。


 もちろん、紗希ちゃんにあたしを助ける義務はない。あたしが毅然とすべきだったというだけだ。彼女に非は一つもない。

 だけど……昔の彼女はこういう時、必ずあたしを守ってくれたのだ。あたしが泣いていたら、そばに居て、絶対に一人にはしなかった。だからこそ、彼女が何もしてくれなかったことで、あたしは嫌でもその事実と向き合わざるを得なかった。私と彼女の関係は、が過ごしたあの時間は、完全に過去のものになった、と。


 どんなに素敵な関係も、大切な繋がりも、それを守る努力を怠れば、簡単に失われてしまう。その絆を守れるのは、の蓄積なんかじゃなく、の不断の努力だけだ。幼馴染だから分かり合える、信頼し合える、そんなの単なる願望で………甘えだ。


※※※


 高校生になり、転校したあたしに、神様は再びチャンスをくれた。

 そこにいたのは久遠真那弥くん。雰囲気はまったく変わっていたけれど、あたしにはすぐにわかった。彼は間違えなく、


 けれど、彼はあたしを覚えていない。それどころか幼馴染がいないと嘆いてさえいる。

 これはチャンスだ。そう思った。


――彼と0から関係を創ろう。そして今度こそ守り切ろう――


 幼馴染は、いまの関係を守るものでも、補強するものでもない。これからの繋がりに、過去の繋がりは何の役にも立たない。それならばいっそ、そんな気休めは無い方がいい。 

 

 あたしは絶対に信じない、幼馴染が永遠なんて。

 あたしはもう間違えない、幼馴染なんてなくても、最高の繋がりを、築き上げてみせる。


 村間めぐみはそう、心に誓っていた……

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