第20話 幼馴染カップルは最も尊い

「あ~、まなちゃんとまた遊びたいな~」

「そうかそうか。俺はそんなやつ知らんけどな」

「え~すっごく可愛いんだよ~。ふふふ」

「知らん知らん知らん」


 朝から昨日のことを村間にいじられている。俺は恐ろしい黒歴史を生成してしまったのかもしれない。あんな格好でショッピングを……やばい、恥ずか死しそう。


「あ、寧々ちゃんと龍哉くんだ」

「そうだな……って、あれ」


 並んで教室に入ってくることは珍しくないが、今朝はなんと、手を繋いでいた。これってもしかして……


「なあ、あの2人って?」

「うん! 付き合ったみたい」

「おお、それは良かったな」

「ね!」


 郷田龍哉もやっと幼馴染の魅力に気がついたか。めでたいことだ。先日は愚か者と認定してしまったが、特別に取り消してやろう。


「……真那弥くんはどんな人が好――」

「大ニュースよ!!!」


 澄玲が教室に勢いよく入ってきた。以前は澄玲が来るとクラス中がざわついたが、もはや恒例となった現在は誰も驚かない。朝から元気だな。

 

「今週末、この近くにメイドカフェがオープンするらしいわ」

「へー、そうなんだー」

「一緒に行きましょう!」

「俺は遠慮しておこうかな」


 普段から俺は店員に絡まれないために気配を消す訓練を重ねているのに、どうして金を払ってまで店員と話さなきゃいけないんだよ。可愛いメイドさんとお話できるから、とか関係ないからな。コミュニケーション自体が嫌なの。まあ、幼馴染のコンセプトカフェとかなら考えてやらんこともないけど。


「どうしてなの⁉ メイド服の可愛い女の子に会えるのよ!!!」

「いや、俺は幼馴染しか興味ないし」

「それは知っているけど……」

「そもそも澄玲はメイド服着る側じゃん」


 俺の幼馴染はメイド服を家着にしている人間だ。毎日鏡の前で最強のメイドを見ているんじゃないのか?

 だが、俺の言葉に澄玲はすんっとなってしまった。


「別にメイド服を着た私には興味ないわよ」

「なんでだよ。澄玲ほどメイド服が似合う人間いないだろ」

「……真那弥は私を、ナルシスト的な人種だと思ってる?」

「いやそういうわけでは」


 まあ、鏡の前でいろんな服を着てニヤニヤしてそうとは思ってたけど。澄玲は自分の姿には興味ないのか。こんなに女の子大好きなのに、なんかもったいないな。


「とにかく、女の子は皆可愛い! そんな可愛い女の子が可愛いメイド服を着て迎えてくれる!! その意味、分かるでしょ!!! 私たちがいかなくて誰が行くのよ!!!!!!」

「いや、誰かは行くだろ。あと声抑えようか。すごい怖がられてるから」


 当初の、学校1の美少女が教室に……!の視線は、やばい人を警戒する視線に変わってしまっている。まあ、実際やばいんだけど。人を脅して女装させて散歩させるし。


「めぐみさんは? 来てくれるわよね?」

「あたしも……やめておこうかな。可愛い女の子に囲まれるのはちょっと怖くて。ごめんね」

「……こうなったら最後の手段よ」


 嫌な予感。

 澄玲がスマホの画面を俺に向ける。昨日の黒歴史まなちゃんの写真……。終わった。


「この写真、みんなに見せてもいいのかしら……?」

「メイドカフェ、喜んで行かせていただきます」

「よろしい」

「真那弥くんが行くならあたしも……」


 結局3人で行くことに。俺、澄玲にものすごい弱みを握らせてしまったのでは……? もう二度と逆らえなくなってしまった。最悪だ。


※※※


「おかえりなさいませ、ご主人様♡」

「た、ただいまです」


 というわけで週末。人生初のメイドカフェである。当たり前だけど、いたるところにメイドさんがいらっしゃる。落ち着かない。


「……どこ見てるの、真那弥くん?」

「どこを見ていると言うか、どこを見ていいのかがわからない」

「ふーん」


 なぜか村間がむくれている。やっぱメイドカフェ苦手なのかな。まあ俺も苦手だけど。


「ご主人様♡ ご注文はいかがなさいますか」

「あ、はい。えっと、それじゃあ、コーヒーとオムライスをおまじない抜きで――」

「たーーーっぷりおまじないをお願いします!!!」

「かしこまりました♡」

「私はストロベリーミルクとメイドの特製萌え♡萌えオムライスをお願いします」

「あ、あたしも同じオムライスと、あとココアを……」

「かしこまりました~♡」


 注文を受けたメイドさんがいなくなると、澄玲は俺に説教を始めた。


「真那弥、さっきの注文は何? 失礼でしょ」

「それは……ごめんなさい」


 わかってはいるんだ。こういうところで斜に構える人間が一番痛いってことは。でも恥ずかしいんだよー。知らない人と一緒に可愛いセリフでおまじないをするのが。

 ところで、村間もなぜか大人しい。


「どうした? 元気ないな」

「メイドさんもお客さんも、女の子みんな可愛いくて……あたし、ここにいていいのかな?」

「いや、俺がいれるんだから大丈夫だろ」

「うん……」

「それに村間も普通に可愛いし」

「⁉」


 童顔ツインテールの村間が可愛くないわけがない。知り合いの女子一人を自由に幼馴染にできると言われたら、間違いなく村間めぐみを選ぶね。俺の弱みしか握らない水川澄玲なんて絶対に選ばない。まあ、背に腹は代えられないので、俺は彼女を幼馴染にするしかないんだけど。

 などと考えていると、さっきとは違うポニーテールのメイドさんがオムライスを運びに来てくれた。ああ、いよいよおまじないタイムか。


「お待たせしました。こちらメイド特製萌え♡萌えオムラ――」

「あれ、寧々ちゃん?」

「めぐみちゃん!? と、みんなも……」


 俺のオムライスを運んできたのは。


 メイド姿の清水寧々だった。


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