第32話 幼馴染が体調崩したらお見舞いに行くよね

 最近おかしい!


 今朝の食卓での出来事。

 いつもは普通のトーストを食すのだが、今日は大好きなフレンチトーストでテンション爆上がり! 嬉しすぎて、俺はつい「あたしフレンチトースト大好き!」と言ってしまう。そして凍りつく空気、両親の憐れみの視線……ひどくない?

 これもきっと、真那弥の人格がまなちゃんに乗っ取りかけられてるせいだ。どうしてこんなことに……俺はただ、幼馴染が欲しかっただけなのに。


「まなちゃ……じゃなくて真那弥くんおはよ」

「おい、わざとだろ」

「違うもん。まなちゃん不足でつい出ちゃっただけだもん」

「変な中毒かかるな。あと教室であんまりまなちゃん言うな!」


 ばれたらほんとに困るんだよ。好きで女装してるわけじゃないんだよ。わかってくれよ。


「ごめんごめん。そういえば、今日はまだ澄玲ちゃん来てないね」

「そうだな」


 そもそも別クラスなのに毎朝顔出してるのがすごいんだけどな。ちゃんと幼馴染を遂行しようとしてて偉い。


「もしかしたらこの間、無理させちゃったからかも……」

「たしかに頑張ってたよな。一応、昼休み会いに行くか?」

「うん、そうする」


 俺も少し心配になってきた。あの元気な3兄弟と遊んで疲労はかなり溜まっていそうだし。

 けど村間はあの弟たちをほぼ毎日相手してるんだもんな。すごすぎる。俺なら3日で倒れるね。


 そして昼休み。いつものようにおにぎりを頬張っていると、村間が飛んできた。


「真那弥くんたいへん! 澄玲ちゃん、体調崩して休んでるみたい」

「まじかよ」

「やっぱり無理してたんだ……。澄玲ちゃん一人暮らしだし、きっと困ってるよね」

「心配だな……」


 ただでさえ大変な高校生の一人暮らしだ。熱なんて発症したらなおさらだろう。


「ねえ、学校終わったらお見舞い行こうよ。いろいろ買ってさ」

「そうだな」


 澄玲、大丈夫かな……


※※※


 こうして放課後。澄玲とも連絡がついたので、薬局を中心に必要なものを揃え、彼女の家を訪れた。


「大丈夫かな、澄玲ちゃん……」

「熱はそこまでないみたいだけど……とりあえず入ろう」


 チャイムを押すと、10秒くらいして澄玲が出てきた。


「ありがとう、来てくれて…コホッ」

「澄玲ちゃん!」


 熱がある感じではないが、顔色がかなり悪い。見るからに弱っていそうだ。

 俺は澄玲に肩を貸し、布団に連れて行った。


「澄玲ちゃん、ごめんね。あたしが無理させちゃったから……」

「それは関係ないわ……コホッ…体調管理が不十分だった……だけ、よ」

「でも――」

「それより、2人が私を…心配して来てくれたことが……とっても嬉しいの……ありがと」


 澄玲は涙をこぼしていた。よほど不安だったのだろう。朝からずっと一人だったのだから無理もない。


「ごはんは何か食べられてるか?」

「いいえ…あまり食欲がなくて……」

「じゃああたし、リンゴ剥いてくるね。真那弥くんは澄玲ちゃんのそばに居てあげて」

「わかった」


※※※


「……本当にありがとう…来てくれて。心細かったから……嬉しい…コホッ」

「無理するなよ。それと見舞いを提案したのは村間だ。俺は何もしてないよ」

「もちろん……めぐみちゃんにも感謝してるけど…あなたにも感謝してる……」

「それは、どうも」


 面と向かってお礼を言われるのは、少しくすぐったかった。でも、澄玲の心の支えになれているなら、それは嬉しい。


「何かして欲しいことはあるか? 氷嚢とか」

「大丈夫、身体は熱くないの。それより………ここにいて欲しい…コホッ。どうしても…不安で」

「わかった」


 とてもつらそうなのに、横にいることしかできないのがもどかしい。


「ねえ、真那弥」

「なんだ?」

「私ね、いま幸せなの」

「幸せ……?」

「ええ。好きなものだけを追いかけて……誰かのために行動したこともない私を…こうして心配してくれる………お友だちがいることが」

「そんなの当たり前だろ。俺だって、澄玲が幼馴染になるって言ってくれたこと、すごく感謝してるんだから」

「そう」


 澄玲がそんな風に考えていたのは、少し意外だった。彼女は人間そのものには、あまり興味はないと思っていたから。

 でも、俺も澄玲と同じかもしれない。幼馴染にしか興味が無いと言いつつ、澄玲や村間と過ごすこの日々は、幼馴染を抜きにしても、やっぱり楽しかったから。


「真那弥」

「ん?」

「私の幼馴染に、お友だちになってくれて、ありがとう」

「こちらこそ……って、寝たのか」


 澄玲の寝顔は、とても幸せそうだった。俺も少し、胸が暖かくなったような気がした。


「おかゆできたよ~、ってあれ。澄玲ちゃん眠っちゃった?」

「ああ、今さっきな」

「何を話してたの?」

「友だちになってくれてありがとうって話」

「え~いいな。あたしも澄玲ちゃんや真那弥くんと出会えて、すごく嬉しいんだよ!」

「ああ、俺もだ」

「ふふふ。澄玲ちゃんが元気になったら、またみんなで遊びたいな」

「そうだな」


 俺は人と人との繋がりを信じていない。簡単に壊れる、儚いものだと、いまでも信じてる。

 だけど、時々願ってしまうのだ。この大切な関係が、幸せな時間が、永久に続いて欲しいと。


 たとえそれが、『幼馴染』ではなかったとしても……


――――――――――――――――

明日の投稿はお休みさせていただきます。

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