第35話 真実の幼馴染
住宅に囲まれた狭い公園の中で、4人の高校生が向かい合っていた。女子3人と男1人。つまり俺がとっても浮いている。
いやだってさ。澄玲は言わずもがな、村間もかなり可愛いじゃん? そしてクール系美人の紗希さん。最後にイケメンでもツケメンでもラーメンでもない俺。場違いが過ぎる。
……なんて、どうでもいいことを考えたくなるくらい、この場の空気は重いのだ。旧友との感動の再会には程遠かった。
「久しぶりだね、めぐちゃん。小学校の卒業以来かな」
「そ、そうだね。え、えと、紗希ちゃんは元気にしてた?」
「うん。ぼちぼちだよ」
どこかぎこちない村間と紗希さんの会話を聞く内に、俺の記憶も段々と鮮明になっていった。そうだ、昔はこの公園で一緒に遊んでいた。紗希さんが乗るターザンロープを、羨ましいなって見てたっけ。俺はまだ背が低くて乗れなかったから。
「それで、君はまーくん、じゃなくて真那弥くんだよね。私のこと覚えてる?」
「まあ、なんとなくは。そこのターザンロープで、よく遊んでいたっけ」
「そうそう。あれ、好きだったなぁ」
いまでは小さくなり過ぎてしまった遊具を眺めながら、彼女はしみじみと語った。俺の夢見た幼馴染が、そこにはいた。
だけど……どうしてもぬぐえない違和感。なぜ俺は、彼女たちとの関係を、いままで忘れていたのだろう。村間と1年間共に過ごし、幼馴染が欲しいとぼやき続け、思いだすタイミングはいくらでもあったはずなのに。
そして最も気になるのは、村間と紗希さんとの距離感だ。幼馴染の再開なのに、俺が夢想した『信頼』はそこにはなくて、むしろ所詮他人という『あきらめ』が見えた。それはまるで、俺が願った幼馴染は
「でも真那弥くんとは10年ぶりなのに、あんまり久しぶりな気がしないな~」
「そうか?」
「うん。実はこの間、すっごく真那弥くんに似た女の子に会ったんだよね。もしかしたらそのせいかも」
「へ、へぇ。それは偶然だな……」
「今度連絡してみようかな」
「え!? いや、それは……」
冷たい汗が背中を伝る。もしかしてこの状況、久藤真那弥、結構ピンチじゃね? だってこの人、俺の
だが、幸い紗希さんの関心は、既に別のところに移っていた。
「それで、あなたは――」
「初めまして。水上澄玲です」
澄玲の表情もまた、いつになく堅かった。たまに見せる『無関心』や『敵意』とも違う……そう、無気力の顔。
「進藤紗希です。澄玲ちゃんって呼んでもいいかな?」
「ええ、お好きにどうぞ」
「ありがと~。それにしても澄玲ちゃん、すっごく美人だね。芸能人みたい」
「それはどうも」
わざとらしいほどに、そっけない反応。会話を続けるつもりがないことは明らかだった。
「あ、それじゃあ私、この後用事あるから。みんなまたね!」
「うん、またね。紗希ちゃん」
軽く別れを告げて携帯を見ながら公園を出る紗希さん。誰かと待ち合わせでもしていたのだろうか。
そして俺たちも、他に行くところはないため、程なくして駅へと歩きだした……
※※※
帰りの電車。車内は朝以上に空いていて、俺たち以外に乗客はいない。
「なあ、村間」
「……なに?」
「覚えてたんだよな。俺と村間が、幼馴染だって」
「……うん」
村間の口数は、あれから極端に少なくなっている。
どうして幼馴染であることを黙っていたのか。どうして幼馴染に懐疑的なのか。そして……どうして幼馴染を忌避するのか。渦巻く疑問に、村間はなんの回答も示してくれはしない。
先に口を開いたのは澄玲だった。ふう、と小さくため息をつくと、彼女は俺に向けて言った。
「私はもう、必要ないわね」
「澄玲、必要ないって……?」
「久遠真那弥には本物の幼馴染がいた。だから、幼馴染の契約なんて必要ない。あたしがここにいる理由はない。そういうことよ」
「いや、それは――」
「なんでそうなるの!」
村間が急に立ち上がり、澄玲に詰め寄る。その瞳は涙でいっぱいで、いまにも溢れ出しそうだった。
「楽しかったじゃん! お洋服選びもショッピングも水族館もピクニックも。全部、全部楽しかったじゃん……。澄玲ちゃんは違うの?」
彼女の声が誰もいない車内に響く。だが、澄玲の心には響かないようだった。
「村間さん。ここは電車よ。声を落としましょ」
「っ……⁉」
そのまま倒れ込むように、村間は席に座った。水上澄玲はそれを気にかける様子もない。
さっきまで当たり前にあった繋がりは、脆くも崩れ去ろうとしていた。
どうしてこうなってしまったのだろう。
幼馴染を手に入れることは俺の夢で。隣にいる村間めぐみこそが、俺の幼馴染で。望んだ理想の世界は、まさにこの瞬間のはずなのに。
――どうしてこんなに切ないのだろう――
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