第3話 友だちがいなくても幼馴染がいればいいもん

 さて、晴れて幼馴染となった俺と水上澄玲すみれ、その立会人たちあいにんたる村間めぐみは、カフェを出て駅へと向かっていた。日の入りは既に終わり、辺りは段々と薄暗くなってきている。


「それで水上、幼馴染になるって具体的に何をするんだ?」

「そうね。まずはの言う『幼馴染』についてもっと知りたいわ。きっと一般的な意味ではないんでしょ? が目指す幼馴染は」


 めっちゃ俺の名前を強調してくる。そうだな、幼馴染なら名前で呼び合わないと。


「それは違うぞ……しゅ、しゅみれ。一般的ではないどころか、人類普遍の真理だ」

「あ、噛んだ」

「はあ。とにかく、真那弥が読んでいるラノベ?なるものが見たいのだけど。いくつか目を通せばイメージもわくでしょうし」


 なるほど。様々な幼馴染の事例から共通する要素を抽出しようとは……さすがは学年トップ。なかなかに頭が切れるぞ。


「それなら明日、うちに来るか」

「私は問題ないけれど、明日は休日よ? 親御さんに迷惑じゃないかしら」

「いや、大丈夫だ。むしろ俺に友だちがいたことに感動するだろうから」


 幼馴染だけを愛し、一人ラノベを読み漁っている俺を、母親はかなり心配している。家に呼ぶ友だちがいるとわかれば少しは安心してもらえるだろう。母さん、新しい幼馴染ができたよ!なんて言ったら不安が限界突破しそうだが……


「それは幸い……なのかしら」

「おう。気にせず来てくれ」

「わかったわ」


 と、俺が澄玲と約束を取り付けると、村間が恐る恐る尋ねてきた。


「あ、あたしも行っていいかな」

「村間も? どうして……はっ! もしかして、幼馴染に興味が――」

「それはない! ただ、ちょっと遊びに行きたいなーって。……いいかな?」

「まあ、別に構わんぞ」


 というわけで、俺は女子2人を家にお招きすることになったのだった。


※※※


「うちにあるラノベはこれで全部かな」

「なるほど。いろいろな幼馴染の形があるのね……」


 土曜日の午後。

 俺は2人の女を家に呼ぶという、陽の者のようなムーブをかましていた。まあ、やっていることに陽の要素はまったくないけど

 澄玲は俺がひっぱり出したライトノベルを、片っ端からぱらぱらとめくっていく。そして村間はお菓子をばりぼり食べている。


「村間、めっちゃお菓子食べるんだな」

「ご、ごめん。甘いものには目が無くて……」


 たしかに昨日飲んでいたあれも甘さがやばそうだったもんな。俺も甘いものは嫌いじゃないが、甘すぎはさすがに胃がもたれる。


「ねえ、真那弥。アルバムはあるかしら?」

「アルバム?」

「ええ。幼馴染の特徴は何となく掴めたのだけど、幼馴染に必要な情報がまだないから。写真から、真那弥の昔の思い出を知りたいの」

「それ、あたしも見たい!」

「わかった。少し待ってくれ」


 俺は机の引き出しを開け、幼少期の写真を探す。

 この短時間でもう幼馴染の概要を理解し、自ら次に必要なものを選択するとは。これは期待してもいいのか……?


「あった。これだ」


 取り出したのはアルバム、と呼ぶには薄い冊子。だが、俺のすべての写真が入ったものだ。


「え、これだけ?」


 村間が量の少なさに驚いている。たしかに村間は友だち多いし、たくさん写真とか撮っていそうだな。……別に寂しくないもん。ラノベを開けばかわいい幼馴染にいっぱい会えるもん。


「さっそく見てもいいかしら?」

「どうぞどうぞご自由に」


 これだけしかありませんけどね。

 

「学校行事の写真ばっかりだね。しかもどれも真那弥くんは小さいし」

「……仕方ないだろ。あんま目立たないんだから」


 村間の悪意なき言葉が、さっきから俺の心をざくざくとえぐる。そろそろ向こう側とつながってトンネルが開通しそう。


「この写真は表情までしっかりわかるわよ。これは公園……かしら。誰かと遊んでいるみたい。顔は見えないけど」

「ほんとだ。たぶん幼稚園の時かな」


 ほとんど覚えていないけれど、後ろに映っているターザンロープには見覚えがある。乗ってみたかったけど背が低くてできなかったんだよな。


「こうして見ると真那弥って、意外と顔が整ってるのね」

「それ、あたしも思ってた! 真那弥くん、身だしなみに気を遣ったら絶対かっこよくなると思う」

「そ、そうかな」


 やばい、顔がにやけちゃう。こんなこと言われたの初めて。


「そうよ。ぼさぼさな髪と曲がった背筋を直したら、その根暗オタク感もかなり抜けると思うわ」


 ぷっちーん。

 褒められからの落差に堪忍袋の緒が耐えられなかったらしい。根暗オタクって……おぬし、拙者を怒らせたら怖いでござるよ。


「澄玲は俺を何だと思ってるんだよ」

「幼馴染よ」

「お、おう。そうだな」


 幼馴染への適応が早すぎて、むしろこっちが置いていかれてるまである。たしかに幼馴染だからこそ、思ったことをそのまま言えるというものだ。まだまだ修行が鳴りないようでござる。 

 

 村間はさっきの公園の写真をまだじーっと見ていた。そんなおもしろいもの映ってるかな。まさか、俺の顔に見惚れてるのか……⁉ そ、それはこまる。俺には幼馴染という人が……


「な、なにか変わった物でもあったか?」

「え? あ、ううん。なんでもない。そ、それにしても真那弥くん、写真全然ないんだね。ははは」

「……どうせ友だちいないですよーだ」

「そ、そう意味で言ったんじゃ……」


 村間に限らず、陽の者は自らの何気ない一言がいかに陰の者を傷つけているかを自覚するべきだ。もちろんラノベ読むのは楽しいし充実してるよ? 幼馴染以外に興味もないよ? けどそれは、友だちがいないことをまったく気にしない強メンタルであることと同義じゃないからね!


「あ! もうこんな時間。あたし、帰って弟の面倒見ないと」

「村間、弟いるのか」

「うん、小学生が3人。すっごくかわいいよ」

「それはいいな」


 小学生はたしかにかわいいが大変だろうな。小学生の体力は無尽蔵だし、男の子ともなれば尚更だ。しっかり面倒を見ているなんて立派なものだ


「私もそろそろ失礼しようかしら。この本、借りてもいい?」

「もちろん。研究してもらえると助かる」


 だがこの時の俺は見くびっていた。

 水上澄玲の学習意欲の高さを。


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