第29話 幼馴染に必ず好意を持たれるとは限らない

 いやあ、ピクニック日和のいい天気だなぁ。この時期にしては涼しく、ひんやりとした風が気持ちいい。ワンピースの下から感じる空気の流れにはまだ慣れないけど、汗で化けの皮が剥がれる化粧が落ちるよりはましだよね。

 

「あ、やっほー。めぐみちゃん」

「寧々ちゃんやっほ。もう着いてたんだ」

「うん。早めに場所を取っておきたくて。水上さんも来てくれてありがとね」

「ええ。こちらこそ誘ってもらえて嬉しいわ」


 さっそく俺たちは、付き合いたてほやh(中略)カップルと合流した。最初は険悪……というか一方的に澄玲を敵視していた清水さんだけど、いまではすっかり仲良くなったようだ。よかったよかった。それじゃ、俺は帰ろうか――


「こんにちは」

「こ、コンニチハ」


 くっ、俺の存在も認知されている……。なるべく気配をを消していたのに。


「めぐみちゃんの彼氏のまなちゃんだよね?」

「⁉」


 俺はブンブン首を振って全力で否定する。どうしてあなた清水さんは女の子同士をくっつけようとするの? まさか、俺が男だと見抜いて……って、だとしても俺は彼氏じゃねえよ!


「も~寧々ちゃん。あたしとまなちゃんは普通のお友だちだよ~」

「ごめんごめん。お友だちね」


 うんうん、ちゃんと否定してくれてよかった。まんざらでもなさそうなのがやや気になるけど。


「そういえば、まなちゃんって久遠くんにもちょっと似て――」

「いとこ! まなちゃんは真那弥くんのいとこなの!」


 おいおいおいおい。勝手に設定を追加するな。うちの両親一人っ子なんですよ。いとこはできっこないんですよ。


「そっかあ、いとこかあ。真那弥くんとは家族ぐるみの付き合いなんだね」

「んっと、まあそういう感じでもあったりなかったり……あ、龍哉くん髪切った?」


 村間が無理やり話を逸らした。賢明な判断だ。これ以上何か喋っても

ぼろしか出ないだろうしな。もう出し過ぎてるけど。


「おおおおおう」

「龍哉くん?」

「きき、切ったぜ。ばっさり」

「いいね~さっぱりした!」


 どどどどどした? 郷田くんソワソワしてない? 彼女といて浮かれてる……とかではないよな。教室ではいつも一緒だし。

 はっ! よく見たらこの状況、郷田龍哉ハーレムの回じゃん。それで落ち着きがないのか。彼の狙いは彼女ガールフレンドの清水寧々か、学校1の美少女にして尊男卑思想の最高峰水上澄玲か、童顔ツインテールの最強乙女村間めぐみか、あるいは内気フォームの女装男子まなちゃんおいら……いや、それだけはやめてくれ。清水さんに息の根を止められる。


「りゅうや♡……わかってるわね?」

「もももも、もちろん」


 清水さんが既に郷田を睨みつけている。さすが、彼氏の浮ついた心をいち早く察知している。怖いし帰りたい。


「それじゃ、早いけどお昼にしましょうか」

「お、いいね~。食べよ食べよー」


 澄玲の一言で緊張感のある空気が少し緩んだ。

 はあ。先が思いやられる……


※※※


 少し丘になった広い場所に、俺たちはレジャーシートを敷いて腰を下ろした。敷物はピンクが基調の可愛いやつ。村間セレクトだ。


「じゃーん。サンドイッチ~」

「「おーーー」」


 村間が花柄のおしゃれバスケットにサンドイッチを詰めてきた。これがおしゃぴく! しかも、


「おお、卵サンドだ……!」

「ふふーん。まなちゃん好きって言ってたもんね」

「うん、大好き!」


 サンドは卵が一番うまい。パンの柔らかさを邪魔しないというか、一体化しているというか、互いが互いを高め合っている。サンドイッチ界の頂点、それが卵サンドだ。村間はよくわかってる。


「あれ、まなちゃん声大丈夫?」

「え、ウ、ウン。コホンコホン」


 卵サンドに興奮してつい真那弥の声が。落ち着いてあたし。あたしは女あたしは女あたしは女。


「ねえ、水上さん。聞いてもいい?」

「なにかしら?」

「久遠くんのこと、水上さんどう思ってるの?」


 え、何その質問。どう思うって『好き♡』とかそういう……? いや、悪口の可能性もある。『久遠くん? ああ、虫けらよ』とか言われるかもしれない。澄玲ならおおいにあり得る。


「どうって……ただの幼馴染よ」

「ふーん。じゃあ恋愛的に好きとかではない?」

「そうね、私は男性は好まないから」


 そう言って澄玲は郷田を睨みつける。『郷田くんは帰ったら? 百合の花園を楽しみたいのだけれど』と目が語っている。怖え。澄玲さんが付き合うとしたら間違いなく可愛い女の子ですもんね。でも、ただの幼馴染という回答には感動したよ、ありがと!


「めぐみちゃんは……まなちゃんか」

「違うもん!」

「じゃあ真那弥くんだね」

「ちちち違うもん!!!」


 さっきから冷汗がやばい。

 この人めっちゃカマかけてくるじゃん。コイバナジャンキーなの? それか彼氏とイチャイチャし過ぎておかしくなったか?


「ふふっ、めぐみちゃんごめんね。ちょっとからかい過ぎちゃった」

「も~」

「でもさ、私は本当に、めぐみちゃんには笑顔でいて欲しいから。もしも好きな人ができたら後悔の無いようにしてね。」

「……うん」


 好きな人か。

 村間にもいるのかな。人当たりがいいし、顔も可愛いし、結構モテそうだけどね。


 俺は……誰だろ、好きな人。


 な~んて頭を使っていると、急に生理的欲求に襲われてしまった。俺は隣の村間にこそっと声をかけた。


「ちょっと……トイレ行ってくる」


 次回、男の娘のトイレ事情!

 絶対見てくれよな(違

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