第27話 幼馴染はその場にいなくても存在感がある
ピクニックの装備を整えるため、俺と村間はショッピングモールにやってきた。
「じゃあ何から買おうか」
「んっと、まずは敷物が見たい!」
「敷物なら俺の家にもあるぞ。緑の無地のやつ」
「そういうんじゃなくて、もっと可愛いの探そ! 今回はおしゃピクにしたいの」
「おしゃピク?」
ぼくの知らない単語が出てきたぴく。ぼくには難しいぴく。ぼくわかんないぴく。
「真那弥くん知らないの! 可愛い敷物とか、バスケットとか、お弁当とか。そういうのを集めた、とにかくおしゃれなピクニックだよ」
「あ~なるほど」
つまりおしゃれなピクニックを略しておしゃピクってことぴくね。それなら初めからおしゃれなピクニックと言ってくれぴく。そもそも最近は略称が多すぎるぴく。『バイト先』を『バ先』って略したら手羽先みたいぴくし、『とりあえずまあ』を『とりま』にしたら焼き鳥かと思うぴく。……今日の夜は鶏肉が食べたいぴくね。
「せっかく真那弥くんも可愛いお洋服着るんだからさ。ピクニックも可愛い方がテンション上がるでしょ?」
「う~ん、そうでもないな」
「え~上げてこうよぉ」
村間は残念そうにしているが、俺は澄玲さんと違って可愛いものに思い入れはないのだ。まあでも、別におしゃピクを拒絶する理由もないか。
「じゃあそのおしゃピク?の道具揃えるか」
「うん!」
というわけで、可愛い敷物、可愛いバスケット、可愛いお弁当箱と、ほぼ村間セレクトによって着実におしゃピクグッズが揃えられていった。これで当日、相対的に俺の可愛いが埋もれてくれればよいのだが……
「大体こんな感じかな」
「おう。いいんじゃないか」
「へへへ。楽しみだな~。あっ! ねえ、真那弥くん。あそこ入ってもいい?」
村間が指したのはおしゃれなアクセサリーが並んだ店。何だかキラキラしていて、陰の俺には眩しすぎる……。目が、目がぁ。
「もちろん構わんぞ。俺はそこで待ってるから――」
「真那弥くんも行こ!」
「⁉」
村間に強引に袖を引かれ、店内に押し込まれてしまった。うう、目がつぶれるぅ。どれも高そうだよぉ……
「きれいなアクセサリーがいっぱ~い」
「ああ、そうだな」
圧倒的場違い感により、商品を一個づつ確認する余裕はないが、それでも美しい商品が並んでいることはわかる。値札は怖くて絶対に見られない。
「ねえ、真那弥くん。これ見て!」
「イヤリングか」
「素敵……」
村間が夢中になっているのは、小さなパールが付いたイヤリング。お上品な光を放っていて、たしかに魅力的だ。
「どうしよう。買っちゃおうかな」
「村間、耳に穴開けるのか?」
「それはピヤスだよ。イヤリングは耳に挟むやつ!」
「えっ、そうなのか」
「そうだよ。真那弥くんってほんと、おしゃれには疎いよね」
「おっしゃる通りです」
ファッションへの興味の薄さから、不覚にも無知を晒してしまった。そっか、耳に穴開けなくていいのか。それはビビりにも優しいな。べ、別に俺はビビってないけどね!
「けど、こういう大人っぽいの、あたしには似合わないんだろうな……。澄玲ちゃんみたいに美人じゃないし」
たしかに澄玲は似合うだろうな。こういうのを付けている画が浮かぶ。
だが、ファッションに疎い俺が言えたことではないが、こういうものは付ける人によって違った魅力が現れると思うのだ。だから村間にしか出せない魅力も当然あるし、そこから目を背けるのはあまりにもったいない。まじで俺が言えたことではないが。いっつもユニ〇ロ服だし。
「村間だって似合うだろ。可愛いし」
「……⁉」
俺の言葉に、村間は顔を真っ赤にしてこちらを睨みつける。あれ、なんか怒らせた? もしや! いまは女の子に可愛いって言うセクハラだったり……? やばい、訴えられる。
「む、村間、その――」
「真那弥くんはずるい!」
「ごごご、ごめん」
「これあたしも買うから、真那弥くんも買って!!!」
「俺も⁉ 俺はアクセサリーとか付けないぞ」
「まなちゃんが付けるの!」
「ええ……」
そのまま、俺は勢いでイヤリングを買わされてしまった。想像していたほど高くはなかったが、それでも高校生にとって安い買い物ではない。このあとゲーセンで「馴染花ちゃんフィギュアおやすみver」をお迎えしようと思ったけど諦めるしかないな。ごめんよ~馴染花ちゃ~ん。
※※※
ショッピングを終えた俺と村間は、陽によってオレンジ色に照らされた道を歩いていた
「ふふーん。まなちゃんとお揃いだ~」
「そうだな。よかったな」
イヤリングを買ってから、村間がかなり上機嫌だ。俺は迎えられなかった馴染花ちゃんと痩せた財布に想いを馳せているのでそうでもない。
「ねえ、真那弥くん」
「ん? なんだ」
すると村間は俺の正面に立ち、身体を軽く傾けて言った。
「今日はありがと! すっごく楽しかった」
満開の笑顔。
沈みゆく太陽をバックにしたその眩しさに、諸々の不満もまあいいかという気持ちにさせられた。
「おう! 俺も楽しかったよ」
今度のピクニックへの期待が、ほんの少しだけ、高まったような気がした。
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