04 マイペースなケンちゃん-01
神社に祀られている稲荷や子ぎつねたちに導かれるように、東堂とランチをすることになった。こんな休日も、たまにはいいのだろう。
とりあえず、彼に言われたように北口から神社を出た。目の前には、お初天神商店街のアーケードが左右に広がっている。
向かって右側を歩いていく。さほど広くはない道幅の両端に居酒屋や、様々な料理店が立ち並んでいる。たまに、そこから伸びる脇道があるけれども、そっちもやっぱりスナックが入居している雑居ビルが見えたりやら、中華料理店が建っていたり。とにかく喫茶店以外なら、なんでもある印象を受ける。
「繁華街だものねえ」
お好み焼き屋、焼き鳥屋。カラオケボックスも、ラーメン屋も串カツ屋も。ライブハウスもある。狭い場所に、みちみちっと娯楽が詰まっている。
わたしは正直言って、夕刻のお初天神アーケード街を歩きたいと思ったことがない。仕事が終わってから露天神社北口の裏参道を出ると、速攻で「居酒屋どうですか」「飲む場所は決まっていますか」「カラオケいかがですか」などと声を掛けられる。ひとりで歩いているときはいいが職場の同僚と駅まで一緒に帰るときなどは、彼らの恰好の餌食に見えるらしい。
通勤する人、飲み屋に向かう人、「うちの店に来てください」と呼びかける仕事の人たちがアーケード下、道幅いっぱいに右から左から溢れかえる……その、とてもゴミゴミした空気が苦手だ。
さすがに今は昼間なので、客引きの人は誰もいない。それでも商店街の中にはランチタイムを設けている店がいくつもあるので、それを目当てにネームプレートを下げた人などが行きかっている。また、近くにビジネスホテルもあるせいか、キャリーバッグを転がしている外国人観光者も何組か視界に入る。
「こんなところに『脚のポスター』なんて、あるんだ?」
東堂くんが言っていたのは「お初天神商店街の、もう一個の入り口近くにある」だったよね……まあ、このまま直進していけばいつかは商店街の出口に着くから、それでわかりますよね。
てくてく歩いていくと、パチンコ店が見えてくる。ほんの少しだけ、道幅が広くなったような気がする。道路や信号の色、こちらに渡ってくる人の群れで商店街の出入り口が近くなったことがわかる。
「あー、あれ」
思わず、声が出てしまった。
道の右側へと、視線が釘付けになった。
超ミニスカ女性の太腿からつま先まで、すらりと伸びたかたちのいい脚だ。それが、丸い柱の上から下まで占領している。スカート裾はフリルになっていて、風が吹くたびにチラチラと揺れている。
フィットネスクラブの宣伝にしては、大胆だなあ。
脚のポスターの向かい側にもパチンコ屋があった。ここに入って、待ち合わせ時間まで暇潰しするのもいいかも……と思ったりする。入社当時に営業の仕事に配属されたときに、気づいたことがあったから。大手チェーンのパチンコ店は、化粧室の清掃が行き届いているのだ。それで、結構のんびりできたりもする。
ふと、パチンコ店の中にコーヒーの自動販売機があればいいなと思う。商店街からの出口を見つけたことで、ちょっと気がゆるんだのかもしれない。せっかく時間があるのだから、ゆっくりと腰かけてくつろぎたいなと思ったのだ。
「けど、パチンコ店だったら『ゆっくり』なんて無理よね……」
ひとりごちたとき、喫茶店の存在に気がついた。アーケード内の大通り、おそらく唯一の喫茶店だ。
脚ポスターのすぐ横にフィットネスクラブがあるのだが、そのクラブ入口の、ずっと奥。たしか神戸が発祥の、にしむら珈琲店という名前だったと思う。ちょっとお値段は張るけれども、それに十分に見合うだろう美味しいコーヒーとケーキのお店だ。
ああ、よかったー。あそこで時間を潰しながら、東堂くんを待とう。そこならば、うちの会社のひとたちも昼休憩に立ち寄ることもなさそうだ。
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