第37話 それでも、幼馴染への愛はある
俺の故郷を訪れてから1週間。
学校で澄玲と顔を合わせることはなくなり、村間とも口を利かない時間が続いていた。
昨日まで当たり前にあった日々は、明日も当たり前に訪れるわけではない。その当たり前を取り戻す術を、俺は知らないのだ。
……あー、気まずいよー。
この間、紗希さんと電話して、『よし、村間と和解しよう!』とは思ったけどさ……そもそも俺、村間と喧嘩したわけではないんだよな。ただ関わるきっかけがわからなくなっただけで。
昼休みのいまも、鮭おにぎりを頬張りつつ隣を伺っているが、村間は難しい顔でスマホをいじり続けており、とても話しかけられるような雰囲気ではない。もうずっとこんな調子だ。
その時、前の方の席からあの女の人がやってきた。
「こんにちは。久遠くん、めぐみちゃん」
清水寧々さんだ。人に話しかけられるなんて、久しぶりだなぁ。珍しく
「ここ、こんに、ちは。寧々ちゃん」
「……こんにちはでございます」
村間の声聞くのも久しぶりだ。
いつも通りを装おうとしているものの、顔は引きつり気味で、不自然さを隠しきれてない。まあ俺に関しては、正しい挨拶の仕方も忘れかけてるんだけど。
すると、その気まずい空気を察したのか、清水さんは俺と村間を怪訝な顔で見比べ、そして尋ねた。
「喧嘩でもした?」
まあ、そう思いますよね。いままで毎日話していた人たちが、もう1週間も口を効いてないんだもん。
けど……喧嘩の方が楽だったかもな。
「……別に」
村間らしくないぶっきらぼうな返答。清水さんも少し困惑の表情を見せた。
が、次に思い出したかのような顔で、とんでもない言葉をぶち込んだ。
「告白したとか?」
へ?
告白?
誰が誰に何を?
「してない!」
と慌てて叫んだ村間の手は、なぜか小さく震え、明らかに動揺している。何か告白する罪でもあるのだろうか。俺はたくさんあるけど開き直ってるから告白しないぞ。
「なーんだ、してないのか。残念」
と言いつつ、清水さんもニヤニヤ笑ってる。だから何なんですか、2人とも。
「……ピクニックの感じだと、イケそうだったのにな」
だからイケるってなにが……って、ん? ピクニック……?
「あのう、ピクニックというのは――」
「あ、いや。なんでもない。えっと、真那弥くんはピクニックなんか行ってないもんね」
「そ、そうだよ寧々ちゃん! ピクニック行ったのはまなちゃんだよ! 真那弥くんとはなーーーーんにも関係ないよ!」
まじすか、ばれてるじゃないすか、いつからですか。てか気がついてたなら、俺の女の子の演技をどんな目で見てたんですか。
やばい、恥ずかしくて死にそう。
「……あの、村間さん、清水さん。少しお話よろしいでしょうか」
※※※
例によって、昼休みの理科室には誰もいなかった。
俺たちは、かつて清水さんの恋愛相談を受けた時のように、適当な椅子に腰掛けた。
「それで、いつからお気づきでした?」
「うーん、最初からかな」
最初と言うと……あれか! 郷田龍哉にナンパされたときだ。
……自分の男が男をナンパするあの場面を、清水さんはどんな気持ちで見てたんだろう。俺もきつかったが、清水さんはもっとかもしれない。少しだけ同情した。
「いやー、ね? ぱっと見は女の子だと思ったんだよ。でも、めぐみちゃんの顔が好きな男といる顔だったから、ん?って思って。それで、よく見たら真那弥じゃんって」
「なるほ――えっ。好きな男?」
好きな男ってつまり……
「寧々ちゃんストップ――」
「もう言っちゃいなよ。ずっと好きだって」
村間が、俺のことを……?
それはどういう意味の……の答えは、彼女の焦った顔が物語っていた。
「あ、あのね。真那弥くん、これは――」
「そうだ、私これから龍哉と待ち合わせてるんだ。てことで、この後はお二人さんで楽しんで♡」
そう言い残し、清水さんは無責任にすたこらと去って行った。
理科室には、さっきまでとは別の気まずさに包まれた男女だけが、残されたのだった。
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お久しぶりです。
なかなか時間が取れず、かなり更新が空いてしまいました。すみません。
今後も不定期の更新にはなりますが、最後までお付き合いいただけますと幸いです。
(6000PVありがとうございます!)
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