第21話 愛する幼馴染のためならメイドにだってなる!(らしい)

「寧々ちゃん、ここでバイト始めたんだね」

「うん。龍哉のためにも、もっと可愛くなりたいから勉強したくて。デートの資金もためたいし」

「そっか、偉いね。メイド服すごく似合ってるよ」

「ありがと、めぐみちゃん」


 可愛くなりたい、か。まあたしかに、メイドカフェのメイドさんって可愛さのスペシャリスト感があるよな。

 けど、メイドカフェで働くっていうのは彼氏的にはどうなんだろ。男は可愛い彼女を独占したいものなのでは? 俺は彼女いたことないから知らんけど。


「あ、私ここではしーちゃんだから。みんなもしーちゃんって呼んでね♡」

「とっっっっっっってもかわいいわ!!!!! しーちゃん!!!!!!!」


 さっそくメイド名で呼ぶ俺の幼馴染。最近は彼女の反応にも慣れてきた、というか予想がついてきた。だって澄玲、自分以外の女の子は全員可愛いからすぐ絶叫するんだもん。

 とはいえ実際、清水さ……しーちゃんさんはメイド服がかなり似合っている。特に膨らんだスカートの裾がとても可愛い。それと、学校では気づかなかったけど、清水さんって胸大きいんだな。……別にじろじろ見てないですよ。


「ふふ、しーちゃん可愛いね」

「ありがとう。嬉しい」

「というわけで、しーちゃん。とっておきのおまじないをお願いしてもいいかしら」

「うん、任せて。それではご一緒にお願いします♡ せーの、おいしくな~れ萌え萌え――」

「ちょっと待って」


 しーちゃんさん渾身のおまじないを澄玲が制止する。何事だ? と、思っていたら俺の頭に物理的な衝撃が走った。


「真那弥もやりなさい」

「いや、俺は――」

「あなたの都合は聞いていないの。ここはメイドカフェなの。そういうノリの人間が一人でもいると冷めるの。しーちゃんにも他のメイドさんにもお客さんにもとてもとてもとっっっても失礼なの。わかる?」

「それは……申し訳ない」


 澄玲の正論の畳み掛けにぐうの音も出ない。くそ、俺はまだ羞恥を捨てきれていないんだ。早くこの世界観に入りこまないと。覚悟を決めろ、久遠真那弥!


「しーちゃんごめんなさいね。うちの馬鹿主人が。もう一度お願いできるかしら」

「かしこまりました。せーの」

「「「おいしくな~れ。萌え♡萌えきゅん」」」


 我が生涯で最も可愛い呪文を詠唱し、オムライスにおまじないが注入された。見た目にはわからないが、おそらく100倍はうまくなったに違いない。


「素晴らしいわ、しーちゃん。あなたは最高のメイドさんよ」

「お褒め頂きありがとうございます♡ ごゆっくりお過ごしくださいませ~」


 しーちゃんさん、めっちゃメイドだな。一つ一つの所作がとても可愛くてキュンってした。学校での姿を知っているから、そのギャップで余計に。あとやっぱり胸大き……なんでもないです。


 なお、最終的に澄玲はしーちゃんさんとチェキまで撮影していた。うん、メイドカフェの楽しみ方はなんとなく覚えたぞ。実践できる自信はないけど。


※※※


「素晴らしい場所だったわね」

「たしかに、オムライスはおいしかったな」


 おまじないの効果なのか、卵がふわふわで美味だった。レストランとかで出ても納得するレベル。キッチンで妖精さん的な何かが頑張ってくれたのだろう。


「……真那弥くん、可愛いメイドさんとたくさん話せて嬉しそうだったもんね」

「そうか?」


 メイドカフェを出てから、なぜか村間の機嫌が悪い。俺への言葉一つ一つに棘がある。


「しーちゃんに鼻の下伸ばしちゃってさ」

「別にそんなことないだろ」

「そんなことあるの!」


 なんで怒られてるんだ。俺なんかしたか?

 はっ! まさか、しーちゃんさんの胸をチラ見していたのがばれた……? ち、違うんだよ。たまたま目に入っちゃったというか、そこにたまたま胸があったというか……とにかく、わざとじゃないんですよ。


「寧々ちゃん、可愛かったもんね」

「あ、ああ、そそ、そうだな」


 俺の返答に、村間はさらに頬を膨らませて睨みつける。あ、やっぱり胸見てたのばれてた? 巨乳好きの変態男だと思われてる? もしかして通報される? やばい、どうしよ。


「どうせあたしは、寧々ちゃんみたいに可愛くないですよーだ」


 ん? 思っていた話と違うな。村間の可愛さ、いま関係あるか???

 というか、そもそも村間は普通に可愛いだろ。たしかに清水さんほど胸はないけど。

 そこで、澄玲がいつものように口を挟んできた。


「めぐみさん、あなたはとっても可愛い――」

「澄玲ちゃん!」

「な、なにかしら」


 澄玲の言葉に被せる村間。これだけ長く一緒にいるとタイミングも読めてくるもんだな。

 

「澄玲ちゃん、メイド服持ってるよね?」

「ええ、もちろん」


 まあ澄玲の家着だからな。当然複数所持しているだろう。


「それ、あたしにも着させてくれない?」

「めぐみさんに? もちろん構わないけど……」

「やった! ありがと」


 突然の村間の頼み。

 どうやら新たなメイドさんに出会うことになりそうです。





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