第26話 幼馴染カップルは付き合いたてでも安心感がある

「寧々ちゃん。ダブルデートって、2組のカップルで一緒にデートするってことだよね?」

「うん、そうだよ~」


 ダブルデート。すなわちカップルとカップルのマウント合戦だ。『私の彼氏(彼女)素敵でしょ? あら、お宅の彼氏(彼女さん)は……おほほほほ』みたいなやつ。他者との比較でしか信じれない愛なんかさっさと捨てちまえよ! まあ私、付き合ったことないんですけどね。 


「最近暖かくなってきたしね、お弁当作ってピクニックデートなんていいな~って思って」

「それ、すっごく楽しそう! だけど……。カップルって誰と誰のこと?」


 そう。これが一番の疑問である。俺たちの中にカップルはいない。清水さんは何を勘違いしているんだ……?


「ちなみに俺と澄玲は付き合ってないぞ。ただの幼馴染だ」

「付き合ってないのか⁉」

「だ、だからそうですって。何回も言っていますよね?」


 郷田龍哉はまじで話を聞いてないな。さっきの謝罪は何だったんだよ。これは清水さんも苦労しそうだ。

 それはそうと。ただの幼馴染って良い響きだなあ。当然そこにあるもの、って感じがする。尊し。


「ああ、そっちじゃなくてね。めぐみちゃんの方」

「え、あたし⁉」

「ほら、この前2人でお出かけしてたじゃない? 女の子と」

「あ~まなちゃんのことかな」

「そうかも。その子を誘ってさ、ダブルデートしようよ」


 なんでそうなるの! 

 そりゃ同性カップルがどうこうって時代ではないよ? いまは多様性の時代。同性だろうと二次元のキャラだろうと獣だろうと、そこに愛があるならば認められるべきだ。

 けどさ、女の子同士が並んで歩くだけで付き合ってるっていうなら、そこら中カップルだらけでしょ。いやまあ片方は男なんだけどね。あれ、ならいいのか……って、よくねえよ!

 とにかくだ村間めぐみ。

 断れよ断れよ断れよ振りじゃねえよ断れよ。


「どうかな、めぐみちゃん?」

「行く!」


 まじ。俺、女装してピクニック行くの? さすがに無理ぽよ。一緒に行動しながら男であることを隠し通すなんて。それに夏だぞ。汗で化粧が流れる化けの皮が剝がれるだろ。


「ねえ、龍哉」

「ん? なんだ寧々」

「もしもこの前みたいに、まなちゃんを口説いたりしたら……わかってるわね♡」

「は、はい! もちろんです!」


 あの怖い郷田がめっちゃ従順だ。さすがは清水さん、うまく飼いならしている。いやあ、幼馴染っていいなあ。ははははは、ははっ……はあ。逃げたい。


※※※


「おい、どうすんだよ! ぜっっっっったい無理だからな!!!」

「カフェで大声出さないでね、真那弥」


 呑気にいちごミルクをすする澄玲に咎められてしまった。いいよなあ、澄玲は。最初から女だもんなあ。俺の気持ち女装の羞恥なんてわからんよなあ。


「そもそも、どうやってもばれるだろ。一緒に行動するんだぞ?」

「大丈夫よ。あなたは可愛くないけど、まなちゃんは可愛いもの」

「またそういう……。おい、村間もなんか言ってくれよ。てか断れよ。なんで元気よく『行く!』って言ったんだよ」

「だって、あたしまなちゃんが好きだから……」

「そ、そうかよ」


 まなちゃんは俺ではない。だがそれでも、面と向かって好きとか言われると、なんか照れる。なんでだろうな。まなちゃんは俺ではないのに。


「とりあえず、なるべく声を出さなければ大丈夫じゃないかしら?」

「そうだよ! 内気な女の子ってことで、ね?」

「だといいけど……」


 内気な女の子って可愛いよね。やっぱ本能的に守ってあげたくなるのかな。どうせ守ってくれるなら俺を守って欲しいけど。

 

「それよりさ、せっかくのピクニックだし。楽しもうよ!」

「……俺が楽しめる状況に見えるか?」

「ま、まあ大変そうだけど。あたしも頑張るからさ!」

「期待はしてないけど頼むよ」

「うん、任せて!」


 やる気だけは十分だな。やる気だけは。はあ、今度こそばれそうだ。そいで次の日からクラス中に広まって、女装の真那弥とか呼ばれて……うう、つらい。


「てことでさ、いまから必要なものとか買いに行こ!」

「ああ、まあいいけど」


 後日だと気が変わって女装で来いとか言いかねんからな。制服のまま行けるうちに行ってしまった方がいい。


「澄玲ちゃんも行くよね?」

「ごめんなさい。今日中に仕上げたい絵があるから、今回は遠慮しておくわ」

「そっか。頑張ってね!」


  先日の外出でインスピレーションが沸いてから、最近は一層絵に力を入れているらしい。そういえば澄玲、成績トップって言ってたよな。いつ勉強してんだろ。本当に頭がいい人って授業で全部覚えるっていうけど、澄玲もそのタイプなのかな。脳の作りが違うのね。きっと。


「えっと……じゃあ真那弥くん、行こっか」

「おう、そうだな」

「それじゃ……えと……出よ、っか」

「なんか緊張してる?」

「な⁉ そんなことないもん。早く行こ!」


 というわけで、ピクニックの装備を整える旅に出た。こういうお買い物はちょっと楽しみかもしれない。おやつはやっぱ300円以内かな。バナナはおやつに含まれないもんね。いっぱい持っていこう♪

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