第13話 幼馴染同士は雰囲気が似てきたり

「真那弥くん。今日は何おにぎり?」


 俺の巨大おにぎりを見て、村間は尋ねた。以前は学食へ行くことが多かった彼女だが、最近は主に教室で食べている。


「これはな、塩おにぎりだ」

「塩って……具なしってこと?」

「その通り」

「へ、へえ」


 具なしという回答に恐れおののく村間めぐみ。ふっ、これだから素人は……。塩おにぎりはな、コメ本来の味をまるごと楽しませてくれる偉大な食べ物なのだよ! したがって、コメへのリスペクトの意を込めて、俺はこれを選択した。決して、適当な具が見つからず、時間もないから具なしでいいやと持ってきたわけではない。


「あ、澄玲ちゃん来たよ。やっほー、澄玲ちゃ――」

「ねえ、水上さん」


 まるで待ち伏せしていたかのように、教室に入ってきた澄玲に話しかける怖い顔の女。ん? なんだかデジャヴを感じる……


「何かしら?」

「あなた、久遠くんとどういう関係なの?」


 デジャヴーーー。あれじゃん、怖い顔の男が俺に絡んできた時と同じだ。あ、久遠は俺の苗字ね(念のため)。なになに、みんな俺らの関係がそんなに気になる? もしかして俺のこと好き? もー、ただのだよお。


「なんでもいいでしょ。あなたに何か関係があって?」


 いや、幼馴染って言えよ。なんで隠すの?

 すると、女は黙って下を向いた。ほら誤解されたじゃん。


「……泣いてる。寧々ちゃん」

「え?」


 見ると、床に大粒の涙がこぼれていた。まじ、ほんとに俺のこと好きなの? 誠にごめんなさいですが、俺には幼馴染という人が――


「付き合ってんならさ……龍哉のこと誘うの……やめてよ……」


 ですよね俺を好きなわけないですよねごめんなさい。

 龍哉って、やっぱりあの怖い顔の男だよね。そういや澄玲のこと好きそうだったもんな。あと、俺と澄玲は付き合ってないです。どこにでもいるただの幼馴染です。

 すると、村間がドンっと立ち上がり、2人の間に入った。


「寧々ちゃん、澄玲ちゃん、場所代えよ!」

「え、めぐみさん……?」

「いいから! 真那弥くんも来て!」

「お、俺も?」


 まだおにぎり食べてるんだけど……


※※※


 村間に先導され、俺たちは科学室に移動した。実は昼休みの特別教室は静かに過ごせる穴場スポットである。たまに鍵が閉まっていたり、入ってきた教科担当の先生に怒られるのが玉に瑕だけど。

 そして、俺たちはその女を囲むように椅子に座り、彼女の語りを聞いた。


「……私と龍哉は……幼馴染なの」


 さて、この女の本名は清水寧々である。気の強い女子で顔が怖い、くらいしか印象がない。

 が……こいつ幼馴染持ちなのかよ!!! 羨ましい。妬ましい。忌々しい……。環境ガチャ大勝利組め。


「寧々ちゃんと龍哉くん、仲いいもんね」


 相槌を打つ村間。心底興味なさそうに見る澄玲。おにぎりを食べたい俺。つまり、この場に真面目に聞いているのは一人しかいない。


「けど最近……急に好きな人ができたって……言われて……前は一緒に登校してたのに……それもしてくれなくなって……」

「その好きな人っていうのが澄玲ちゃん?」


 清水さんはコクリと頷いた。なるほど話が見えてきた。その龍哉っていう怖い顔の男が澄玲に惚れたと。それで自分のことを見てくれなくなったから澄玲が邪魔だ、ということか。

 だがなあ。正直、俺は澄玲に一番同情してしまう。勝手に好きになられて、巻き込まれて、憎まれて。彼女が男を嫌い、自分を抑えてまで避けている気持ちが少しわかったような気がする。絶対生きづらいよ、そんなの。


「あんたさえいなければ……」

「知らないわよ。そんな男に興味ないし。そもそも名前すら知らないわ」

「……あんた!!!」


 澄玲に飛びかからんとする清水さんを、村間は必死に抑える。俺も加勢せねばと立ち上がったが、その必要はなかったようだ。


「寧々ちゃん、大丈夫! あたしに考えがあるから」


 村間の言葉に、清水さんの身体から力が抜け、へにゃりと床に座り込んだ。女の子座りで、涙で目を潤ませながら、すがるように村間を見る彼女はちょっと可愛い。

 澄玲も似たような感想を持ったのか、熱い眼差しで清水さんを凝視している。……やっぱり一番怖いのは俺の幼馴染だ。


「……ほんと?」

「うん!」


 そして、村間は親指を立てて言った。


「行動あるのみだよ!」


 どうやら考えがあるらしい。

 ……面倒くさいことじゃないといいな。

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