第5話 幼馴染だけの秘密っていいね
放課後。
俺はいま、同人誌の専門店にいる。周りには当然、大量の同人誌。さすがに18禁ではないが、えっちい絵もちらほら見られる。
隣の
「澄玲、こういうのが好きなの?」
ピキッと音がした。澄玲がゆっくりとこちらに顔を向ける。
「こういうの……?」
やばい、怒ってる。たしかに迂闊だった。オタクにとって自分の推しを軽んじられることは最上の屈辱。速やかに訂正せねば。
「いや、その、他意はなくてな。澄玲みたいにあんまオタクっぽくない人も来るんだなあって……。はは」
まあ、いまの彼女がオタク感0かというと微妙ではあるが。一度家に帰り、わざわざ地味なワンピースと眼鏡に着替えて合流した澄玲は、イッパンピープルに馴染めるくらいにはオーラが抑えられていた。それにしても、ナンパ防止か身バレ防止か知らないが、お忍びの芸能人くらい慎重なやつだな。
「あのね、かわいい女の子というのは神なのよ!!!」
大きな声に皆の視線が集中する。
やめて、あなたみたいに場所を選ばず推しへの愛を叫び出すような人がいるから、オタクが誤解されるのよ。……はい、そうです。この前私もカフェで幼馴染への愛を叫びました。その節は誠にごめんなさいでした。
「まあ、そうだな。かわいい女の子はいいよな。わかるぞ」
「いいえ、わかってないわ。たとえばこれを見なさい」
彼女が指したのはスク水を着た少女の絵。顔を赤らめ、涙目でこちらを見ている。はたして、これはどんなシチュなのか……妄想が膨らむ。
「真那弥にわかる? この絵に秘められた羞恥が!!!」
「いや、あんま大きな声で羞恥とか言わない方が……。まあわかりますよ。恥ずかしそうにしてかわいいですよね」
「そうなの。恥ずかしくて悶え死にそうなこの表情が……そそる。これだけでご飯3倍いけるわね」
「……お腹にたまるおかずも食べた方がいいと思います」
地味フォームの澄玲だからなんとか理解が追いつくが、学年一の美少女がこのムーブをしていたら確実に脳がバグる。なるほど、彼女の俗世での姿は意外と理にかなってるのかもしれない。
それと一つ物申したい。〇〇〇でご飯何杯いけるとか言うやつ、ご飯って単体でも普通にうまいからな。視覚情報でご飯を食べられるのはご飯自体のポテンシャルだろ。
「けど澄玲、二次元の女の子は好きなのに、ラノベはあまり読まないんだな」
「少しは読んでいるわよ。でも、真那弥が勧めるような作品はたしかにあまり好まないわね」
「なんでだよ。幼馴染嫌いか?」
「いえ、幼馴染ではなくて……男よ」
「男?」
俺が聞き返すと、澄玲は呆れたように言った。
「かわいい女の子の花園に男は邪魔。少し考えたらわかるでしょ」
「はあ。でもあなたがいま会話してるのも男なんですけど……」
「久遠真那弥はクモなの。益虫なの。わかる?」
「あ、はい」
つまり、この人にとってこの世の男はすべて虫けらというわけですね。勉強になります。
※※※
どれほど滞在していただろうか。ようやく店内の散策を終え、外に出るともう辺りは真っ暗だった。お星さま、きれいだなあ。
澄玲の持つ大きな袋には5冊の戦利品。彼女が熟考に熟考を重ね選ばれた作品たちだ。面構え、いや表紙構えが違うぜ。
「ほんとに好きなんだな。かわいい絵」
「ええ。日々癒しをもらっているわ。自分でも描いているし」
「まじ⁉ 澄玲、絵も描けんの」
「趣味の域を出ないけどね。学校に行く前に描くのが日課なの」
水上澄玲。ただのオタクではなく、創作者の側にも立つ人間だったのか。しかも登校前って……すごいな。ぎりぎりまで布団と仲良くしたい人間にとって、朝に何かをしようという発想がもう信じられない。
「今度見てみたいな」
「いやよ。あんまりうまくないし」
「そう言わずにさ。ほら、俺たち幼馴染なんだし」
「あなた、幼馴染って言えばなんでも頼みを聞いてもらえると思ってない?」
「ぎくっ」
たしかに、いまのは幼馴染というカードを雑に切りすぎたな。ちょっと反省。こういうのは、一生のお願いくらい慎重に使わないと。
「まあ、無理にとは言わないけど。俺、創作のセンスとかまったくないからさ。そういうの、ちょっと憧れるんだよ」
自分の中にあるものを表現することはとても難しい。俺も過去に何度挫折したか知れない。だからこそ、俺は彼らの創作したものを心からリスペクトし、ありがたく摂取させていただくのだ。
「……わかったわよ。家に帰ったら送るわ」
「ありがと。めっちゃ楽しみだ」
「期待するほどのものではないと思うけど」
果たして、どんな絵が送られてくるのだろうか。
……さすがに、全年齢対象コンテンツだよね?
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さっそく100pvに到達しました!
読んで頂いている皆様、本当にありがとうございますm(__)m
現在、並行してもう一作(「高校で主人公デビューをするため、志望校を下げて首席になった~なのにどうして推薦入学に俺より優秀な超絶美人がいるんだよ⁉」https://kakuyomu.jp/works/16818023212402690426)連載しておりますので、もし興味を持ってくださいましたら、そちらも読んで頂けると嬉しいです!
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