第4話 幼馴染に必要なのはツンデレではない
翌日の昼休み。
俺は教室でおにぎりを頬張りながら、いつものようにラノベを読んでいた。
お行儀は悪いが Time is money だ。少しでも幼馴染成分を摂取しておかないと。
「隣、失礼するわね」
ラノベから目を離すと、知らない別クラスの可愛い女子が横にいた。彼女はそのまま俺の隣に腰をかける。現在、学食を食べに行っている村間めぐみの席である。この女、誰だ? 俺にこんな可愛い友だちはいないぞ。そもそも友だちがいないぞ。
「あのう……どちら様でしょうか?」
「失礼ね。水上澄玲よ」
「え⁉」
水上澄玲はもちろん知っている。眼鏡をかけた地味な女だ。間違っても、いま隣に座っているような、半径3メートル以内の人間すべてを魅了する女ではない。
だがそういえば、村間は水上澄玲を『超絶可愛らしいお顔と完璧なスタイル』と称していたな。まさか、これが彼女の本当の姿なのか……?
「水上澄玲って、この間カフェで会って、週末俺の家に来たあの澄玲か?」
「そう……いいえ違うわ」
「え?」
すると彼女は声を1オクターブ上げ、アニメのぶりっ子キャラのように言った。
「もう、真那弥と私は幼稚園の時から一緒でしょ。忘れちゃった?」
「よ、幼稚園⁉」
「わあ、真那弥の今日のお昼はおにぎりなのね!」
「お、おう。澄玲の弁当は、おいしそうだな……」
「べ、別にあなたのためじゃないんだからね!」
あちゃー、こりゃいろいろ混ざってるな。2日間で何冊読んだんだよ。
そして教室中がこっちを見てめっちゃひそひそ話してる。そらそうだろ。校内一のスーパーヒロインが教室に入ってきたかと思えば、クラス一の根暗オタクに声を作って話しかけてるんだぜ。俺が傍観者でも間違いなくひそるね。
ここはガツンと、澄玲に言ってやらないといけないな。
「あのさ、澄玲」
「なに、真那弥?」
「幼馴染、舐めてる?」
俺の一言に、澄玲の口角は徐々に下がり、作り笑顔が冷たい真顔になった。
「……は?」
「お前の幼馴染はな、表面的なんだよ。芯がないんだよ。一番大事なものが抜けてるんだよ。ツンデレとか甘々とか、それはたまたま、幼馴染の性格がそうだったってだけだ。そっちに気を取られて本質がおろそかになるなど本末転倒だとわからんか」
ドンっと、澄玲が机を叩き立ち上がる。そして俺を威圧するように距離を詰めてきた。
「なら言わせてもらうけどね。あなたに借りたライトノベル、そこに幼馴染の本質なんてこれっぽっちもなかったわ。幼馴染なんて所詮、昔から知ってるだけの友だちじゃないの?」
「お前の目は節穴か? 見えんのか、二人をつなぐ信頼が」
「そんなの、別に幼馴染に限ったことじゃないわ。あなたこそ、自分の願望を投影してるだけじゃないの?」
「んだとごら」
「すとーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっぷ」
隣の席の主、村間めぐみが割って入ってきた。どうやら学食から帰ってきたようだ。
「ちょっと、人の席で喧嘩しないでよ」
「ごめんなさい。つい熱くなってしまったわ」
澄玲が肩をすくめて反省している。なんだよ、かわいいとこあるじゃん。……って、これではメインヒロインルートだ。軌道を修正せねば。
「真那弥くんもだよ」
「はいごめんなさい」
喧嘩両成敗ですものね。たとえ悪いのは澄玲でも責任を負わないとね。ああ、俺ってなんて優しいんだろ。そうだよね?
「ふっ、相変わらずだな。澄玲は」
「は?」
ぎろりと睨まれる。ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。幼馴染っぽさを出したくて調子乗りました。
「やっぱ無理なのかな。幼馴染になるなんて……」
幼馴染の『信頼』を『契約』で代替する。わかってはいたけど、過去の蓄積を別のものに置き換えるのは簡単な事じゃない。
「でもさっきの喧嘩、ちょっとだけ幼馴染っぽかったよ」
「……ほんとうか?」
「うん。少なくとも、先週知り合ったばかりには見えなかった」
村間の言葉に少しだけ慰められる。たしかに、変に気を遣う関係は幼馴染らしくない。向かっている方向は、思ったほど悪くはないのかもしれない。
「とにかく、澄玲は変にキャラを作らなくていいから。自然体で幼馴染をやってくれ」
「自然体で幼馴染というのもよくわからないけど……善処するわ」
絶対できる、とは言わないところに逆に説得力がある。まだまだ諦めるのは早いよな。
「ところで、あなたに私の男友達としてお願いがあるのだけど」
そうだった。この契約は澄玲が俺の幼馴染になると同時に、俺が澄玲の男友達になる契約でもある。さて、俺は澄玲にどんな酷いことを強要されるのだろうか……?
「なんだ? お願いって」
「今日の放課後………そ、その……」
「なんだよ」
「か、かわいい女の子が描かれた薄めの本を買いに行くのだけど……ついてきてほしいの」
可愛い女の子の薄い本。それって……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます