第6話 幼馴染ならどんな趣味も受け入れよう。多少健全さを欠いていても
澄玲と同人誌専門店を訪れた翌日。
登校した俺は、今朝彼女から送信された絵を見ていた。一応全年齢対象コンテンツだと思われるが、どの女の子も羞恥に顔を赤らめていて……えっちいです。澄玲は謙遜していたけど、相当な技術と愛がなければ、表情だけでここまでのエロスは表現できないだろうな。
「真那弥くんも男の子だね~」
「なっ⁉」
後ろから村間めぐみがスマホを覗き込んでいた。おいこら、プライバシーの侵害だぞ!
「まあ、限界幼馴染オタクの真那弥くんのことだから、女の子の刺激的な絵に興味津々でも別に驚かないけどさ。そういうのは家でこっそり見た方がいいと思うよ」
「いや、18禁じゃねえよ」
たしかにかなりきわどいけど。この表情は絶対誘ってるけど。性欲の沸き上がりも感じるけど。あと限界幼馴染オタクって私のことですか?
「……やっぱり、真那弥くんはこういうかわいい女の子が好きなの?」
「いや、だから俺の趣味じゃ――」
「おはよう、真那弥」
名を呼ばれた俺だけでなく、教室中の注目がその声の主に集まる。そこには水上澄玲の姿。あらゆるものを惹きつけるオーラを放っている。
そして、集められた視線はだんだんとこちらに近づき……やがて、俺の耳元で止まった。
「今朝送った絵、学校では見ないでね」
俺の心がざわついた。ついでに教室もざわついた。
鼓動が早まっていく。美少女の吐息が耳にかかったことに興奮したからではない。絶対に隠さねばならないものができたからだ。
「は、はい」
そう返事をしながら、俺はスマホを身体の後ろに隠し、ノールックで画面をブラウザバックする。これでもう証拠はない。俺の勝ちだ。
「一応、念のため確認しにきただけよ。それと今日のお昼、学食に行きましょう」
「はい、仰せのままに」
「それじゃ、またあとでね」
「お、おう。またな」
軽く手を振り、澄玲の背中が遠くなっていく。危ない危ない。もう少しでばれるところだったぜ。見たか、俺の天才的隠蔽スキル。こりゃCIAにスカウトされる日も近いな。
と、安心したのもつかの間。直ちに爆弾が投下された。
「あ、そうだ。聞いてよ澄玲ちゃん。さっきね真那弥くんが――」
「おい、待て」
「エッチな女の子の絵を見てたんだよ」
終わった。
「村間さん」
「え?」
澄玲はくるっとこちらに向き直ると、すたすたと村間に詰め寄った。
「その絵は私に関係ない。私は描いてない。もうその話題は口にしない。いい?」
「え、澄玲ちゃんが描いたの⁉」
あ、だめだ。村間めぐみ、勘がいいのに空気が読めないタイプだ。最も危険な天然だ。
「違うって言ってるでしょ! 邪推もいい加減にして」
「ご、ごめんね。澄玲ちゃん」
村間がシュンとうつむいた。が、あろうことか、彼女はさらに余計な一言を発してしまった。
「……てっきり、真那弥くんの気を引きたいから、エッチな絵を描いたのかと」
澄玲の怒りのゲージがさらに溜まっていくのがわかる。やばい、爆発するぞ。
「崇高な女の子の花園に、そんな汚らわしい発想を持ち込まないで!!!」
教室からざわつきが消えた。ぴりついた空気に場が支配されている。ああ、どうしてこんなことに。
「ご、ごめんね。そんなつもりじゃ……」
「まあまあ落ち着いて。村間も悪気があったわけでは――」
「そうよ。元はと言えば真那弥が悪いのよ。真那弥がここであれを見なければ、こんなことには……」
「そうだよ。真那弥くんが悪いよ」
「はい、ごめんなさい」
二人の攻撃の矛先が俺に向かった。こういうことがあるから、けんかの仲裁は慎重に行う必要があるのだ。そもそも、澄玲さんが昨日の夜に送信してくれたら、学校で見ることもなかったんですけど……
「とにかく、このことは他言無用よ。わかってるわね」
「もちろんであります」
俺の従順な返事を確認すると、澄玲は自分の教室へと帰っていった。緊張から解放され、再び周りがざわざわし始める。どんだけ濃い1日の始まりなんだよ。幼馴染のエッチな絵を見る、幼馴染の耳打ち、女子二人の争い、そして両者に怒られる。イベント多すぎだろ。
「めんどくさいのは真那弥くんだけじゃないんだね……さすがは幼馴染」
「お、おう」
幼馴染らしさが増したから結果オーライ……ではないな。それと他人事みたいに言ってますけど、村間さんの地雷の踏み抜き方もだいぶえぐいですからね。
まあいいや。お昼の学食はラーメンにしよう。
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