第17話 幼馴染は時に無茶ぶりをする
今日は3人で学食に来ている。
俺はカツカレーを注文。カツに限らず、どうしてカレーに入れるとなんでもうまいんだろうな。苦手な食べ物は全部カレーに混ぜるといいと思う。
「澄玲ちゃん、どうしたの? 元気ないね」
たしかに浮かない顔でラーメンをすすっている。どうしたのだろう。俺のカレーを見て羨ましくなったのか? ごめんな、俺のカレーは誰にもあげられないんだ。他を当たってくれ。
「実は最近、絵が上手く描けなくて」
カレー乞食ではなかったらしい。これは失礼しました。絵ってあれだよな。女の子の羞恥が売りの、規制ギリギリのやつ。……ん? そういえば。
「澄玲、絵のことは秘密じゃないのか?」
「ええ。でも村間さんはいいの。友だち、だから」
澄玲の微笑みに、村間も照れ笑いを返した。
「それで、澄玲ちゃんはどんな絵を描いてるの?」
「2人の女の子を絡ませたいんだけど、なかなかイメージが沸かなくて……」
「うーん、そっか。難しいね」
イメージか。俺は美術2の人間だからよくわからないけど、スランプ的なものなのかな。いずれにせよ、俺にできることはなさそうだ。
「せめて誰かモデルがいたらいいのだけど……」
「じゃあ、あたしと澄玲ちゃんで写真を撮るっていうのは?」
「写真はいろいろ探したのだけど、やっぱり直接見て描きたいのよね」
「そっかあ」
村間がシュンとなる。彼女の友だちを誘うというのはどうだろう。村間は友だち多そうだし……いや、だめか。一応、秘密の趣味だ。
「そうだわ!」
澄玲が急に立ち上がり、俺に顔を近づけた。
嫌な予感……
「真那弥、私の言うことを何でも聞くって約束したわよね。水族館で」
「し、したけど」
「それをいま行使するわ」
「なっ⁉」
澄玲、どんな恐ろしい命令を……
「真那弥には、女の子になってもらうわ!!!」
は?
※※※
学校が終わると、そのまま澄玲に連行された。一応村間もついてくる。
ここはどこだろう。きれいなお姉さんがたくさんいる。美容院っぽい雰囲気だけど。
「あのう、ぼくはこれからどうなってしまうんでしょうか……?」
「言ったでしょ。女の子になるのよ」
まじですか。
どうやらここは、女装サロンという施設らしい。近所にこんな場所があたとは……。メイクやウィッグの希望など聞かれたが、希望など当然あろうはずがないので、澄玲に一任した。あーん、こわいよお。
――1時間後――
「これが……俺……?」
鏡の向こうに可愛い女の子が……! 澄玲の用意したロリータ服もめちゃくちゃ似合っている。正直、俺の女装なんて見られたもんじゃないと思ってたけど……プロってすげえ。澄玲がどうして俺のサイズのロリ服を持っているかは聞かないでおく。
「すばらしいわ、真那弥。最高よ」
俺の幼馴染から珍しくお褒めの言葉をいただく。けど実際、最高の技術だとは思う。女装させられているこの状況は最悪に近いけど
「真那弥くん、可愛い……」
俺を見て村間が呟いた。待て待て、面と向かって可愛いとか言われると照れる。それに……何かに目覚めそう。ってだめだめ、俺は男だ!
「……ところで澄玲、お値段は?」
わかっている。これだけ手の込んだメイクと技術、お高いに決まってる。いや、相応の対価が支払われるべきだ。ということは不本意だが、俺も出費は避けられまい。
「ああ、会計はさっき済ませておいたわ」
「いや、悪いよ。俺も出すか――」
「可愛い女の子への投資は私の義務なのよ!」
いやいやいや。そんな義務知らないし。そもそも俺は女の子じゃないし。
「あの、わかっているとは思いますが。実は
「それは身体の性別の話でしょ?」
「……はい?」
「身体が男でもね、心が女の子ならそれはもう女の子なのよ!!!」
澄玲にとっての女の子の範囲、めちゃくちゃ広かった……! なんかもう一周回って聖人に見えてきたぞ。……って、いつから俺の心が女になったんだよ。
「それで、あたしと真那弥くんがこのまま澄玲ちゃんの家に行って、絵のモデルになればいいのかな?」
普通に状況を受け入れてしまっている村間も怖い。俺、ほんとにさっきまで男の子だったよね? ピンクのロリータ服が似合うロングヘアの可愛い女の子じゃないよね?
「ええ、そう考えていたのだけど……。ここまで可愛いとなると、少しもったいないわね」
そして2,3秒考えた後、澄玲は不敵な笑みを浮かべ、恐ろしい提案をした。
「お散歩をしましょうか」
……この格好で?
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