第12話 夜は幼馴染と昔の話をしたくなる

「今日は楽しかったね~」


 ビル内を一通り散策し、最後にカフェに入って一息ついている。2人とも、いつも通り甘さの塊を飲む。茶色のロリ服の澄玲がピンクのいちごミルクで、ピンク色のロリ服の村間が茶色のココアなの、色合いが対称的で映えるな。まあ、俺は陽の者みたいにイン〇タはやってないけどね。『ヨウ』なのに『イン』ってちょっと面白……くないな。うん。


「めぐみさんの素敵なお洋服を選べてよかったわ」

「うん、ありがと。まだちょっと恥ずかしいけど……」


 村間がポッと顔を赤らめた。澄玲の目が変わる。まずい、逃げろ村間! こいつは少女の羞恥で飯を食う怪物だ。なんとか注意をそらさねば。俺は瞬時に窓の外へ注意を促した。


「ほ、星がきれいだな……」

「星?」


 澄玲も窓から空を見る。一日遊んでいたので外は既に暗い。


「たしかにきれいね。天気がいいおかげかしら」

「そういえば真那弥くん、星詳しかったよね?」

「いや、そんなことないぞ。小さい頃はよくプラネタリウムに通ってたけど。それくらいだ」

「そ、そっか……」


 何を勘違いしたんだろ。もしやあれか? 俺がロマンチストだから、星が似合いそうって思われたとか。やめろよ、照れるじゃねえか。


「……たまには天体観測もいいわね」


 天を見上げながら、澄玲が呟いた。すると、村間は即座に反応した。


「じゃあ観に行こうよ! あたし良い公園知ってるから」


※※※


 訪れたのはブランコとシーソーしかない小さな公園だ。この辺に住んでから数年経つけど初めて来た。夜なので風が冷たい。


「たしかに星がよく観えるわ。きれい……」


 そうして星に魅了される幼馴染の横顔もまたとてもきれいで、風になびく長い黒髪と膨らんだフリルも相まって、まるで映画のワンシーンのような美しさがあった。


「ねえ、真那弥くん。あのフライパンみたいなやつが北斗七星だよね?」

「おお、そうだな」

「それで、先のとこを5つ分伸ばしたところにあるのが北極星!」

「なんだ。村間、詳しいじゃん」

「む、昔ね。教えてもらったの」

「へえ。よく覚えてたな」


 まあたしかに、北極星の見つけ方はプラネタリウムで毎回丁寧に教えてくれるもんな。星座を探す上で方角を知ることは最重要事項だ。別にスマホでも調べられるけど、星から方角を教えてもらうのはロマンがある。


「あれ、澄玲ちゃんは?」

「そこでブランコに揺られてるぞ」

「ほんとだ。あたしもブランコ乗る~」


 村間も澄玲onブランコへ駆け出した。いいな、俺も乗ろっと。

 そして、高校生3人がブランコに並ぶ。たぶんエモい。


「たまにはこういうのも良いわね……」

「うん! 澄玲ちゃんと一緒に遊べて、すごく嬉しい」

「私もよ。めぐみさん」


 お姫様のような服装で、星空の下で見つめ合い、ふふっと笑い合う2人の尊さを形容する言葉を、俺は持ち合わせていなかった。だから、俺はそれを横から静かに眺めた。

 ふと、村間が澄玲に尋ねた。


「そういえば、澄玲ちゃんって幼馴染はいないの? あ、本物の」

「その言い方は、まるで偽物がいるみたいじゃないか……」


 いまは本物とは言い難いけど、一応真の幼馴染を目指しているんだぞ。たしかに、最近は幼馴染ってなんだっけ?と、なりかけていないこともないけど。


「いないわ。そもそも友だちがいないもの、私」


 寂しそうな横顔。意外……でもないか。類は友を呼ぶ。けれど、水上澄玲という完璧な美少女は遠すぎる。それは友人関係の構築においてあまりにもハンデだ。


「……私は、可愛い女の子を眺めているのがちょうどいいの。彼女たちを、嫌いになりたくはないから」


 推しへの愛を守るために推しと距離を置く、ということか。オタクの鑑だ。だけど、澄玲にとってはあらゆる少女がその推しで。誰よりも他人に関心があるのに、ゆえに距離を置かざるを得ない。なんと言うか……切ないな。


「でも、いまはあたしが友だちだよ!」

「……ありがとう。めぐみさん」


 実際、ロリータ服に身を包み、並んで歩く今日の2人は親友のようにさえ見えた。喜ばしきことだ。澄玲が俺以上に村間と友情を深めていていることは、幼馴染を目指す身としてはやや複雑ではあるが……


「真那弥くんは?」

「いるわけないだろ。そもそもうちは引っ越しが多いから、人の顔自体いちいち覚えてられないしな」

「そっか……」

「そういう村間はどうなんだよ。幼馴染、いないのか?」

「あたしは……いない、かな……」


 なんか歯切れが悪いな。聞いちゃまずかったかな?


「あたしのことはいいよ!」


 そして村間はブランコを降り、俺の後ろに回って背中を思いっきり押した。ブランコが高々と上がる。


 なんだか、懐かしい気持ちがした。

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