第11話 幼馴染が他の女の子といちゃつくのも悪くない

 週末、土曜日。

 俺と澄玲と村間は、おなじみの商業ビルの前に集まった。

 通行人からたくさんの視線を感じる。当然だろう。絶世の美少女が、茶色の可愛らしいロリータ服に身を包んでいるのだから。この服の色、クッキーみたいでちょっと美味しそうだな。


「澄玲ちゃん、本当にかわいいね……」


 と、羨望の眼差しを向ける村間だが、美味しそうなクリーム色のワンピースを着た彼女も、かなり可愛らしい。……俺、お腹空いてる?


「ありがとう。村間さんもとってもかわいいわ」

「そう、かな」

「とりあえず行くか」


 そのままビルに突入し、エスカレーターに乗って4階へ。ラノベを買いによく通っているので慣れたものである。

 エスカレーターを降りると、すぐ目の前にロリータ服が並んでいた。やっぱり豪華だなぁと見ていると、店員さんがやってきたので、俺はビビって澄玲の後ろに隠れた。服屋の店員さんとの絡み、苦手です。私が服の前をうろうろしている時は集中力Maxの時なので話しかけないでください。


「いらっしゃいませ、澄玲様」


 幼馴染の名が呼ばれる。常連さんなんですね、すみれ様は。店員さんもロリータっぽいフリルのたっぷりついた服を着用しているため、なんだか異世界に紛れ込んだような感がある。


「こんにちは。今日はこの娘のお洋服を選びに来たの」

「まあ、とっても可愛らしいお嬢様ですね」

「そんな、お嬢様だなんて……」


 やっぱり異世界っぽい。たぶん令嬢もの。そのジャンルはあんまり詳しくないんですけど、破滅フラグとか立つんでしたっけ?


「そうなの。私の自慢の


 友だち、を強調する澄玲に、村間は顔を赤らめる。なになに、そういう世界百合の花園なの?


「それでしたら、このお洋服などいかがでしょう?」


 店員さんが取り出したのは、ピンクの色のふわっとしたロリータ服だ。お姫様のドレスみたいで、とても可愛らしい。


「うう、こんなに可愛いの、あたし――」

「ぜっっっっったい似合うわ!!!」

 

 可愛いに対しては絶対に否定から入る村間に、澄玲は限界可愛い女の子オタクの顔を向けた。これぞほこVsたて……ではないか。


「もしよろしければ、試着してみますか?」

「よろしくお願いします!!!!!」


 質問された側ではない人が元気よく返事をした。が、村間も興味はあるようで、照れつつも嬉しそうに試着室に入っていった。

 そして一分後。試着室のカーテンが開いた。


「おおお」


 現れためぐみ姫に、俺はつい感嘆の声を漏らしてしまった。

 ロリータ服の少女性。それが幼さの残る村間の顔とうまくマッチしているのだろうか。ロリータ服との相性という意味では、澄玲以上に『着こなしている』という感がある。


「どう、かな?」

「とっっっっっても可愛いわ!!! 村間さん!!!!!!」

「澄玲ちゃん、ありがと。……真那弥くんはどう思う」

「めっちゃ似合ってるよ」

「ほんと? すみません、これ買います!」


 速っ。最初の躊躇していたのはなんだったの。


「そんなにすぐ決めて大丈夫か? 安い買い物ではないし」

「うん。実は昨日の夜いろいろ調べてて。あたしも、本当はこういう可愛いお洋服に憧れてたの。しばらく節約しないとな~」

「そっか。良い服が見つかってよかったな」

「えへへ」


 本当に嬉しいという笑顔。こっちまで幸せな気持ちになる。

 『かわいい女の子は神』。澄玲の言葉の意味が、少しだけわかったような気がした


※※※


 ロリータ服に身を包み、ほくほく顔の女子二人が俺の隣を歩いている。傍から見たらまさに両手に花だ。


「この後はどうする?」

「あたし、プリクラ撮りたい!」

「いいわね、行きましょ」

「7階だな」


 ゲーセンの階である。俺はよく太鼓を叩いている。ちな、もちろんプリクラを撮るという目的で行ったことはない。

 エスカレータを降り、プリ機の前へ。若い女の声があちこちから聞こえて居心地が悪い。


「んじゃ、俺はその辺で待ってるから」

「え? 真那弥くんは一緒に撮らないの?」

「いや、遠慮しとく。いまの2人には混ざってもさすがに邪魔だろ」

「間違いないわね」


 完全同意されるのも虚しいが、俺のユ〇クロ服では、コーディネートにかけた費用が20倍以上違う。プリクラ機の素晴らしい加工技術でも、俺が虫けら以上になる見込みは限りなく低いだろう。それに百合の花園を邪魔したくないしな!


 というわけで、二人が半密室で愛を紡いでいる間、俺はクレーン台を物色していた。……んっ? あ、あれは!!! 『俺の大好きな100人の幼馴染』のメインヒロイン、馴染花なじかちゃんのぬいぐるみ……!!!!!

 俺は脊髄反射で財布を取り出し、100円玉を投入していた。クレーンが馴染花ちゃんを掴む。

 しかし、俺はこの後の展開を知っている。持ち上がりはするんだよ。そいでもって、段々とアームが緩んで、そして落下する。馴染花ちゃん大丈夫? 痛くなかった? ほんと、期待のさせ方が汚ねえなあ。金のにおいがぷんぷんするぜ。


「真那弥く~ん。お待たせ~」


 プリクラ機の前で村間が手を振っている。そんな村間をうっとりと見守る澄玲。俺は投入寸前の100円玉を引っ込め、馴染花ちゃんに別れを告げた。後で必ずお迎えするからね~。


「真那弥くん、何見てたの?」

「ああ、嫁とばったり会ってな」

「よ、嫁⁉ まままなやくん、けけ、結婚してたの……?」

「すまん、言い方が悪かった。好きなアニメのキャラがクレーンにいたんだよ」

「な、なんだ。そうだよね。……よかった」


 オタクのみんな! 仲間内で使用されている用語が一般の人にも伝わるとは限らないから気を付けような! 自戒の意を込めて。


「いい写真が撮れたのよ。ほら」

「お、いいな」


 どれもとても可愛らしい。いくつかの写真は距離が近すぎて心配だけど……女の子同士なら問題ないか。


「ねえねえ、ここで3人で写真撮ろうよ」

「ああ、いいぞ……って、え⁉」 


 村間が俺の身体を自分の方に寄せた。腕の柔らかさを直接感じる。鼓動が速まる。顔が近い。か、可愛い……


 パシャリ


「うん。悪くないわね。真那弥がやや邪魔だけど」

「そんなことないよ、澄玲ちゃん。3人仲良しってすごく素敵じゃない?」

「まあ……そうかもしれないわね、めぐみさん」

「あ! いま名前で呼んでくれた?」

「い、いいでしょ。……お友だちだもの」

「ふふふ。嬉しい」


 なにこれ。めっちゃ尊い。百合に秘められし無限の可能性を見たわ。だが悲しいかな。男に百合ができないことは出生の段階で決まっている。やっぱり俺には幼馴染しかない!


 それにしても……村間、いい匂いしたな。

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