第33話 復活の幼馴染

「おはよう2人とも」

「澄玲ちゃん⁉ もう大丈夫なの?」

「ええ、すっかり良くなったわ。ありがとう」


 翌日。

 教室で村間と話していると、元気になった澄玲が顔を出してくれた。やっぱり朝は澄玲の顔を見ないと始まらないな。別クラスとは思えないくらい馴染んでる。


「真那弥もありがとね」

「おう。気にすんな」


 お見舞いに行った時も感じたけれど、以前よりも澄玲は俺に対して素直になった気がする。尖っていた部分が抜けたような。

 それと、俺は彼女に一つ確認したいことがあった。『幼馴染になってくれてありがとう』という澄玲の言葉。彼女の、この理想の関係幼馴染に対する捉え方に、何か変化があったのだろうか。


「なあ、澄玲」

「なにかしら?」

「澄玲にとって幼馴染って何だ?」


 すると澄玲と村間は顔を見合わせ、やがてぷっと吹き出した。


「あなたにそれを聞かれるとはね」

「そうだよ。真那弥くんが一番詳しいんじゃないの?」

「いや、まあそうなんだけど……」


 たしかに、俺が幼馴染について質問するというのもおかしな話だ。

 だが、澄玲は少し考えた後、彼女なりの回答を提示してくれた。


「昨日、私が風邪にやられていた時、あなたが横に居てくれるだけでとっても安心できた。たぶん、私がどんなに孤独でも、あなたはきっと側に居てくれる、そう信じられたから。いつでもここにあると確信できる信頼関係、それが幼馴染なのかなって、私は思うわ」


 俺は感動していた。

 幼馴染への憧れ。それを本当の意味で理解してくれる人なんて、これまで誰もいなかった。だけどいま、目の前で、他でもない俺の幼馴染が、その憧れを初めて理解してくれている。それがどうしようもないくらい、嬉しかった。


「あたしは、やっぱりわかんないよ……」


 澄玲とは対照的に、村間の顔は浮かなかった。腑に落ちない、そう語っていた。


「永遠に続く関係なんて、一つもない」

「村間……」


 俺は、彼女を説得する言葉を持たなかった。幼馴染への想いは、一種の信仰で、だからそれを強制することなんてできないのだ。


「そろそろ教室に戻るわね」

「おう。澄玲またな」

「澄玲ちゃんまたね」

「そういえば、今後もっと幼馴染に近づく方法について、少し考えたことがあるの。だから、昼休みまた話しましょ」

「わかった」


 こうして、澄玲は教室に戻っていった。

 彼女はどんな方法を提示するのだろうか。


※※※


 昼休み。

 澄玲は弁当を持って再び教室にやってきた。俺はおにぎりにかぶりつく。


「それで、幼馴染に近づく方法って?」

「真那弥が昔住んでいた街に行くのはどうかなって?」

「俺の住んでた街?」

「ええ。小さい時の記憶を、一部でも共有できないかなって」

「なるほど……」


 たしかに名案かもしれない。前に一緒にアルバムをあさったが、実際にその場所に行けば、写真で見るよりもその記憶はより鮮明になるだろう。

 だが一つ問題があるとすれば。


「俺けっこう引っ越ししてるから、一つの場所には絞れないぞ?」


 小さい頃から父親は転勤が多く、長く住んだ場所というのはない。だからこそ俺は、幼馴染も、昔の想い出を共有できる仲間も、いなかったのだ。


「そうよね……。じゃあ、真那弥の一番古い記憶にある場所はない?」

「う~ん。それもうろ覚えで……あ、公園!」

「公園?」

「ああ。小学校入るまで住んでたところだ」


 この間、村間の家で見た公園の写真。はっきりとは覚えていないが、俺も誰かと一緒に遊んでいたような気が……しないでもない。実際に訪れれば、何か思い出すものもあるかもしれない。


「ここから電車で一時間くらいだし、行けない距離じゃないと思う」

「そうね。じゃあ今週末一緒に――」

「ま、待って!」


 ここまで黙って聞いていた村間が、唐突に口を挟んだ。何か言いたげな表情をしている。


「どうした?」

「昔住んでたところって言うのはちょっと……」

「何か問題あるのか?」


 けっこういい案だと思うんだけどな。


「んっと……ううん、やっぱり何でもない。あたしもついて行っていいかな?」

「おう、もちろん」


 この時の俺は知らなかった。

 村間めぐみが抱える、の秘密を……










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