第28話 幼馴染はデートにもしれっと混ざれたりする
朝8時。
俺は澄玲の家の化粧台にて、自分の顔面が工事されていくのをただ眺めていた。すごいよなぁ、お化粧だけで本当に女の子になるんだもん。この顔が自分じゃなければ大絶賛してたわ。
すると、同じく
「今日は楽しみだね! まなちゃん」
「そうだ……いや、そんなわけあるか! 気が重くてしかたないわ」
「ぶう」
買い物帰りには一瞬楽しみかもと思ってしまったが、やっぱり不安が勝る。うわーん、人混み怖いよぉ。ぐすん。
「あとまだまなちゃんじゃないです……」
「はいはい。まだ真那弥くんね」
この言い方だと、これからまなちゃんになるのは認めたことになるけど……もう半分諦めてます。受け入れないと俺の心が持たないのだ。これが防衛機制か、たぶん。
「澄玲ちゃんも来てくれるんだもんね?」
「ええ。清水さんがぜひ一緒にって」
「ふふふ。みんなでピクニック嬉しいな~」
村間は上機嫌だけど、なんで清水さんは澄玲を誘ったんだろうな。郷田は元々澄玲が好きで揉めたわけだし、彼氏の近くに一番置きたくない人間な気がするけど。
まあ、ダブルデートの目的は9割いちゃいちゃ自慢だし(俺調べ)、彼氏の昔好きだった女に対してマウントをとりたいのかもしれない。澄玲は男には嫌悪しかないから何も思わないだろうけど。
「さあ、できたわ!」
「お~今日はポニーテールだ。かーわい~」
村間がおっしゃる通り。相変わらずまなちゃんはとっても可愛い。ポニーテールも『ちょっと気合い入れてみた♡』って感じでギャップ萌えにキュンキュンする。いや、女装自体がギャップなのだけど。
はあ。なんか最近は拒絶感も薄れてきちゃったなぁ。普通に可愛いを受け入れてしまってる。一応言っとくか。俺、男なのにーーー。
「ねえ、まなちゃん。耳貸して」
俺の耳はお高いぞ?という返答を聞くまでもなく、村間は背伸びをして耳に口を近づけた。そして吐息交じりの声で囁いた。
「……あたしとのお揃い、忘れないでね♡」
「は、はいっ」
先日一緒に購入したイヤリングを誇らしげに見せる村間の表情は、普段よりも大人っぽくて、不覚にもドキリとしてしまった。俺が女装すると村間は平気でこういうことするんだよな。同性だと遠慮がなくなるのかな。俺の心は常に男だから適切に対応できないのですが……
「それじゃあ、バスに向かいましょうか」
「「はーい」」
まだまだ不安がいっぱいですが。
ダブルデート+澄玲さんのピクニックが始まります!
※※※
清水&郷田の『付き合いたてほやほや熱々幼馴染カップル』は現地集合なので、俺たちは3人でバスに乗り込んだ。
だが車内は休日なのにめっちゃくちゃ混んでいる。天気が良いからかな。俺はこういう日こそ家でダラダラしたいけどね。もちろん雨の日も濡れるから家でダラダラしたいし、曇りの日も気分が上がらないのでダラダラしたい。
「うわあ、すごい人。席も埋まってる……」
「仕方ないわね。1時間くらいだし、我慢しましょう」
「そうだな」
というわけで、俺はワンピース姿の女子高生として立つことを余儀なくされたわけだが、すぐ周りの人に押されに押され、村間&澄玲とも距離ができてしまった。この格好で一人は心細いよ……
「でさあ、彼氏が全然気が利かなくてさ~」
「まじ? サイアクじゃん」
隣で女子2人が大声で会話してる。女装している時に同年代の知らない女子が近くにいるのが最もサイアクだ。それこそ、彼氏の気が利かないことの比ではない。
……って、よく見たらこの人たちの顔、知ってるぞ。間違いない、同じ学校だ。話したことはないが、廊下ですれ違ったことがある。
であれば一層注意せねば。俺が彼女たちの顔を知っているということは、彼女たちも俺の顔を知っている可能性があるということ。深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ。俺は顔がばれないよう、床と見つめ合った。
「デートの時なんかさ、一円単位で割り勘してくるんだよ! ありえなくない?」
「あ~それは萎えるわ。さっさと別れなよ」
なんか恐ろしい会話してるぞ。金銭面がきっちりしてるのはむしろ高評価だろ。どんなに仲が良くても、愛する彼氏だろうと、お金はトラブルの元! その芽はなるべく摘んでおくべし。俺は彼女いたことないけど。
「次は~空ヶ丘~」
やば次じゃん。
俺がボタンを押すため、顔を上げると
「あっ」
やばいやばいやばい。隣の女と目が合ってしまった。慌てて下向いたけど……え、ばれてないよね? ないよね???
「ま~なちゃん」
「ひっ!」
「ひっ!、って……ちょっと傷つくなぁ……」
「ご、ごめん」
村間にいきなり声を掛けられ、びっくりしてしまった。レディーに対して紳士らしからぬ行動を……反省せねば。紳士たる者、いかなる姿でもレディーに対する気遣いを忘れてはならぬのだ。
「仕方ないな~。めぐみちゃんは可愛い女の子に優しいから、特別に許してあげるね♡ ついたから降りよ」
「う、うん。ありがとう」
いや~俺が可愛い女の子で助かった~、のか? いや、俺は紳士のはず……まあ、いいや。考えたら負けだ。
さていよいよ清水さんたちと対面。
どうか、どうかばれませんように……
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