第7話 幼馴染+メイド服は贅沢過ぎん?

 昼休みである。

 俺は券売機で塩ラーメンを選び、列に並んでいた。

 学食、あんま好きじゃないんだよなあ。人が多くてガヤガヤしてるから、俺のボソボソ声が通らないんだもん。ラーメンは好きだからいいけど。 


「真那弥は塩にしたのね」

「まあな」


 個人的に塩が一番麺自体の味がわかる気がしている。だから何だという話だが、通っぽくない? 澄玲は味噌にしたようだ。

 列が進み、券とラーメンの引き換えに成功したので席を探す。澄玲といるとどうしても視線を感じて落ち着かない。早く座りたいので、ちょうど空いていた端のテーブルへ速やかに移動した。

 ふう。ようやくラーメンがすすれるぜ。


「いただきます」


 箸を割り、麺を持ち上げる。おお、細麺だ。俺の好きなやつ。

澄玲も同じように麺を持ち上げると、音立てずにラーメンをすすっている。すげえ、汁もまったく飛んでいないや。育ちの良さが出ている。いやまあ、それは良いんだけど……


「なーんか違うんだよな~」

「そうね。たしかに少しスープが薄いわ」

「ああ、言われてみればそうかも。いや、でもこれくらいの方が麺の味がわかるし……ってラーメンの話じゃなくて」

「ラーメン以外に何の話があるのよ」

「幼馴染の話だよ! まだ足りない気がするんだよなあ」


 互いに遠慮せず意見を言えるところは、たしかに幼馴染らしいのかもしれない。だが、それは幼馴染に限ったことではない。それに、俺は澄玲の行動にいちいち新鮮味を感じてしまっている。たとえば麺をすする際、髪を後ろに流す動きに色気があるところとか。


「そうかしら。それなりにうまくやってると思うけど」

「そうなんだけどさ。俺、そもそも澄玲のことほとんど知らないんだよな。才色兼備なすごい人で、オフの時は地味で、あとエッチな絵が好きなこ――」


 俺の口が美少女の手によってふさがれた。だ、だめよ。異性の口に触れるなんて。幼馴染でも許されない……。


「学校でその話はするなと言ったでしょ!」

「ごめんなさい」


 たしかに口が軽すぎだ。反省しよう。悪いことは悪いと素直に反省できるのが、俺の数少ない良いところなのである。


「だけどたしかに、あなたが私のことをあまり知らないというのは事実ね……」


 澄玲は箸を置き、2、3秒考えたあと、こう尋ねた。


「私の家、来る?」


※※※



 そしていま。俺は澄玲宅の前にいる。

 学校が終わると、そのままこの場所に訪れたのだ。

 正直かなり緊張している。たしかに以前、俺は澄玲を家に呼んだ。でもあの時は3人だったし、2人となるとまた意味合いが変わってくるような……。ま、幼馴染だしいいか。


「お、おじゃま致します」

「そんな固くならなくていいわよ。一人暮らしなの」

「そ、そうか」


 親御さんへの挨拶は気が重かったので、少し肩の荷が下りた気がする。それにしても一人で暮らすにしてはかなりでかい場所だな。


「実家が学校から遠いから、ここに住ませてもらっているの」

「ああ、そうなのか……ん? ならどうしてこの学校に? 遠くからわざわざ通うほどの魅力、うちの学校にあるか?」


 自分が在籍する学校を悪く言う気はないが、レベルもこの辺だと中の上だし、設備が整っているわけでもない。澄玲くらい優秀な人間が、アクセス以外で選ぶ理由が見つからない。


「……周りのお店が好きなのよ」


 店っていっても、別にそこまで都会じゃ……あっ。同人誌か! たしかに、この辺だと一番大きい店がある。


「って、同人誌基準で学校選ぶやつがいるかよ」

「なんでもいいでしょ」


 とはいえ、たしかに俺も、もし本物の幼馴染がいたら迷わず同じ学校を選ぶな。どんな手を使ってでも。それと同じ……ではないな。

 そんなやり取りをしながら、俺は澄玲の部屋に入った。かわいい女の子のポスターがそこら中に貼られている。天井にも。まさに女の子にという表現がしっくりくる。


「澄玲、こんな部屋で落ち着くか?」

「可愛い女の子を眺めて過ごす以上に、幸せなことがあると思って?」


 あ、こいつだめだ。限界オタクってやつだ。俺も人のこと言えないけど。


「というわけで、家に呼んだわけだけど、特に見せるものもないわね」

「部屋に入った時点で、お前の性癖は十二分に見せられたけどな」

「アルバムは実家だし、そもそもたいして写真もないし」


 あまり俺の話は聞いていないようだ。やっぱ女の子に頭を支配されてるのでは……?


「あ、そうだわ!」

「お、何か思いついたか」

「ええ、普段の私を見せてあげる。少しドアの外で待ってて」


 そして部屋を出されて10分。俺は正座で待機していた。人の家行った時、主がその場にいないときが一番落ち着かなくない?


「お待たせ。入っていいわよ」


 扉を開けると、そこにいたのは……メイドさんだ。しかも、二次元でも見たことがないほど、かわいいを極めている。


「そ、その格好は……」

「家着よ」

「いえぎぃ⁉」


 思わず変な声が出た。いやいやいや、それが家着というのは……ここ、ヨーロッパのお屋敷とかじゃないよな?


「かわいいものを着ると気分が乗るでしょ? だから家ではこれ」

「なるほど……しかもこれ、ド〇キで売っているようなペラペラのやつじゃないぞ」

「業者に発注しているからね」

「いやガチかよ」

 

 たしかにこういうのは、金をケチると中途半端なものしかできないとは聞くが。


「けど、そんなにかわいいものが好きなのに、外歩くときは地味な格好なんだな」

「言ったでしょ。あまり目立つのも考えものなのよ。男の人に声かけられるし。本当ならかわいい服で出かけた方が楽しいんだけどね」


 顔が良すぎるというのも考えものなんだな。たしかにここまでメイド服を着こなせる人間はなかなかいない。陽の者は声をかけるだろうな。


「それなら、俺と出かけるか?」

「あなたと?」

「ああ、隣に男がいたら、何を着ててもナンパはされたりはしないだろ」

「そう、かしら」

「それに幼馴染なんだからさ。別に一緒に出かけたって何も問題ないし」

「うーん……そうね。わかったわ。けどさすがにコスプレというのはまずいから……少し玄関で待っていてもらえるかしら?」


 こうして、俺は再び待たされた。今度は外で。

 さて、いったいどんな澄玲が現れるんだろう……?


――――――――――――――――

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