第14話 幼馴染を落とすには新たな魅力の提示が必要である

「いい? 寧々ちゃん。幼馴染っていうのはね、手の内がほとんどばれてるの。その上でいかに、新たな魅力をアピールするかが大切なんだよ!」

「なるほど……」

 

 さっきから村間がめちゃくちゃ熱く語っている。そして清水さんも首がもげそうなくらい頷きまくっている。


「村間、幼馴染には興味が無いんじゃなかったっけ?」


 そう尋ねると、村間はチッチと指を振った。


「違うよ、真那弥くん。幼馴染どうこうじゃないの。私はね、恋する乙女を応援したいの!!!」

「そ、そうか」


 女子ってコイバナ好きだよな。もちろん、無関心な女子もいるんだろうけど。たとえば、俺の隣でつまらなそうにしている澄玲さんとか。


「退屈そうだな」

「男の話なんかどうでもいいもの」


 そうだった。女尊男卑思想の最高峰に位置する我が幼馴染が、コイバナなどというかみむしに惑わされる話を喜んで聞くはずがない。むしろ黙って座っているだけ心が広いというものだ。


「ねえ、澄玲ちゃん」

「めぐみさん、何かしら?」

「寧々ちゃんに、お洋服貸してあげられないかな?」

「お洋服を……?」


 それって、あのロリ服か? いや無理だろ。そんな高い服、さして仲良くもない人間に貸せる訳がない。俺のユ〇クロの服とは違うんだぞ。


「いつもと違う可愛い寧々ちゃんを見せられたら、きっと龍哉くんもドキッとすると思うんだ。……どうかな?」

「よ、よろしくお願いします」


 寧々も頭を下げる。いや、だから無理だ―― 


「もちろんよ!!!」

 

 澄玲が勢い良く立ち上がった。まじすか。貸しちゃうんですか。さすがは『すべての女の子は可愛い理論』の提唱者。水上澄玲、恐るべし……。


「やったー。良かったね、寧々ちゃん」

「あ、ありがとう。水上さん」

 

 清水寧々。さっきまで澄玲にガンを飛ばしていたのが嘘みたいに素直だな。改めて見ると、目つきが怖かっただけで、顔は結構可愛いようにさえ思えてきた。

 清水さんのロリータ服か。どうなるんだろ。


※※※


 さて、時は流れて日曜日。

 我々は水族館の入り口前に来ている。

 集まったのは、久しぶりに地味フォームの澄玲、普段通りのワンピースの村間、そしてユ〇クロコーデをばっちり決めたイケてる俺。それともう1人……


「うう、こんなに可愛い服、私――」

「大丈夫よ! とっても似合っているわ、清水さん」

「そうだよ寧々ちゃん。自信持って!」


 水色のロリータ服を着用し、胸と髪に白いリボンを付けたツインテールの清水寧々。これから好きな男とのデートが控えているということもあり、澄玲eyeを通さずともかなり可愛らしい。少なくとも、あの怖い女と同一人物とはとても思えない。あれから澄玲の家で服を合わせたり、メイクの研究をしたらしいが、ここまで変わるか……? ほんとにすげえな、俺の幼馴染。


「ありがとう、2人とも……」


 服のためか緊張のためか、持ち前の気の強さは完全に影を潜め、もはやただの内気な女の子である。つまりとても可愛いです。こんな幼馴染を持つ郷田龍哉が心底恨めしい。ぐぬぬ……


「頑張ってね、寧々ちゃん! 龍哉くんにいっぱい可愛いとこ見せてきてね!」

「うん、頑張る……」


 そうして村間に励まされる清水さんを、澄玲は複雑な表情で見つめる。おそらく自分がプロデュースした女の子が、男のところへ向かうのが複雑なんだろうな。澄玲の心が読めるようになるなんて、また一歩幼馴染に近づいた感がある。嬉しい。


「それじゃあ、私たちはそろそろ行きましょうか」

「そうだな」

「またね、寧々ちゃん。応援してるよ!」


 と、清水さんに手を振り、もう用事もないのでこのまま直帰で……と、思ったら、二人の足が止まった。


「どうした? 帰らないのか」


 俺が尋ねると、村間は俺の顔を見てため息をついた。


「ついて行くに決まってるじゃん」

「は?」

「2人の恋路を見とどけないと!」


 まじ。ストーキングするの? いやいやだめだろ。ばれたら怖いし。澄玲は……


「……可愛い女の子の隣に虫けらはいらない……。でも恋する女の子はとっても可愛い……」


 あ、こっちの方が怖いや。恐ろしく過激な思想を呪いのようにぶつぶつ呟いている。


「とにかく行くよ。真那弥くん、澄玲ちゃん!」

「……うん、そうね。清水さんの可愛い顔は、たくさん見るべきだわ。たとえ。隣に男がいようとも」

「まじすか……」

「あ、龍哉くん来たみたい。早くしないと見失っちゃう。急がないと!」


 というわけで、俺たちも水族館に入ることになった。


 ばれると思うけどなあ。水族館でサカナじゃなくてニンゲンを見る人間、絶対目立つもん。

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