第18話 幼馴染の頼みなら男の娘にだってなる!
おれ……あたしはサロンを出て、めぐみちゃんと並んで歩いています。その2m後ろから見守る澄玲ちゃん。下がスカートだからスースーする。ちょっと恥ずかしいです。
でも、時々鏡に映る自分の姿を見て思う。
――あたし、かわいいかも――
って、いやいやいや。正気に戻れよ俺。これTSじゃないから、ただの女装だから。心の声まで女になる必要ないから。
そもそもTSも、心は女になっちゃだめだと思う。いや、俺はTSとかまったく興味ないんだけどね。たぶんTSって俺、男なのに……がいいのよ。推測だけどね。なのに心も女になったらTSさせた意味ないじゃん。いや、全然知らないんだけどね、まじで。あと幼馴染同士のTSは良いよ。本当の性別を知ってるのが幼馴染しかいないから、最終的に結ばれやすいもんね。……そうだよ、好きだよTS。悪いか。
「まな……ちゃん。どこ行こうか?」
「えっと、めぐみちゃんに任せる、わ」
真那弥は『弥』の字が奪われるだけで女の子になってしまう、という事実に若干の衝撃を受けながら、俺は気持ち悪い高温ボイスで返事をした。
「じゃ、じゃあお化粧品見に行こうか。まなちゃん」
へっ?
※※※
化粧品の店は当然、そのほとんどが女性で占められている。こんなところにいたら、俺が男だってばれちゃうよお。こっちを気にする人はいないから、うまく馴染めてはいるんだろうけど、それはそれで恥ずかしい。俺、男なのに……
「まなちゃん。どっちがいいかな」
村間に2つのリップを見せられる。けど当然、違いなんてわからない。俺、男だもん。
ところで、どうして村間はさっきから嬉しそうなの? ドキドキしっぱなしの俺とは対照的に、ものすごく活き活きしてるんだけど。まなちゃんと遊ぶの、そんなに楽しいか?
とりあえず、俺は直観で選択した。
「こっち、かな?」
「そっか! ありがと」
村間は満足げにそれをかごに入れる。これで良かったのだろうか。
「それじゃ、あたしもまなちゃんに選んであげるね」
「あ、あたしは良いよ」
それより早くここから出たい。あたしにショッピングを楽しむ余裕なんてないの。わかってよ!
「まなちゃんにはこれがいいと思うな。香水! かいでみて」
「おお、オレンジの良い香り……!」
……けど、この匂いかいだことあるな。たしかプリクラを村間たちと撮った時――
「これ、あたしからプレゼントするね」
「ありがとう……めぐみちゃん」
「う、うん。どういたしまして」
まあなんでもいいか。オレンジの香り。女子力ちょっと上がるかな♡
※※※
次に訪れたのはパンケーキのお店。俺と村間の2人で向かい合って座り、澄玲はななめ前の1人席からこちらの様子を覗っている。
「まなちゃんはどれにするの?」
「うーんと、バターかかってるやつ」
「えー、もっと可愛いのにすればいいのに~」
お気づきだろうが、俺はしょっぱいものが好きだ。したがって、パンケーキはバターで食べるのが一番うまい。
「じゃあ、あたしはチョコレートたっぷりの三段パンケーキにしよ~っと」
程なくして、注文の品が届いた。想像の3倍はでかい。パンケーキって、女子高生が良く頼んでるイメージだけど、よくこの量を食べきれるな。俺でもギリだぞ。
「おいしそうだね、まなちゃん!」
「そう、だね」
「それじゃあ、いただきま~す」
バターが染みたパンケーキを一口……おお、うま。これは止まらん。
結局、それほど時間もかからずに食べ終わった。腹はやばいけど。村間もあっという間に平らげたようだ。
「ねえ、まなちゃん」
「なに?」
「あたし、これも気になってて……」
村間が指したのはフルーツのパフェ。これもかなりの量がでありそうだ。それと、まなちゃん呼びを普通に受け入れている自分が怖い。
「でも食べきれるか不安なんだ……」
「たしかに、ちょっと多そうだね」
「でしょ? だからさ。はんぶんこしない?」
「まあ、いいけど」
「やった! あの~、すいませ~ん」
村間が店員さんに追加の注文をする。俺も腹はいっぱいだが、半分ならなんとか食べられるか。
間もなく、パフェが届いた。めっちゃ美味しそうだけど……やっぱりでかい。フルーツだけでなく、いろいろ甘そうなものが乗っている。
「よ~し、いただきま~す」
村間はその大きさに怯むことなく、それをスプーンですくい口に入れた。
「うんま~い」
頬が落ちそうなほどの笑顔。よほどおいしいんだな。よし、とりあえず俺も食うか。
と、思った時。村間がスプーンを俺に向けた。
「まなちゃん、あーん」
「いや、自分で食べれるから」
「あーん」
村間の圧がすごい。俺のスプーンの使い方に不安でもあるわけ? 大丈夫ですって、使い慣れてますから。それより、そのスプーンを俺がくわえる方が問題ありですよ。村間さん、口を付けていましたし。
「……間接キスはまずいんじゃ、ないかしら」
「どうして? 女の子同士なら平気でしょ?」
そんな純真な笑顔で見られましても……俺、男ですし。ちらりと澄玲に視線を向けると、キラキラの瞳でこちらを見ていたので、慌てて戻した。
うう、ほんとにあたし……女の子に……ああもう、えい!
――マシュマロ、甘いなあ――
「……おいしい?」
なぜか村間が顔を真っ赤にして尋ねてくる。やめろ、照れるのは。俺も恥ずかしくなるだろ。そっちが仕掛けたんだから責任を取れ。
その後、やはりパフェは多すぎたので、澄玲にも加勢してもらいなんとか完食した。
ファースト間接キスは、マシュマロの味でした。
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