第22話 幼馴染の能力への信頼は厚い

 というわけで澄玲宅へ。最近めっちゃ澄玲の家に行ってるな。まあ、幼馴染っぽくていいか。

 部屋で澄玲と村間が着替えているため、俺は例によって部屋の外で待たされている。村間は澄玲の服を着れるのかな。身長は同じくらいだから、いけそうではあるけど。


「お待たせ。入っていいわよ」


 澄玲の合図が聞こえたので、俺はドアを開けた。するとすぐに、顔を赤らめてこちらを見る村間と目が合った。


「おかえりなさいませ。……ご主人様」


 初めての村間のメイド服。澄玲のメイド服よりもスカート丈が短く、ふとももがかなり見えている。袖もやや短い。すごく似合ってるけど……ちょっと刺激が強いかも。


「た、ただいま」

「……可愛いって言ってくださいませ。ご主人様」

「お、おう。可愛いぞ」

「⁉」


 村間が恥ずかしそうに視線をそらした。だから自分で仕掛けておいて照れるなよ。言ってる俺も恥ずかしいんだから。


「……良いわね良いわね良いわね」


 同じくメイド服を着た澄玲が、あらゆる方向から村間を拝みつつ、ぶつぶつと呟いている。彼女にとってメイド服は単なる家着であるため通常運転だ。メイドがメイドに興奮する画は想像以上に怖い。


「ところでご主人様。何か気がつきませんか?」

「え、なんでしょう」

「よーーーく考えてください」


 考えてください、と言われましても。何も気がつきませんよ。

 俺が答えに困っていると、村間は頬を膨らませながら続けた。


「ヒントは顔でございます」

「顔?」


 これ、当てるまで終わらないのかよ。このメイドさっきから注文が多いな。仕方がない。本腰入れて考えるか。

 まず、澄玲が村間に化粧を施したことはわかる。なんか全体的にきらきらしてるし。でもそういうことじゃないんだろうな。

 あと、いつもツインにしている髪をポニーテールにしているな。清水さんと同じだ。でも顔って言ってたし……うーん。

 改めて顔を全体をじっくりと観察する。改めて見ると、村間って目が大きいんだな。そしてプルンとした頬。さらに口も小さい。あれ、実はかなり可愛いのでは? ……なんかドキドキしてきたぞ。


「えっと、降参です。ごめんなさい」

「もう、ほんとにちゃんと考えた? 正解はリップだよ!」

「リップ?」

「まなちゃんが選んでくれたやつ!」

「ああ、なるほ……いや、俺はまなちゃんなんて知らんぞ」

「ぶう」


 危な。誘導されてまなちゃんの存在を認めるところだった。

 そういえばあの日、リップを選んだな。直感だったけど、使ってくれているということはあながち間違いではなかったのだろう。まなちゃんすごいね! 知らない人だけど。


「そうだわ!」


 澄玲が俺を見て突如閃いたようだ。わかってる、こういう時は碌なことがないんだよ。幼馴染の第六感だ。


「真那弥も着なさい、メイド服」

「は?」

「真那弥も着なさい、メイド服」

「いや聞こえないんじゃねえよ。意味がわからないんだよ」


 澄玲がきょとん顔になる。いや俺の理解力の問題ですか?


「……何がわからないのかしら?」

「だから、なんで俺がメイド服を着なきゃいけないんだよ」

「そんなのまなちゃんが可愛いからに決まってるでしょ」


 何も決まっていないし、俺はそんなやつ知らん。そもそも『可愛いから』って理由なら、『まなちゃん』よりもメイド服を着るべき人間がたくさんいるだろ。それと、もっと重大な問題もある。


「まあ百歩譲ってだな。俺がまなちゃんだとしよう。そのまなちゃんが可愛いのは、プロのメイクがあってこそだ。そうでなきゃ俺の女装なんて見られたもんじゃない」

「ああ、それなら大丈夫よ」

「大丈夫って、何が?」

「この間サロンで真那弥がメイクされてる時、それを見て一緒にやり方を教えてもらったの。家に帰ってからも練習したからばっちりよ」

「まじかよ」


 残念ながら、俺の幼馴染の大丈夫は本当に大丈夫のやつだ。澄玲の能力だけは100%信用できる。人格は信用してない。


「そ、それに俺が着れるメイド服がないだろ。澄玲のメイド服は発注だからサイズが合わないもんな。いや~残念だ」

「そこも心配ご無用よ」

「え?」

「ネットで一目惚れして勢いで購入してしまって、その後サイズが大きくて泣く泣くタンスにしまったメイド服があるわ。きっと真那弥にぴったりよ」

「なんでそんな都合よく……」


 こんなにもでき過ぎていると、すべては俺に女装させるために仕組まれた罠なのではないかと疑ってしまう。ああ、久遠まなは永久に封印するつもりだったのに。


「あたしもまなちゃんに会いたい!」


 村間もうきうきしている。もはや俺の周りに味方はいない。逃げ場はないのだ。


 うう、俺男なのに……

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